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第11章 強敵との遭遇


 三人で旅立ってから数日。

 森を抜け、丘陵地帯を進んでいた時だった。


 昼下がりの陽射しの下、リナが突然ぴたりと立ち止まる。

「……お姉ちゃん。なんだか、嫌な気配がする」


 その小さな呟きに、カイの表情が鋭く変わった。

 彼は即座に剣を抜き、周囲に目を光らせる。


 ――そして。

 草むらを揺らして姿を現したのは、巨大な狼だった。


 通常の魔物狼よりも二回りは大きい。

 背には黒い棘のような毛が逆立ち、血走った眼でこちらを睨みつけている。


「黒棘狼……! この辺りに出るはずのない魔獣だ」

 カイが低く唸る。


⸻


 次の瞬間、魔獣は凄まじい速度で飛びかかってきた。


「リナ、下がれ!」

 カイが剣で弾き返すが、その衝撃で大地が揺れる。


 リナは後退しながら、美月の手を握った。

「お姉ちゃん、私たちも何かできないかな!」

「……そうね。直接戦えなくても、できることがあるはず!」


 美月はリュックを探り、乾燥ハーブの袋を取り出した。

 ――前世で料理と一緒に学んだ、簡単な薬草知識。

 狼の嗅覚は鋭い。強い香りは混乱を招く。


「リナ、この葉を燃やして!」

「うん!」


 二人は急いで焚き火を起こし、ハーブを投げ入れる。

 瞬く間に強烈な香りの煙が立ち上り、黒棘狼が鼻を鳴らして怯んだ。


⸻


「今だ!」

 カイが一気に踏み込み、剣を振るう。


 鋭い斬撃が狼の前脚を裂いた。

 しかし、黒棘狼は狂乱のように咆哮し、反撃の牙を剥く。


 カイは必死に受け流すが、巨大な体当たりを食らい、地面に叩きつけられた。


「カイ!」

 美月とリナの叫びが重なる。


 狼がカイにとどめを刺そうと跳躍する。

 その瞬間、リナが杖を振りかざした。


「――光よ!」


 まばゆい閃光が走り、黒棘狼が怯んで動きを止める。


⸻


 その隙を逃さず、カイが立ち上がり、渾身の力で剣を突き立てた。


 黒棘狼は断末魔の咆哮をあげ、やがて地に崩れ落ちる。


 しんと静まり返った草原。

 カイは大きく息を吐き、剣を地に突き立てて肩で呼吸した。


「……助かった。二人のおかげだ」

「カイこそ! 危なかったんだから!」

 リナが涙目で叫ぶ。


 美月は急いで包帯と薬草を取り出し、カイの傷を手当てした。

「無茶はしないでくださいね。……仲間なんですから」


 その言葉に、カイは照れくさそうに目を伏せた。


⸻


 戦いの後。

 三人は近くの小さな丘で焚き火を起こし、夕食をとることにした。


「戦ったあとだから、スタミナのつくものを作らなきゃ」

 美月は黒棘狼の肉を切り分けながら呟いた。


「食べられるの?」

 リナが驚く。


「ちゃんと処理すれば大丈夫。独特の臭みがあるけど……」


 彼女は持参した香辛料をふんだんに使い、肉をハーブで下味をつけて焼き上げた。

 さらに、野菜と一緒に煮込んで「狼肉のシチュー」も作る。


 火にかけると、肉の臭みは消え、代わりに深い旨味が広がっていった。


⸻


 出来上がった料理を前に、三人は思わず顔を見合わせた。


「……いい匂い」

「お姉ちゃん、すごい! 魔物のお肉なのにおいしそう!」


 カイも無言で肉を口に運び、驚いたように目を見開いた。

「……これが、本当にあの獰猛な獣の肉か? 信じられないほど柔らかい」


「ふふ、料理すれば魔物だって立派なごちそうになるんです」


 三人で頬張るシチューは、戦いの疲れを癒すように温かく、滋養に満ちていた。


⸻


 食後、リナは火を見つめながら呟いた。

「今日、すごく怖かった。でも……三人で一緒に頑張れば、乗り越えられるんだね」


 美月はそっとリナの肩を抱いた。

「ええ。これからも、どんな困難も三人で乗り越えよう」


 カイもまた、静かに頷く。

「俺には、守る理由ができた。もう二度と、仲間を失わない」


 焚き火の炎に照らされる三人の横顔は、確かに「家族」のように寄り添っていた。


 ――こうして彼らは、初めての大きな試練を共に越え、絆をさらに強く結び直したのだった。


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