第19章 初めての出張料理と絆の一皿
ある日の昼下がり、美月たちの宿に、ひとりの冒険者が訪ねてきた。
革の鎧に身を包み、どこか不器用そうな青年だ。
「すまない……依頼を受けてもらえないか?」
彼は深々と頭を下げた。
内容を聞けば――近くの村でちょっとした魔物騒ぎがあり、討伐に行く冒険者たちの士気を上げるため、温かい食事を用意してほしい、とのことだった。
「食事を……?」
「そうだ。戦いに臨む前に、腹を満たせれば……皆、怖さを少しは和らげられる」
その言葉に、美月は胸を打たれた。
――食べ物で人の心を支えられる。
それは、彼女がこの世界で果たすべき役目そのもののように思えた。
「わかりました。ぜひ、やらせてください!」
◇
討伐に向かう冒険者たちは十数名。
武器を手にしてはいたが、どこか緊張が漂っていた。
美月とリナは野外の広場に鍋を設置し、手際よく食材を並べる。
「今日のメニューは、スタミナシチューとおにぎりです!」
シチューは前世から受け継いだ十八番。
だが今回は魔獣肉を使い、薬草を合わせることで疲労回復の効果を高めた。
さらに、おにぎりには異世界の塩と香草を混ぜ込み、戦場でも片手で食べやすいよう工夫する。
大鍋の中でごろごろと煮込まれる肉と野菜から、力強い香りが立ちのぼった。
リナは小さな手で木べらを握り、一生懸命かき混ぜる。
「お姉ちゃん、いい匂いだね!」
「うん、これならきっと元気が出るよ」
◇
やがて料理が完成し、配膳が始まった。
冒険者たちは最初こそ怪訝そうに鍋をのぞきこんでいたが、一口食べた瞬間に目を見開いた。
「……うまい! 力がみなぎってくる!」
「このおにぎり、香りが爽やかで食べやすい!」
「おかわりはあるか!?」
次々に笑顔が広がり、緊張した空気が一変する。
美月は胸が熱くなった。――料理ひとつで、こんなにも人の心を変えられるのだ。
リナも冒険者に「ありがとう」「美味しいよ」と声をかけられ、顔を赤らめてうつむいていた。
◇
討伐を終えて戻った彼らは、無事に村を守りきったという報告とともに、再び美月たちに頭を下げた。
「君のおかげで、恐怖に呑まれず戦えた。本当に感謝する」
その言葉に、美月は深く息を吸い込んだ。
「……私は料理しかできません。でも、その料理で皆さんの力になれるなら、何度でも作ります」
横でリナが頷いた。
「わたしも……お姉ちゃんと一緒に、もっとたくさんの人を笑顔にしたい」
この日、二人は「冒険者としての依頼をこなす料理人」として、ひとつの信頼を勝ち取ったのだった。




