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謎解きに誘われて  作者: 美雪
第五章 婚約指輪の謎

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94 会いたい



 数日後。


 モードが正式に婚約披露のパーティーをしたことは学校中の話題になり、祝福ムードがずっと続いていた。


 ミリアムは友人ではあるが、学校ではモードと距離をあえて置き、静かに本を読む環境を守ることにしている。


 ところが帰る時間が近づくと、モードが自分の馬車で家まで送ると言ってきた。


「話があるのよ」

「わかりました」


 馬車乗り場に向かったミリアムはチェスタット伯爵家の馬車ではない馬車が待っていることに気づいた。


「これって」

「まずは乗って。話はそれからよ」


 ミリアムは馬車に乗りこむ。


 馬車の外見はチェスタット伯爵家の馬車よりも大きく、質実剛健と言った印象。


 だが、内装はいかにも裕福な貴族らしい豪華さだった。


「ダートランダーの馬車よ」

「やはりそうでしたか」


 ミリアムもそう思って聞こうとした。


「おめかしして外出するための馬車ではなくて、仕事や学校などに行く時に使う馬車よ。安全のために頑丈に作られていると聞いたわ」

「確かにそんな気がしました。でも、どうしてダートランダーの馬車が? もしかして、ダートランダー伯爵邸に引っ越したのですか?」

「それはまだよ。でも、花嫁修業は始まるの。週末はダートランダー伯爵邸に行くし、勉強する内容によっては本邸へ行くそうよ」

「頑張ってください」

「ミリアムもね?」

「私も?」


 ミリアムは嫌な予感がした。


「まさか……私のことが噂になっているのですか?」

「社交界のことを知りたがっていたでしょう? だから教えるけれど、婚約披露パーティーでレイモンド様と一緒にいたミリアムのことが話題に上がったわ」

「そうなると思いました」

「でも、私の友人、ダートランダー公爵家の取引先の令嬢ということだけよ」


 貴族が話題に取り上げるのは貴族のこと。


 プライドが高いからこそ、平民のことを取り上げて騒ぐのはみっともない、恥ずかしい、どうでもいい、無視すべき対象となり、ミリアムを深掘りするような方向にはならない。


 逆にレイモンドもそろそろ婚約だ、その相手はどの家の者か、誰がふさわしいかなどといった方向で盛り上がったことをモードが説明した。


「だから、大丈夫よ。ミリアムとしては安心でしょうけれど、レイモンド様としては逆。牽制効果がないということでがっかりかもしれないわね」

「そうですか」

「心配しなくていいわ。ミリアムは私の友人で、平民だから都合が良くて側に置いているということで納得してもらえるわ。ようするに侍女代わりよ。それならレイモンド様やリチャード様が知っているのは当然だし、話をすることもあるでしょう? そんな感じの認識ね」

「なるほど」

「リチャード様と婚約したことで、私の周囲も騒がしくなるでしょうし、面倒も増えるわ。それに対処するためにミリアムがいると思わせればいいの。ミリアムが困るようだと私も困るわ。当然リチャード様がなんとかしようとするし、レイモンド様も助けてくれるわ。連帯、あるいは芋づる式というわけよ」

「それなら良かったです」

「じゃあ、見せて」


 モードは手を差し出した。


「何のことですか?」

「お財布よ。レイモンド様に買ってもらったでしょう?」


 ミリアムはカバンから財布を取り出した。


「いずれそう言われるような気がしました」

「小さいわね?」


 ミリアムが選んだのは黒革製で銀色の口金がついた小さな財布だった。


「小銭用だわ。紙幣が入らないわよ?」

「私がお金を持って出かけることはほとんどありません。紙幣も折りたためば入ります。この程度で十分です」

「高いから遠慮したの? 長札入れにすればいいのに」

「ああいうのはお札をたくさん持っている人用です。私は違うので」

「そうかもしれないけれど……シンプル過ぎて地味だわ。もっと女性らしいのを買えば良かったのに」

「長く使えるようなものにしたくて。とても気に入っています」

「そう。だったらいいわ。ミリアムが気に入っているかどうかが一番大事だもの!」


 モードは口金を開けて中を見た。


「全然入っていないわね」

「平民の財力はこの程度です」

「絶対に違うわ! ミリアムよりもお金を持っている平民はたくさんいるわよ!」


 モードは口金を閉じる。


 パチンと音がした。


「いい音だわ」

「この音が最高です」

「お財布よりバッグがいいわ。パーティー用のお洒落なバッグはいくつあってもいいと思うわよ?」

「それはモードだからです。私がパーティーに行くことはまずもってありません」

「バッグが欲しくなってきたわ」

「リチャード様に買ってもらえばいいのでは?」

「贈り物を欲しがる女性は淑女とは言えないわ。あれこれ貰ってもらってばかりというのも困るのよ。貢がせているなんて言われたら私の評判に傷がついてしまうわ! ダートランダー公爵に認めてもらえなくなったら大変よ!」

