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第25章 甘い奇跡のひとくち

 孤児院の子どもたちが元気を取り戻し、笑顔で走り回るようになったある日、美月はふと市場の一角で足を止めた。


 籠の中には、茶色い殻に覆われた卵。

「……卵、売ってるんだ」

 高価な食材だが、村や街での料理の評判が広がったことで、美月の手元にも少しずつ余裕ができていた。


 手に取った瞬間、心の奥底に鮮やかに蘇る記憶。

(プリン……ケーキ……妹と一緒に食べた、あの甘い時間)


 胸の奥がぎゅっと締めつけられる。妹に食べさせてあげられなかった甘いごちそう。それを、この世界の子どもたちに――。


⸻


 孤児院の台所に卵と牛乳、砂糖代わりの蜂蜜を持ち込むと、子どもたちは首を傾げた。

「それ、どうやって食べるの?」

「そのまま焼くの?」


 美月はにっこり笑って答える。

「今日はね、特別なおやつを作るんだよ。みんながまだ食べたことのない“甘い魔法”!」


⸻


 まずは卵と牛乳を合わせ、蜂蜜を溶かしながらよく混ぜる。鍋に少しの水と追加の蜂蜜を入れ、焦げ付かないように煮詰めていくと――

「わぁ……いい匂い!」

 黄金色に変わったカラメルが鍋底を覆い、ほろ苦い香りが漂う。


 陶器の小皿にカラメルを流し込み、その上に卵液を注ぐ。子どもたちは不思議そうに見つめている。

「これが……どうなるの?」

「ただの液体じゃん!」


 美月は笑いながら、鍋にお湯を張り、皿を並べて蒸し始めた。

「お楽しみ。ちょっと待っててね」


⸻


 待ち時間の間に、もうひとつ挑戦。

 麦粉をふるいにかけ、卵と蜂蜜を混ぜてふんわりとした生地を作る。炭火のオーブンに入れると、じわじわと膨らんでいく。

「わぁ! 膨らんでる!」

「ふしぎだー!」

 子どもたちは目を丸くして跳ね回る。


 そう、これは蜂蜜ケーキ。砂糖はないけれど、甘みは十分だ。


⸻


 そして数十分後――。

 蒸し上がったプリンの皿を取り出し、ひとつをスプーンですくって見せた。ぷるん、と揺れる黄金色の甘味に、子どもたちの目が釘付けになる。


「これが……おやつ?」

「食べてもいいの!?」


「もちろん! いただきます、ってしてね」


 恐る恐るスプーンを口に運んだ最初の子が、次の瞬間、目を大きく見開いた。

「……あまいっ!! とろとろしてる! 口の中で溶けるよ!」


 周りの子どもたちも我先にとプリンを口に運び、歓声が次々と上がった。

「なにこれ! こんなの食べたことない!」

「甘いのに、優しい味がする……!」

「幸せって、こういうのなんだ!」


 蜂蜜ケーキも焼き上がり、ふわふわの食感と甘さが子どもたちをさらに夢中にさせた。


⸻


 食べ終えた子どもたちは、笑顔で美月に抱きつく。

「美月お姉ちゃん、ありがとう!」

「こんなに幸せなの、初めてだよ!」


 院長も静かに涙をぬぐっていた。

「この子たちに、甘いものを食べさせてあげられるなんて……夢のようだ」


 美月は子どもたちの頭を撫でながら、胸の奥に温かな炎が灯るのを感じていた。

(妹に食べさせられなかった分、私はこの世界で、たくさんの子に幸せを届けたい)


 それは単なる料理ではない。甘い一口が、心を癒し、生きる希望を与える。

 美月にとって、菓子作りはただの挑戦ではなく――新しい使命の始まりだった。


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