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第27章 戦場に届く湯気 ― 料理は兵を救う力

 王都で甘味が評判となり、街や貴族の間で名が知られるようになった美月。

 だがある日、ギルドから届いた依頼はこれまでとはまったく違うものだった。


「前線の駐屯地で兵士たちが疲弊している。食料はあるが、塩漬け肉や乾パンばかりで士気が下がっている。――君の料理で、彼らを立て直してほしい」


 書面にはそう記されていた。


 美月は眉を寄せる。

(戦場に、料理を? ……けれど、私の料理で誰かを救えるなら……!)


 彼女は決意を固め、リナや仲間たちと共に馬車へ乗り込んだ。


⸻


 数日後。

 前線に近い小さな砦に到着すると、そこには疲れ果てた兵士たちの姿があった。

 甲冑は泥にまみれ、顔には隈が刻まれている。


「おい……新しい補給物資か?」

「いや、女と子ども……? まさか、この子が俺たちの腹を満たすってのか?」


 訝しむ兵士たちの視線。

 しかし美月は一歩も引かず、真っ直ぐに答える。

「はい、私の料理で、皆さんに力を取り戻していただきたいんです」


⸻


 砦の倉庫に案内されると、中は乾燥肉、塩漬け魚、硬い黒パン……どれも保存には優れているが、味気なく栄養も偏っている。


「これだけあれば、栄養のバランスを整えることはできます。あとは工夫しだいです!」


 美月は鍋を取り出し、まずは乾燥した根菜を水に浸して戻し、刻み、肉と共に炒め始めた。

 そこへリナが玉ねぎを刻みながら手を差し伸べる。

「お姉ちゃん、炒めたら甘くなるんだよね?」

「そうよ、リナ。しっかり焦がさないようにね」


 香ばしい匂いが砦の中に広がっていく。


⸻


 大鍋でぐつぐつ煮えるのは――塩漬け肉を活かした「肉と根菜のポトフ」。

 さらに、乾パンを砕いて牛乳と混ぜ、ハーブを加えて焼き上げた「即席ハーブパン」。


 兵士のひとりが鼻をひくつかせ、唾を飲み込む。

「……こんな匂い、何年ぶりだろうな」


 やがて料理が完成し、配膳が始まる。

 最初は警戒していた兵士たちも、一口食べると――


「……う、うまいっ!」

「肉が柔らかい……! 塩気も優しくなってる……」

「パンが……パンがふわふわしてる!」


 次々と歓声が上がり、砦全体が笑い声で満ちた。


⸻


 食後、兵士たちはまるで別人のような顔をしていた。

 血色が戻り、背筋を伸ばし、目には光が宿っている。


「嬢ちゃん……いや、美月殿! お前の料理は、戦う力そのものだ!」

「俺たちの心まで温めてくれた……これなら、また前を向ける」


 将校が深く頭を下げた。

「君の料理は、兵を救った。報酬はもちろん支払うが、それ以上に……この恩は忘れない」


⸻


 その夜、美月は焚き火の前で仲間たちに呟いた。

「料理って……ただ食べるためのものじゃないんだね。心や勇気まで、与えられるなんて」


 リナが寄り添いながら頷く。

「お姉ちゃんの料理はね、魔法みたいなんだよ。だから、みんな笑顔になるんだ」


 美月はその言葉を胸に刻み込む。

(前世で守れなかった妹の笑顔を……今度は、この世界で、もっとたくさんの人に広げたい)


 その決意が、彼女を次の舞台――さらに大きな試練へと導いていくのだった。

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