↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
23/41

第23章 王都の孤児院を訪ねる

 ギルドでの料理対決から数日。美月たちは街を歩いていると、ふと人だかりに気づいた。

 賑やかな市場の裏手で、子どもたちが列を作っている。列の先には、みすぼらしい服を着た修道女が、鍋から薄いスープをよそっていた。


「……水みたい」

 リナがぽつりとつぶやく。鍋から漂ってくる匂いは、ほとんど香りらしいものがなかった。


 よそわれたスープを受け取った子どもたちは、笑顔を見せるものの、その瞳はどこか寂しげだった。

 修道女は必死に励ますように笑っていたが、鍋の底はすでに見えている。


「……あれは?」

 カイが小声で尋ねると、通りがかりの商人が答えた。

「王都の孤児院さ。貧しいもんでな、日々の食事はこんな具合だ」


 胸が締めつけられるような感覚に、美月は思わず足を止めた。

(前世でも、妹と一緒に……お腹を空かせながら、それでも笑い合って食べたことがあったな……)


◇


 その夜、美月は眠れずにいた。宿のベッドでリナの寝顔を見ながら、静かに心を決める。

「……明日、孤児院に行ってみよう」


 翌朝、美月は大きな鍋と袋いっぱいの食材を抱えて孤児院を訪ねた。修道女は驚きのあまり言葉を失ったが、事情を説明すると目に涙を浮かべて頭を下げた。

「……助かります。でも、うちにはお金を払う余裕がなくて……」

「大丈夫です。今日はただ……私のわがままなんです」

 そう言って微笑む美月に、修道女も静かにうなずいた。


◇


 美月は大きな鍋を火にかけた。

 まずは玉ねぎとにんじんを刻み、じっくり炒めて甘みを引き出す。そこへほぐした鳥の肉と骨を入れ、しっかりと煮込んで出汁を取る。

 さらにキャベツとじゃがいもを加え、ハーブで香りをつけた。


 次第に、孤児院の食堂は心地よい匂いで満ちていく。

 子どもたちが集まってきて、瞳を輝かせた。

「いい匂い!」

「なんだろう、胸があったかくなる匂いだ」


 最後に美月は、少し硬めに炊いたお米を入れて雑炊風に仕上げた。

 塩と少量のバターで味を整えると、まろやかで優しい香りが立ちのぼった。


「さあ、召し上がれ」


 子どもたちが一斉にスプーンを手に取る。

 ひと口食べた瞬間、その顔がぱっと明るくなった。

「おいしい!」

「甘い……玉ねぎが甘いんだ!」

「体の中がぽかぽかしてくる!」


 子どもたちの笑い声が食堂に響く。

 修道女は涙ぐみながら、美月の手を握った。

「ありがとうございます……こんなに喜んで食べる子どもたちを見るのは久しぶりです」


 美月は照れくさそうに笑った。

「私こそ……作らせてもらえて嬉しかったです」


◇


 食事が終わり、満足そうに眠りにつく子どもたちを見ながら、美月は思った。

(やっぱり……料理は力だ。お腹を満たすだけじゃなくて、心まで温めることができる。私のやりたいことは、きっと――これなんだ)


 リナがそっと寄り添い、美月の袖をつかんだ。

「ねえお姉ちゃん……いつか、毎日こうして、たくさんの人にごはんを作ってあげられる場所を持ちたいね」

「……そうだね」

 美月は微笑み、静かに頷いた。


 その想いは、やがて「異世界食堂」へとつながっていく――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。