第18章 リナの才能の芽生え
カレーの大成功から数日。
街では「スパイス料理の美月」という噂が広まり、子どもから冒険者、商人までが声をかけてくるようになった。
そんな忙しい日々の中で、美月の傍らにはいつもリナがいた。
「お姉ちゃん、今日は私も最初から一緒にやらせて!」
リナは前掛けを結びながら、きらきらとした瞳で言った。
「もちろん。一緒に作ろう」
美月は微笑み、玉ねぎの山を指差す。
「まずはこれを切ってみて。包丁の持ち方はこう。指は丸めて、刃が当たらないようにね」
リナはぎこちなく包丁を握り、玉ねぎを半分に割った。
最初の一刀は危なっかしかったが、真剣な表情で何度も挑戦するうちに、次第にリズムが生まれてくる。
「と、とけいの針みたいに……一定に動かせば……」
「うん、そうそう。上手だよ、リナ!」
リナの頬がほんのり赤くなる。
「えへへ……お姉ちゃんに褒められると、もっと頑張りたくなる」
◇
次は炒め工程だ。
美月が油をひいた鍋を熱し、リナに玉ねぎを任せる。
「ここは焦がさないように、色の変化をよく見て。飴色になるまで、ゆっくりね」
「はい!」
リナは木べらを握りしめ、真剣に鍋をかき混ぜる。
甘く香ばしい匂いが広がり、リナの額に小さな汗がにじむ。
「……ねえお姉ちゃん、これってちょっとお菓子作りに似てるね」
「どうして?」
「色や匂いが変わっていくのを見てると、飴細工を作ってるみたいで楽しいの」
美月は一瞬、胸を打たれた。
――そうだ、私が料理に夢中になったのも「楽しい」からだった。
その感覚をリナも感じ取っている。
「リナ……あなた、本当に料理の才能があるわ」
「えっ!? わ、私なんてまだ玉ねぎ炒めただけだよ」
「ううん。大切なのは手際じゃなくて、料理を楽しむ気持ち。それをあなたは持ってる」
リナの瞳が大きく見開かれ、やがて恥ずかしそうに笑った。
「じゃあ、これからもずっとお姉ちゃんと一緒に作っていい?」
「もちろん。むしろ一緒に作ってほしい」
◇
完成したのは、リナが主導で仕上げた「リナ風カレー」。
辛さを抑え、野菜の甘みを引き出した優しい味わいだった。
宿の主人や近所の子どもたちが集まり、試食会が始まる。
「……うまい! 前のカレーとはまた違うが、体に染みる味だ!」
「こっちは子どもでも食べやすい! おかわり!」
人々の笑顔を見て、リナの瞳は潤んだ。
「わたしの料理……食べてもらえたんだ」
「そうよ。これからは、二人で一緒に作っていこう」
その夜、美月はリナと肩を並べ、星空を見上げた。
「リナ……あなたとなら、この世界でもう一度“家族の食卓”を取り戻せる気がする」
「うん……わたしも、お姉ちゃんと一緒に歩いていきたい」
二人の絆は、料理を通して確かに深まっていた。




