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第36章 開店!


⸻


 ついに――その日がやってきた。


 朝早くから「異世界食堂」の前には、人だかりができていた。

 店の看板には、リナが丁寧に描いた「ごはんと笑顔」の絵と、手書きの文字が掲げられている。


 扉の向こうでは、美月が最後の確認をしていた。

 メニューは絞りに絞った。

 ・ふっくら白パンと野菜スープのセット

 ・煮込みハンバーグ

 ・焼き鳥丼

 ・甘味はプリン


 「これなら、庶民にも手が届く値段にできる」

 美月は深呼吸した。

 カイがにやりと笑い、リナが「準備オッケー!」と両手を挙げる。


「じゃあ……開店します!」


⸻


 扉を開けた瞬間、押し寄せる人の波。

 冒険者のごつい男たち、働きに出る前の庶民、そして孤児院の子どもたちまで駆け込んでくる。


「姉ちゃん! あのシチュー食べに来たぞ!」

「焼き鳥ってのが気になってよ!」

「プリンって何だ? 甘いのか?」


 席が瞬く間に埋まり、カイとリナは必死に案内と注文取りをする。

 厨房では、美月がフライパンを振り、鍋をかき回し、オーブンの火加減を調整する。


 ――ジュワッ。

 ハンバーグの肉汁が弾け、ソースが香ばしい匂いを放つ。


「はい! 焼き鳥丼二つ! スープ三つ!」

「プリン追加で!」


 厨房に飛び交う声。

 汗をぬぐいながらも、美月は不思議と楽しかった。

「忙しいけど……これが“お店を持つ”ってことなんだ」


⸻


 食堂の中は次第に笑い声で満たされていった。

 スープをすすって「うまい!」と叫ぶ冒険者。

 丼をかき込んで「これなら力が出る!」と笑う労働者。

 プリンを初めて口にした子どもが、目を丸くして叫んだ。

「な、なにこれ!? とろける!」


 誰もが幸せそうに食べている――その光景に、美月の胸が熱くなる。


⸻


 だが、盛況には“影”もつきものだった。


 昼過ぎ、食材が底を尽き始める。

「美月! 肉がもう残り少ない!」

「卵もあと二つしかないよ!」


 想定をはるかに超える来客数。

 このままでは夜の営業どころか、夕方すら持たない。


「どうするの……?」

 一瞬、不安が胸をよぎったその時――


 グレンが飛び込んできた。

「追加の食材を持ってきたぞ! 市場の連中が“あんたの店に協力する”って張り切ってな!」


 背後には荷車を押す商人や農民たち。

 山のような野菜や肉、卵が運び込まれる。


「よしっ、仕込み続行だ!」

 美月はすぐに包丁を取り、次の料理に取りかかった。


⸻


 夕暮れになっても店は人であふれていた。

 外まで漂う香りに惹かれて、初めて店を知った客も並び始めている。


 その光景を見て、リナが涙ぐみながらつぶやいた。

「……すごいよ、お姉ちゃん。みんな、美月お姉ちゃんの料理を食べに来てる」


 カイも腕を組んで笑う。

「この街に、新しい名物が生まれたな」


 美月は少し照れながらも、胸の奥から込み上げる思いを抑えきれなかった。

「ありがとう……。でも、これは私ひとりの力じゃない。みんなで作った食堂なんだ」


 その言葉に、リナもカイも大きくうなずいた。


⸻


 夜――ようやく店を閉めたとき。

 厨房のテーブルに、残ったパンとスープを並べ、みんなで腰を下ろした。


「ふぅ……」

 美月が深呼吸すると、自然に笑みがこぼれた。

「疲れたけど、最高の一日だったね」


「うん! また明日もやろう!」

 リナが無邪気に言う。


 美月はその言葉を聞きながら、心の中で静かに決意した。

――この食堂を、ずっと守っていこう。

 ここはもう、私たちの居場所なんだから。

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