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第24章 節約ごはんで満ちる食卓


 王都の孤児院は、石造りの古い建物だった。木製の扉を開けると、窓から差し込む陽射しに照らされて、埃が舞うのが見える。細いベッドに寝転がる子どもたち、外で小石を蹴りながら遊ぶ子どもたち。だが、その笑顔はどこか力なく、痩せこけた腕や腹が彼らの現状を物語っていた。


「……やっぱり、食事が足りていないのね」

 鍋に残っていたのは、ほとんど味のない麦粥。塩さえも希少品のこの世界では、ただ茹でただけの麦と水でお腹を満たすしかない。


 孤児院の院長である老女は、美月に深々と頭を下げた。

「この子たちに、せめて腹いっぱい食べさせてやりたいのだけれど……寄付も少なくてね」


 胸が締めつけられる。前世でも妹にご飯を食べさせられなかった後悔を抱える美月にとって、この光景はあまりにも耐えがたかった。


「大丈夫です。工夫すれば、安くても栄養のあるごはんが作れますから」

 美月は笑顔を返すと、すぐに買い出しに向かった。


⸻


 市場で選んだのは、決して高級なものではない。乾燥豆、根菜の端切れ、少し傷んだ野菜、そして大量の麦粉。肉は骨付きの安い部位をいくつか。庶民の食卓に並ぶ“余り物”に近い食材だ。だが美月の目は輝いていた。


(この世界では見向きもされないものでも、工夫すれば十分ごちそうになる!)


⸻


 孤児院の台所に戻ると、子どもたちが集まってきた。

「ねぇ、美月お姉ちゃん、今日のごはんはなぁに?」

「お肉、ある?」

 不安そうな声に、美月は力強くうなずいた。

「みんなで力をつけようね。さぁ、一緒に手伝って!」


 まずは大鍋に骨付き肉と根菜を放り込み、じっくりと煮込む。出汁が染み出す間に、豆を水に浸し、火を通してペースト状に潰す。麦粉を練って平らに延ばし、豆のペーストを混ぜて小さなパンを形作った。


「これ……ただの麦パンと違って、豆で栄養も増えるんだ」

「へぇー! お姉ちゃん、すごい!」


 子どもたちの目が輝く。


 スープの鍋からは、香ばしい匂いが立ち上る。塩は少なめに、代わりに刻んだ香草で香りを加える。さらに野菜を細かく刻んでとろみを出すことで、少量でも満腹感を得られるよう工夫した。


 仕上げは、大鍋に残った骨付き肉をほぐし、小さなコロッケ風に。豆ペーストと混ぜて丸め、少しの油で揚げる。じゅわっと弾ける音に、子どもたちの目がさらに大きくなった。


⸻


「できたよ! 今日は“栄養たっぷり豆スープ”と、“豆コロッケ”、それから“豆入りパン”!」

 木のテーブルに並んだ料理は、決して豪華ではない。けれど、立ち上る香りと温もりは、心を満たす力に溢れていた。


 子どもたちは一斉にスプーンを手に取り、熱々のスープを口に含む。

「……あったかい!」

「野菜が甘い! お肉の味もする!」

「コロッケ、外がカリカリで中がふわふわだ!」


 最初は遠慮がちに口をつけていた子も、次々に笑顔を見せ始めた。痩せた頬がほんのり赤らみ、光のなかった瞳が輝きを取り戻していく。


 院長は涙をぬぐいながら、震える声で呟いた。

「……ありがとう。本当にありがとう、美月さん」


⸻


 食事を終えた後も、子どもたちは美月のそばを離れなかった。

「また作ってくれる?」

「美月お姉ちゃんがいれば、ぼくら元気になれる!」


 その言葉に、美月は胸を熱くしながらも、決意を固める。

「ええ、また作るよ。でも……次はもっと工夫するから。みんなで元気になって、未来を変えていこうね」


 節約ごはんでも、愛と工夫で食卓を満たすことはできる。

美月の作った温かな料理は、孤児たちにただ栄養を与えただけでなく――生きる希望を取り戻させたのだった。


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