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第26章 甘味が広がり、王都で話題になる

 孤児院で生まれた小さな甘味――プリンと蜂蜜ケーキは、子どもたちの心に確かな希望を灯した。

 そしてその噂は、意外なほど早く街へと広がっていった。


「孤児院で、黄金に光る“ぷるぷるのお菓子”を食べたって聞いたぞ!」

「口に入れた瞬間にとろけるらしい」

「蜂蜜を使った焼き菓子もあるって……」


 噂を耳にした庶民たちは好奇心に駆られ、やがて美月のところへ押し寄せてくる。


⸻


 その日も、美月の宿の前には行列ができていた。

「美月さん! 例のプリンは今日もあるんですか!?」

「子どもに食べさせたいんです、どうか!」


 美月は困りながらも笑った。

「ごめんね、卵や牛乳に限りがあるから、一度にたくさんは作れないの。でも、順番にちゃんとみんなの口に届くように工夫するね」


 彼女は限られた食材を大切に使いながら、蜂蜜や果物を加えたアレンジ菓子を試し始めた。りんごを煮詰めた蜜で彩ったプリン、香ばしく焼いた木の実を散りばめたケーキ。


「すごい……毎回、少しずつ違う味になってる」

「飽きないどころか、もっと食べたくなる!」


 小さな工夫が、人々の心をつかんで離さなかった。


⸻


 やがてその評判は、貴族たちの耳にも届く。

「王都に、甘味を作る妙な娘がいるらしい」

「ただの菓子ではない。人の心を癒すほどの味だとか」


 ある日、美月のもとに立派な馬車がやって来た。降りてきたのは、豪奢な衣装をまとった商人風の男。

「お嬢さん、あなたが例の菓子職人か? ぜひうちの屋敷で、そのお菓子を披露していただきたい」


 突然の申し出に美月は驚き、しかし孤児院を支える資金になると考え、引き受けることにした。


⸻


 屋敷に招かれた美月は、緊張しながらも台所に立つ。

 並んでいるのは見慣れない高級食材――濃厚なミルク、芳香のある果実、上質な小麦粉。

(これだけそろっているなら、もっといろんな甘味を再現できる……!)


 美月はプリンに果実のソースを添え、蜂蜜ケーキには生クリーム代わりのふわふわ乳泡をのせた。


 試食した貴族たちは、一口食べた瞬間に表情を変える。

「……これは!」

「舌に絡みつくような濃厚さ、なのに後味は爽やか……!」

「まるで夢を食べているようだ!」


 屋敷中に驚きと歓声が満ちた。


⸻


 その日の晩餐会の目玉は、料理ではなく美月の菓子だった。

 そして参加した貴族の一人が、深くため息をつきながらつぶやく。

「これを王都中に広めたら……人々は幸せで満ちるだろうな」


 こうして、美月の菓子は王都で一大ブームを巻き起こす。

市場では「プリン風のお菓子」が真似され、子どもから大人まで甘味を求める声が絶えなくなった。


 孤児院の子どもたちが笑顔で駆け寄ってくる。

「美月お姉ちゃん! プリン、町でもすごい人気だよ!」

「ぼくたち、ちょっと誇らしいんだ!」


 美月は微笑みながら、その頭をなでた。

(甘いひとくちが、こんなにも多くの人を笑顔にできるなんて……)


 彼女の心の奥にある願い――「妹に食べさせてあげたかった甘味を、この世界で広めたい」。

 それは、今まさに現実となり始めていた。


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