第20章 招かれざる晩餐会
市場での人気、冒険者たちの信頼。
気づけば、美月の料理は街のあちこちで話題になっていた。
そんなある日、宿に一通の封書が届く。
差出人はこの街を治める小貴族、リュード子爵。
「晩餐会に料理人として招待する」と書かれていた。
「……お姉ちゃん、これって」
リナが目を丸くする。
「貴族様の食卓に呼ばれるなんて、すごいことなんじゃ……?」
だがカイの表情は硬い。
「素直に喜んではいけない。貴族が庶民を宴に呼ぶときは、利用するか試すかだ。気をつけろ」
美月は喉を鳴らした。
確かに、書状の文面にはどこか威圧的な響きがある。
「でも……拒めば逆に、機嫌を損ねるかもしれない」
悩んだ末、美月たちは招待を受けることにした。
◇
晩餐会の夜。
豪奢な屋敷の大広間には、煌びやかな燭台と絢爛な料理が並んでいた。
しかし、美月はすぐに異変に気づく。
ローストされた肉は固く乾き、スープは塩辛いだけで旨味がない。
美しい見た目に反して、料理はどれも「食べる喜び」が感じられなかった。
「……これは」
「うちの料理人たちは格式ばかりを気にするのでな」
隣に現れたリュード子爵が、唇を歪めた。
「そこで評判の“庶民料理”とやらを試してみたくなったのだ。さて、期待に応えてくれるかな?」
挑発するような視線。
会場の視線が一斉に美月へと注がれる。
◇
用意されたのは、少量の肉と野菜、そして香辛料が少し。
限られた食材で、目の前の貴族たちを満足させなければならない。
(……落ち着いて、美月。これまでだって工夫で乗り越えてきたじゃない)
深呼吸し、彼女は鍋を火にかけた。
肉を香草で炒め、玉ねぎをじっくり飴色になるまで炒める。
そこへ赤ワイン代わりの果実酒を加えると、芳醇な香りが立ちのぼった。
「お姉ちゃん、これって……」
「ビーフシチュー。だけど、この世界にあるもので作る、特別な一皿だよ」
リナが笑顔で具材をかき混ぜ、カイが火加減を調整する。
三人の息はぴたりと合っていた。
◇
やがて出来上がったのは――濃厚で艶やかなソースに包まれた肉の煮込み。
口に運んだ瞬間、会場の空気が変わった。
「……な、なんだこの深みは」
「肉が柔らかい……舌の上でほどけていく」
「これが庶民料理だというのか!?」
ざわめく貴族たち。
リュード子爵は一口食べ、しばし黙り込んだ後、静かに呟いた。
「……なるほど、評判になるわけだ」
その瞳には、認めざるを得ない驚きと悔しさが入り混じっていた。
◇
晩餐会の後、美月たちは屋敷を後にした。
夜風を受けながら、美月は肩の力を抜く。
「ふぅ……緊張した……」
リナが駆け寄り、手を握った。
「でもすごかったよ! あんなにたくさんの人を笑顔にしたんだもん!」
カイもわずかに笑みを見せる。
「お前の料理はもう、庶民だけのものじゃない。……それが吉と出るか凶と出るかは、これから次第だがな」
その言葉に、美月の胸に不安と期待が同時に膨らんでいった。




