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謎解きに誘われて  作者: 美雪
第五章 婚約指輪の謎

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91 明かされた謎



「メアリーさんは優しい人ですね」

「違います……怖いのです。自分のせいにされたくありません。でも、私のせいで無実の人が一生消えない罪に問われてしまったら……それも怖いのです」

「メアリーさんの話を聞いて安心しました」


 ミリアムは優しく微笑んだ。


「私の話には続きがあります。聞いてくれますか?」

「はい」

「ルビーの指輪が入った箱を見つけた女性はふと思いました。もしかしたら、自分の前に箱を開けた友人も同じだったのではないかと。友人も箱を開けたら白い線が見え、問題が起きたと思いました。でも、自分のせいではありません。困ってしまいました。そこでわざと置きっぱなしにしたのかもしれません。ドアに鍵がかかっていない時がありました。誰かが来て箱を見つけ、つい落としてしまった。中身を確認して衝撃が走り、怖くなって逃げたのかもしれません。そのように考え出すときりがありません。誰の仕業かもわかりません。混乱するばかりです。追い詰められた女性は思いました。婚約指輪が消えればいいのではないかと」


 なぜ箱は残され、婚約指輪だけが消えたのか。


 それには特別な理由があった。


 婚約指輪を誰にも見られないようにするためだった。


 そうすれば宝石に問題が起きたことを知られずに済むと思ったせいだった。


「もちろん、大変な問題になります。ですが、無実の者に罪を着せずに済みます。苦渋の決断でした。全員を助けるためです。自分も含めて。あとはもう運を任せるしかないと思いました。そして、婚約指輪を箱から取ると、すぐ側にあるバラの花が生けられた花瓶の中にそっと入れました。ここなら安全です。バラの花を捨てて花瓶の中を覗き込むようなことはしません。普通なら。こうして婚約指輪は消えました。箱だけがコンソールテーブルの上に置かれていました。あとから別の者が箱を見つけました。でも、箱を見つけた者も、その箱を受け取った者も蓋を開けなかったので、婚約指輪が消えたことに気づきませんでした」


 空っぽの箱が金庫の中にしまわれることになった。


「時間が経ち、婚約指輪が必要になって箱が開けられました。ついに婚約指輪が消えていることがわかったのです。全員で探すことになりました。少しでも発見が遅れるように、指輪を隠した女性は応接間を探しました。普通に探せばいいだけです。花瓶の中以外を。数日後、花瓶の水を変える者か、花の手入れをする者が気づくまでは見つかりません。これで私の作ったお話は終わりです。感想を教えてください」

「……合っています」


 メアリーは迷うことなく答えた。


「でも……」

「でも?」

「どうして花瓶の中に指輪があると思ったのですか?」

「一番近いからです。突然の出来事でした。咄嗟に隠すには丁度良いですよね? 普通は誰もそんなところにあるとは思いません。たくさんのバラの花や水が入っているからです。機転が利く人だけが思いつく場所です。灯台下暗しです」

「ミリアム様はとても頭が良い方です。私を最後に呼んだのも、私が指輪を隠したと思われたからですね?」

「レイモンド様とリチャード様が迎えに来て、私とモードが部屋を出ました。そのあとで鍵をかけるのは、ドアを抑えていたメアリーさんです」


 マーサは衣装部屋の方にいた。


 後片付けがあるため、クラリスもすぐに寝室へ戻った。


 その時、メアリーは応接間で一人になった。


「メアリーさんは頭が良くて機転も利く優秀な人です。マーサさんが化粧室から戻って来た時に気づくのであれば、メアリーさんも鍵をかけて戻る時に気づいたはずだと思いました。でも、実際に見つけたのはマーサさんでした」


 マーサは使用人用の化粧室に行くために寝室から出たが、その時には気づかなかった。


 化粧室から戻った時に気づいたのは、ドアの方から見た方が気づきやすい位置に箱があったからだった。


「私が箱に気づかないとは全く思わなかったのですか?」

「マーサさんであれば、花瓶の中に隠しません。箱を開けないからです。古参で長く勤めていることを誇りにしているからこそ、違反行為をしないよう注意しています。それにクラリスさんとマーサさんはモードの担当者。指輪を隠したところで、結局は責任を取ることになります。隠す行為は無駄。問題があったことを正直に話すしかないのです」

