第31章 薬膳料理の開発 ― 食べることで病に抗う
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朝焼けが差し込む薬師の工房で、美月は大きな木のテーブルの前に立っていた。
薬棚には乾燥させた薬草の束、奇妙な茸、透明な瓶に漬け込まれた魔獣の角や根っこが並ぶ。
その中から薬師・マルセラが数種類を取り出した。
「この《ルナ草》は熱を鎮める力がある。ただし苦味が強い」
「この《銀茸》は体力を補う。だが加熱を間違えると毒になる」
「こちらの《紅花の実》は血流を整えるが、強すぎると身体を壊す」
次々と差し出される素材に、美月は息をのむ。
(……これを料理に? まるで調合師みたい。でも、きっとできる。だって料理だって科学だもの)
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まずはルナ草の葉を刻み、鶏肉と一緒にコトコト煮込む。
鍋からは独特の青臭い香りが立ちのぼり、工房の弟子たちは顔をしかめた。
「く、苦そうだな……」
「とても食べ物には……」
美月は苦笑しつつ、隠し味に蜂蜜を加える。さらに刻んだ玉ねぎをじっくり炒め、甘みを引き出してスープに混ぜると、次第に香りがまろやかに変わっていった。
「どうぞ、味見してみてください」
恐る恐る口にしたマルセラの弟子は目を見開いた。
「……苦味が、消えている? いや、ただ消えたんじゃなくて、体にすっと染みわたるような……」
マルセラは満足そうに頷いた。
「これは……ただの料理ではない。薬効を壊さず、美味に昇華している」
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次に挑んだのは《銀茸》だった。
スープにそのまま入れるとえぐみが強すぎる。
美月は干して粉末にし、小麦粉と合わせて団子の衣にした。
油で軽く揚げると、外は香ばしく、中はふんわり。
リナが口にした時を想像しながら、美月はそっとかじった。
「……うん、これなら栄養もあって、食欲をなくした時でも食べやすい」
マルセラは苦笑した。
「あなた、本当に料理人なのかしら? いや、だからこそ我々にはできない発想をするのだろうな」
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こうして幾つもの試作を重ねた。
ルナ草と鶏肉の滋養スープ。
銀茸入りの団子揚げ。
紅花の実を煮詰めたシロップを少量加えた温かい薬膳粥。
机の上には、異世界と現代知識が混じり合った「薬膳料理」が次々と並んでいった。
香りをかいだだけで、体が温まりそうな気配が広がる。
それは薬でもあり、食卓を彩る一皿でもあった。
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「これなら……リナを救える」
美月は拳を握りしめた。
だがマルセラは厳しい表情を崩さない。
「料理だけで治るとは思わぬこと。薬と併用し、長く続けてこそ意味がある」
「わかっています。それでも……私は料理で彼女を支えたいんです」
その声には、決して揺らがない決意があった。
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夜。
孤児院の寝室で、美月はリナの口にスプーンを運ぶ。
ルナ草入りの滋養スープを少しだけ飲み込んだリナは、目を細めた。
「……あったかい……優しい味……」
そのかすかな笑みを見て、美月の胸は熱くなる。
「絶対、治るから。約束するよ」
リナの小さな手を握りながら、美月は改めて誓った。
――料理で命を支える。今度こそ、大切な妹を守り抜くために。




