↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
20/41

第20章 招かれざる晩餐会


 市場での人気、冒険者たちの信頼。

 気づけば、美月の料理は街のあちこちで話題になっていた。

 そんなある日、宿に一通の封書が届く。


 差出人はこの街を治める小貴族、リュード子爵。

「晩餐会に料理人として招待する」と書かれていた。


「……お姉ちゃん、これって」

 リナが目を丸くする。

「貴族様の食卓に呼ばれるなんて、すごいことなんじゃ……?」


 だがカイの表情は硬い。

「素直に喜んではいけない。貴族が庶民を宴に呼ぶときは、利用するか試すかだ。気をつけろ」


 美月は喉を鳴らした。

 確かに、書状の文面にはどこか威圧的な響きがある。

「でも……拒めば逆に、機嫌を損ねるかもしれない」


 悩んだ末、美月たちは招待を受けることにした。


◇


 晩餐会の夜。

 豪奢な屋敷の大広間には、煌びやかな燭台と絢爛な料理が並んでいた。

 しかし、美月はすぐに異変に気づく。


 ローストされた肉は固く乾き、スープは塩辛いだけで旨味がない。

 美しい見た目に反して、料理はどれも「食べる喜び」が感じられなかった。


「……これは」

「うちの料理人たちは格式ばかりを気にするのでな」

 隣に現れたリュード子爵が、唇を歪めた。

「そこで評判の“庶民料理”とやらを試してみたくなったのだ。さて、期待に応えてくれるかな?」


 挑発するような視線。

 会場の視線が一斉に美月へと注がれる。


◇


 用意されたのは、少量の肉と野菜、そして香辛料が少し。

 限られた食材で、目の前の貴族たちを満足させなければならない。


(……落ち着いて、美月。これまでだって工夫で乗り越えてきたじゃない)


 深呼吸し、彼女は鍋を火にかけた。

 肉を香草で炒め、玉ねぎをじっくり飴色になるまで炒める。

 そこへ赤ワイン代わりの果実酒を加えると、芳醇な香りが立ちのぼった。


「お姉ちゃん、これって……」

「ビーフシチュー。だけど、この世界にあるもので作る、特別な一皿だよ」


 リナが笑顔で具材をかき混ぜ、カイが火加減を調整する。

 三人の息はぴたりと合っていた。


◇


 やがて出来上がったのは――濃厚で艶やかなソースに包まれた肉の煮込み。

 口に運んだ瞬間、会場の空気が変わった。


「……な、なんだこの深みは」

「肉が柔らかい……舌の上でほどけていく」

「これが庶民料理だというのか!?」


 ざわめく貴族たち。

 リュード子爵は一口食べ、しばし黙り込んだ後、静かに呟いた。

「……なるほど、評判になるわけだ」


 その瞳には、認めざるを得ない驚きと悔しさが入り混じっていた。


◇


 晩餐会の後、美月たちは屋敷を後にした。

 夜風を受けながら、美月は肩の力を抜く。

「ふぅ……緊張した……」

 リナが駆け寄り、手を握った。

「でもすごかったよ! あんなにたくさんの人を笑顔にしたんだもん!」


 カイもわずかに笑みを見せる。

「お前の料理はもう、庶民だけのものじゃない。……それが吉と出るか凶と出るかは、これから次第だがな」


 その言葉に、美月の胸に不安と期待が同時に膨らんでいった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。