「貴族は評判を気にします。大変ですし、ダートランダー公爵のことについては切実です」

「そうなのよ。だから、素敵なものを選びましょう!」


 ミリアムの眉間にしわが寄った。


「素敵なものを選ぶというのは?」


 ミリアムはモードに本をもらえる権利を残している。


 しかし、モードの言い方からいって、本を選ぶ感じではない。


「どこに行く気ですか?」


 ようやくミリアムは自分の家へ向かっていないことに気づいた。


「ダートランダー公爵家が御用達にしているお店よ! 帽子を買うの!」

「どうして帽子を買うのでしょうか?」

「それはもちろん、ミリアムが素敵な帽子を持っていないからよ」

「私の帽子を買うのですか?」


 ミリアムはてっきりモードの帽子を買うのに付き合わされるだけだと思っていた。


「ダートランダー伯爵夫人から借りてばかりでは困るでしょう? だから、定番の帽子を買うといいわ。ロングワンピースに合うようなものね」


 ミリアムの頭の中に思い浮かんだのは青灰色のロングワンピース。


「青灰色の帽子ですか?」

「それでもいいけれど、他の色と合いにくいわ。白がいいと思うわよ? 小物を白で揃えればおかしくないわ」

「揃えるような小物を持っていません」

「そうでしょうね。でも、帽子を買いに行くことは決まりなの。ダートランダー伯爵夫人が決めたことよ。パーティーのあともいろいろあったでしょう?」

「そうですね」

「ミリアムに召使いをつけたのはダートランダー伯爵夫人だわ。スタールビーのことを知っている侍女をつければ良かったということで、帽子を買ってくれるらしいわ」

「口止め料ですか?」

「気遣いでも、贈り物でも、好きな言葉を使って! でも、隠すのよ。帽子で何もかもね!」

「帽子がなくても隠せます」

「外出する時に顔を隠すには帽子が有効なのよ。私も一緒に帽子を買ってもらえることになっているから、絶対に断らないで! 友人のためよ!」

「なるほど。モードが喜びそうな話です」


 ミリアムとモードはダートランダー公爵家の御用達の店に行き、若い女性に人気のある帽子を買った。


 そして、自宅兼店舗である古本屋の前に到着した。


「またね!」

「ありがとうございました」


 ミリアムが先に降り、御者の助手が荷物を降ろす。


「違います」


 ミリアムが買った帽子は一つ。


 だが、御者の助手が降ろした箱は三つあった。


「それはモードのです」

「全部渡すよう言われました。受け取らない場合、ドアの前に置いておくようにとのことです」

「そういうことですか……」


 モードは帽子をいくつも購入したが、持ち帰るものとダートランダー伯爵家に届けるもので分けていた。


 つまり、持ち帰ることにした帽子は全てミリアム用だった。


「お礼を伝えておいてください。モードにもダートランダー伯爵夫人にも」

「かしこまりました。ご自宅までお持ちしますか?」

「大丈夫です。箱は大きくても軽いので持てます」


 蓋を抑えるためのリボンがついているため、箱を抱えなくても持つことができた。


「ドアを抑えますので」

「助かります。ダートランダー公爵家に仕える方は本当に良い人ばかりです」


 御者の助手に抑えてもらったドアから店に入ると、父親が眉を上げた。


「おかえり。だが、その箱はなんだ?」

「ただいま。帽子です。ダートランダー伯爵夫人がいろいろと気遣ってくださったようで断れなかったのです」

「そうか。だが、他にも届いているぞ?」

「えっ?」

「店に置かれても困る。家に持っていけ」

「わかっています」


 ミリアムは家の方に箱を持って移動した。


「おかえりなさい」

「ただいま」


 母親の口調を見る限り、上機嫌。


「その箱はどうしたの?」

「ダートランダー伯爵夫人からです。私が帽子を持っていないので……一つだと思ったら三つがノルマだったようです」

「そうなのね。素敵な帽子をもらえたのであれば良かったわ。だけど、他にもダートランダー公爵家から届いているわよ?」

「何が届いているのですか?」

「さあね。部屋に運んでおいたから確認して」

「わかりました」


 ミリアムは二階にある自分の部屋に向かった。


 そして、予想外の光景に遭遇した。


「どういうことですか……」


 大中小の箱が三つ。


 帽子の箱を置き、早速大きな箱を開ける。


 ヒールが低い靴が三種類入っていた。


 中程度の箱にはお洒落なバッグが二つ入っていた。


「こんなにいろいろと贈ってくれるなんて……」


 一番小さな箱の中身は本だった。


「淑女の作法……?」


 ミリアムの学校では礼儀作法の時間があり、基本的なマナーについて教えられる。


 はっきりいってしまうと、いらない本だった。


「まさか……なかなか希望を出さないのでレイモンド様が選んだ結果、この本に?」


 ミリアムは絶対に違うと思いたかった。


「当分は会わないと思ったのに……」


 レイモンドに会いたい。


 本のことを確かめたかった。


 ミリアムの頭の中はなぜこのような本が贈られて来たのかの理由でいっぱいになるが、どんなに頭を働かせても謎は解けない。


 答えは次回に持ち越しだった。



 第五章はここまでになります。

 久々に書いたのですが、楽しんでいただけたのであれば幸いです。

 お読みいただきありがとうございました!


 追伸:感想は停止していたのですが、別作品においても返信できないことを前提に書いてくださる方がいてありがたく、こちらも同じようにしたいとしたいと思います。よろしくお願いいたします。

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