第23章 王都の孤児院を訪ねる
ギルドでの料理対決から数日。美月たちは街を歩いていると、ふと人だかりに気づいた。
賑やかな市場の裏手で、子どもたちが列を作っている。列の先には、みすぼらしい服を着た修道女が、鍋から薄いスープをよそっていた。
「……水みたい」
リナがぽつりとつぶやく。鍋から漂ってくる匂いは、ほとんど香りらしいものがなかった。
よそわれたスープを受け取った子どもたちは、笑顔を見せるものの、その瞳はどこか寂しげだった。
修道女は必死に励ますように笑っていたが、鍋の底はすでに見えている。
「……あれは?」
カイが小声で尋ねると、通りがかりの商人が答えた。
「王都の孤児院さ。貧しいもんでな、日々の食事はこんな具合だ」
胸が締めつけられるような感覚に、美月は思わず足を止めた。
(前世でも、妹と一緒に……お腹を空かせながら、それでも笑い合って食べたことがあったな……)
◇
その夜、美月は眠れずにいた。宿のベッドでリナの寝顔を見ながら、静かに心を決める。
「……明日、孤児院に行ってみよう」
翌朝、美月は大きな鍋と袋いっぱいの食材を抱えて孤児院を訪ねた。修道女は驚きのあまり言葉を失ったが、事情を説明すると目に涙を浮かべて頭を下げた。
「……助かります。でも、うちにはお金を払う余裕がなくて……」
「大丈夫です。今日はただ……私のわがままなんです」
そう言って微笑む美月に、修道女も静かにうなずいた。
◇
美月は大きな鍋を火にかけた。
まずは玉ねぎとにんじんを刻み、じっくり炒めて甘みを引き出す。そこへほぐした鳥の肉と骨を入れ、しっかりと煮込んで出汁を取る。
さらにキャベツとじゃがいもを加え、ハーブで香りをつけた。
次第に、孤児院の食堂は心地よい匂いで満ちていく。
子どもたちが集まってきて、瞳を輝かせた。
「いい匂い!」
「なんだろう、胸があったかくなる匂いだ」
最後に美月は、少し硬めに炊いたお米を入れて雑炊風に仕上げた。
塩と少量のバターで味を整えると、まろやかで優しい香りが立ちのぼった。
「さあ、召し上がれ」
子どもたちが一斉にスプーンを手に取る。
ひと口食べた瞬間、その顔がぱっと明るくなった。
「おいしい!」
「甘い……玉ねぎが甘いんだ!」
「体の中がぽかぽかしてくる!」
子どもたちの笑い声が食堂に響く。
修道女は涙ぐみながら、美月の手を握った。
「ありがとうございます……こんなに喜んで食べる子どもたちを見るのは久しぶりです」
美月は照れくさそうに笑った。
「私こそ……作らせてもらえて嬉しかったです」
◇
食事が終わり、満足そうに眠りにつく子どもたちを見ながら、美月は思った。
(やっぱり……料理は力だ。お腹を満たすだけじゃなくて、心まで温めることができる。私のやりたいことは、きっと――これなんだ)
リナがそっと寄り添い、美月の袖をつかんだ。
「ねえお姉ちゃん……いつか、毎日こうして、たくさんの人にごはんを作ってあげられる場所を持ちたいね」
「……そうだね」
美月は微笑み、静かに頷いた。
その想いは、やがて「異世界食堂」へとつながっていく――。




