第30章 美月の絶望と恐怖
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夜の孤児院はしんと静まり返っていた。
子どもたちの寝息が響く中、美月はリナの枕元に座り続けていた。
額に浮かぶ汗を拭き、少しでも呼吸が楽になるようにとタオルを絞る。
「お姉ちゃん……」
か細い声に、心臓が締めつけられる。
リナの頬はいつもより蒼白で、手も冷たい。
「大丈夫だよ。私がついてるから」
必死に笑みを作るが、その裏で震えは止まらなかった。
(……また、同じなの? 前の世界みたいに、最愛の妹を、また失うの?)
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美月の頭の中で、忌まわしい記憶が何度もよみがえる。
白い病室、薬の匂い。
弱っていく妹が「お姉ちゃん」と微笑み、二度とその手を握り返さなくなった日のこと。
あの時の絶望が、喉の奥から込み上げてくる。
胸が苦しくて、呼吸が荒くなる。
「嫌だ……嫌だよ……! 私は、二度と同じ後悔はしたくない……!」
涙が止まらない。
必死で抱きしめる腕の中で、リナの体温は弱々しく、それでも確かにそこにある。
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翌朝、薬師が診察に訪れた。
「進行は遅いですが、普通の療法では持ちこたえられないでしょう」
重い言葉に、美月は立ち尽くす。
高価な霊薬を買う金はない。
ギルドや貴族に頼るか? だが彼らに借りを作れば、リナや孤児院が利用されるかもしれない。
(どうすれば……どうすればいいの……?)
迷いの渦に呑まれ、息が詰まりそうになる。
だが同時に、心の奥から小さな声が響いた。
――「食べ物で支えてくれた、お姉ちゃんのごはんのおかげで、私は元気になれるの」
それは、リナの笑顔と、前世の妹の言葉が重なった幻聴のようだった。
(そうだ……私は料理人。私にできることは、料理しかない……!)
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決意を胸に、美月は薬師に頭を下げる。
「どうか、薬草や体に効く素材を教えてください。調合は無理でも……料理に活かせます」
薬師は驚いたように目を瞬かせ、やがて深く頷いた。
「……あなたの覚悟、しかと受け取りました。食と薬は本来、表裏一体。試してみる価値はあるでしょう」
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それでも不安は消えない。
リナの枕元に戻ると、美月はその手を強く握った。
「絶対に助けるから。今度こそ、私は諦めない」
それは、祈りであり、誓いだった。
――だがその裏で、不穏な影がじわりと迫っていた。
リナを「駒」として狙う権力者たちが、動き出そうとしていたのだ。




