↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
30/41

第30章 美月の絶望と恐怖


⸻


 夜の孤児院はしんと静まり返っていた。

 子どもたちの寝息が響く中、美月はリナの枕元に座り続けていた。

 額に浮かぶ汗を拭き、少しでも呼吸が楽になるようにとタオルを絞る。


「お姉ちゃん……」

 か細い声に、心臓が締めつけられる。

 リナの頬はいつもより蒼白で、手も冷たい。


「大丈夫だよ。私がついてるから」

 必死に笑みを作るが、その裏で震えは止まらなかった。


(……また、同じなの? 前の世界みたいに、最愛の妹を、また失うの?)


⸻


 美月の頭の中で、忌まわしい記憶が何度もよみがえる。

 白い病室、薬の匂い。

 弱っていく妹が「お姉ちゃん」と微笑み、二度とその手を握り返さなくなった日のこと。


 あの時の絶望が、喉の奥から込み上げてくる。

 胸が苦しくて、呼吸が荒くなる。


「嫌だ……嫌だよ……! 私は、二度と同じ後悔はしたくない……!」


 涙が止まらない。

 必死で抱きしめる腕の中で、リナの体温は弱々しく、それでも確かにそこにある。


⸻


 翌朝、薬師が診察に訪れた。

「進行は遅いですが、普通の療法では持ちこたえられないでしょう」


 重い言葉に、美月は立ち尽くす。

 高価な霊薬を買う金はない。

 ギルドや貴族に頼るか? だが彼らに借りを作れば、リナや孤児院が利用されるかもしれない。


(どうすれば……どうすればいいの……?)


 迷いの渦に呑まれ、息が詰まりそうになる。

 だが同時に、心の奥から小さな声が響いた。


――「食べ物で支えてくれた、お姉ちゃんのごはんのおかげで、私は元気になれるの」


 それは、リナの笑顔と、前世の妹の言葉が重なった幻聴のようだった。


(そうだ……私は料理人。私にできることは、料理しかない……!)


⸻


 決意を胸に、美月は薬師に頭を下げる。

「どうか、薬草や体に効く素材を教えてください。調合は無理でも……料理に活かせます」


 薬師は驚いたように目を瞬かせ、やがて深く頷いた。

「……あなたの覚悟、しかと受け取りました。食と薬は本来、表裏一体。試してみる価値はあるでしょう」


⸻


 それでも不安は消えない。

 リナの枕元に戻ると、美月はその手を強く握った。


「絶対に助けるから。今度こそ、私は諦めない」


 それは、祈りであり、誓いだった。


 ――だがその裏で、不穏な影がじわりと迫っていた。

 リナを「駒」として狙う権力者たちが、動き出そうとしていたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。