第17章 初めてのカレーで大評判
スパイス商人から香辛料を譲り受けて数日。
美月は、宿屋の台所を借りて試作を繰り返していた。
「クミンは少し多めに……いや、辛さを出すなら唐辛子をもうひとつ……」
鍋をかき混ぜながら呟く。
隣ではリナが額に汗を浮かべながら応援していた。
「すごい匂い……! なんだか胸がドキドキする……」
炒め玉ねぎの甘み、にんにくと生姜の香ばしさ、そしてスパイスの刺激的な匂いが一気に広がる。
それは村人たちも街の人々も嗅いだことのない異国の香りだった。
「お姉ちゃん、ちょっと味見してもいい?」
「熱いから気をつけてね」
リナが匙ですくい、恐る恐る口に含む。
瞬間、目を丸くし、頬を赤らめた。
「……あっつい! けど、すっごく美味しい! 舌がじんじんするのに、次のひと口が欲しくなる!」
美月は微笑んだ。
「そう……それがカレーなんだよ。日本ではね、家族みんなで食卓を囲んで、当たり前のようにあった味……」
前世の妹の笑顔が脳裏に浮かぶ。あの日々を、この世界で取り戻したい。
◇
数日後。
美月はついに、街の広場で「カレー屋台」を開くことにした。
大鍋に鶏肉と野菜をたっぷり入れ、じっくり煮込む。香辛料を加えると、辺りは強烈な匂いに包まれた。
通りすがりの人々が次々と足を止める。
「な、なんだこの匂いは……!」
「初めて嗅ぐのに、腹が鳴る……」
「食べさせてくれ!」
冒険者、商人、子ども連れの母親までが列を作り始めた。
「はい、どうぞ。熱いから気をつけて」
美月が器を手渡すと、客は我先にと口に運ぶ。
「……!! こ、これは……!」
「辛い……なのに甘い……体が熱くなるのに、もっと食べたくなる!」
「こんなの食ったことない! 酒より元気が出るぞ!」
次々と驚きの声が上がる。
額に汗を浮かべながら夢中で食べる冒険者たち。
子どもは「辛いけど甘い!」と笑いながらスプーンを止めない。
あっという間に鍋は空になり、追加を仕込む間にも行列は伸び続けた。
◇
その日の売り上げは過去最高だった。
だがそれ以上に、美月の胸を熱くしたのは、人々の笑顔だった。
「こんな料理は初めてだ。また作ってくれ!」
「遠征に持っていけないか? 兵士たちも喜ぶぞ!」
「ねえ、次はいつ開くの?」
人々の期待に囲まれ、美月は胸の奥で強く思う。
――この世界でも、食卓を通して笑顔を増やしていきたい。
「お姉ちゃん……」
隣でリナが小さな声で囁いた。
「私、この料理をもっと覚えたい。お姉ちゃんと一緒に作って、もっとたくさんの人に食べてもらいたい」
その言葉に、美月の胸は温かく満たされた。
「うん……一緒にやろう。リナとなら、どんな料理もきっと作れる」
スパイスの香りが夕暮れの広場に漂う中、二人の新しい挑戦が始まろうとしていた。




