↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
10/41

第10章 旅路での初キャンプ

 美月、リナ、そして新しく加わった剣士カイ。

 三人は町を出て、隣国へと続く街道を歩いていた。


 夏の陽射しが西に傾き、辺りは徐々に金色に染まっていく。

 石畳の道はやがて土道に変わり、森の入り口に差しかかると、リナが元気に手を挙げた。


「ねえ、お姉ちゃん! 今日はここで泊まろうよ! 川の音も聞こえるし、きっと気持ちいい!」


 カイも辺りを見回し、短く頷く。

「悪くない。水源が近ければ料理もできるし、夜は森が風を遮ってくれる」


 美月はにっこり微笑み、リュックを下ろした。

「じゃあ、今夜はここでキャンプね」


⸻


 カイが手際よく薪を集め、リナは川で水を汲む。

 その間に美月は持参した調味料と食材を並べていった。


 ――今夜のメニューは「野菜と肉団子のスープ」だ。


 町で買い込んだ干し野菜を戻し、ひき肉に似た魔獣肉を丸めて団子にする。

 リナが戻ってくる頃には、大鍋から香ばしい匂いが漂っていた。


「わぁ! もういい匂いしてる!」

「あと少し煮込めば完成だよ」


 ぐつぐつと音を立てる鍋の中で、団子が踊るように浮かんでいる。

 美月は塩と香草を加え、味を整えた。


⸻


 火を囲み、三人で並んで座る。

 木の器にスープをよそい、パンを添えて差し出すと、リナが歓声を上げた。


「熱々! でもおいしい! お肉がやわらかい!」


 口いっぱいにスープを頬張り、幸せそうに笑う。

 カイも静かに口をつけ、少し目を細めた。


「……うまい。体の芯から温まる」

「よかった。旅の途中だし、滋養のあるものを作りたくて」


 美月の言葉に、カイは珍しく口元を緩めた。

 その笑顔を見て、リナがからかうように囁く。


「ねぇお姉ちゃん、カイさん笑ったよ! 珍しい!」

「ちょっ……リナ!」


 カイは照れたように顔を背けた。


⸻


 食後、美月はフライパンで小さなお菓子を焼いた。

 小麦粉に干し果実を刻んで混ぜた、即席のフルーツパンケーキ。


「甘い匂いがする!」

「デザートまであるのか……贅沢だな」


 リナはぱくりと一口かじり、幸せそうに両手を頬に当てた。

「おいしい! お姉ちゃんのごはんは、旅してても家にいるみたい!」


 その言葉に、美月の胸がじんと温かくなる。

 前世で守れなかった「家族の食卓」。

 今、こうして小さな炎のそばで取り戻せているのだ。


⸻


 夜が深まり、森に虫の声が響く。

 リナは毛布にくるまり、早々に眠りについた。


 美月は火の番をするために起きていたが、隣に座るカイがぽつりと口を開いた。


「……俺は、小さい頃に家を失った。魔物の襲撃でな」


 思いがけない告白に、美月は言葉を失う。

 カイは火を見つめたまま続けた。


「それからはずっと剣を握ってきた。守る力さえあれば、もう誰も失わなくて済むと思って……でも、俺には守る相手がいなかった」


 火の明かりに照らされた横顔は、どこか寂しげで痛々しかった。


⸻


 美月はそっとスープ鍋をかき混ぜ、温め直した一杯を差し出した。


「飲んで。……守る相手は、きっとこれからできるよ」


 カイは驚いたように美月を見、それから静かに器を受け取った。

 熱いスープをひと口飲むと、わずかに目を伏せる。


「……あんたは不思議な人だ。料理で人の心をほどくなんて」

「私には剣を振るえないから。その代わりに、料理で守りたいんです」


 二人の視線が、火越しに重なった。

 胸の奥に、温かな絆の芽生えを美月は確かに感じていた。


⸻


 翌朝。

 朝露に濡れる森で、美月は簡単な朝食を作った。

 パンを炙り、干し果実とチーズを挟んだサンドイッチ。


「ん~! 朝からこんなにおいしいなんて、幸せ!」

「旅が続いても、この食卓があれば心折れないな」


 リナとカイが笑う声を聞き、美月もまた微笑んだ。


 ――旅はまだ始まったばかり。

 けれどもう、三人はひとつの家族のように温かい食卓を囲んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。