「……そうですね。冷静に考えればわかることでした」

「指輪は徹底的に探せば見つかると思いました。でも、誰が隠したのかを証明することができなければ迷宮入りです。全員に疑惑が残ったままになってしまいます。その場合、全員が解雇されてしまうかもしれません。それを防ぐため、手がかりを探しました。クラリスさん、マーサさん、メアリーさんには別室にいてもらいましたが、その時にメアリーさんも泣いていたと聞きました」


 クラリスとマーサが泣くのはわかる。


 モードの担当としては大失態。解雇もあり得る事態。


 しかし、メアリーだけは違う。ミリアムの担当だけに、メアリーがやったという証拠がなければ重い責任を問われないかもしれない。


 クラリスとマーサを励ますのではなく、一緒に泣いているということにもミリアムは着目した。


「モードの担当者は何らかの責任を問われるのは仕方がないことです。でも、メアリーさんは私の担当です。処罰されないかもしれないのに、泣いていました。二人の涙につられたのかもしれませんが、特別な理由があったのかもしれないと思いました。最初は理由がわかりませんでしたが、クラリスさんから指輪について詳しく聞いたおかげで理由を思いつきました。指輪ではなく、指輪についている赤い宝石に問題があった。白い線が見えたからではないかと」


 ルビーは赤い石。


 宝石に詳しくない者でも、一般的な知識として知っている。


 その赤い石に白い線が見えるのはおかしい。何かしら問題が生じていると思ってしまう。


「でも、白い線は最初からありました」

「最初から?」


 メアリーは仰天するしかなかった。


「ありえません! ダートランダー公爵家が所有する指輪ですよ? 最高級のルビーに決まっています!

「確かに最高級のルビーです。でも、モードは白い線が見えるルビーの指輪を贈られました」

「そんな! まさか!」

「そのまさかです。だからこそ、希少なのです」

「奇妙の間違いでは? ひび割れた宝石は不良品です! 価値がないはずです!」

「じゃあ、確認しましょう」


 ミリアムはバラが生けられている花瓶の側に行くと、花瓶の中を覗き込んだ。


「棘がないので手を入れやすいです」

「花を生ける時に棘をカットしています。怪我をすると危ないので」

「それも知っていたのですね」

「花や花瓶を運んでいますから」


 ミリアムは花瓶に生けられたバラの花をそっと分けると、花瓶の中に隠されていたものを取り出した。


「ありました」


 金の石座に赤い宝石がついた指輪。


 モードの婚約指輪だった。


「凄いお宝です。一緒に見ましょう」


 ミリアムは灯りの方へ持って行き、石に光が当たるようにした。


「中央から外側に伸びる白い筋が六本見えますよね?」

「見えます」

「これは内側に別の物質があって、それに光が当たることで特殊な輝きが発生するからです。このようなルビーをスタールビーと呼びます」

「じゃあ、この白い線は……あってもいいのですか?」

「そうです。あるからこそ、希少品として価値があります」

「そうだったのですね……」


 メアリーは愕然とした。


「スターとは言っても、一般的な星型ではないです。なので、スタールビーという呼称を知っていても、実際にどんな感じなのかは見ないとわからないかもしれません」

「知りませんでした……白い線が見えたので、てっきり内側が割れてしまったというか、問題が起きてしまったのだと思いました」

「ルビーの指輪と言うことしか知らなければ、そう思うのが普通です。赤い宝石として有名ですから。それに比べるとスタールビーは希少性が高いので知らない、見たことがないという人が多いです。だから、安心してください。ただの勘違いです。ルビーはルビーでも、特殊なルビーでした」

「申し訳ありません……」


 メアリーは震えながら謝罪の言葉を口にした。


「全部私の責任です……」

「いいえ、違います!」


 ミリアムはきっぱりと答えた。


「一番悪いのは箱を置きっぱなしにした私です! ちゃんと忘れずにモードかクラリスさんに渡しておけばよかったのに……メアリーさん、本当にすみません。余計なことをさせてしまいました」

「そんな……悪いのは私です。すぐにクラリス様に渡せば良かったのです。蓋を開けたのも間違いです。召使いは宝飾品に触れてはいけないことになっているのに」

「でも、私の担当でした。私の宝飾品をはずしていましたよね? 宝飾品に触れる許可は出ていたのです。中身があるのか、それとも空箱なのかを確認しようと思うのも普通のことです。ただ、指輪を隠すのは不味かったです」

「そうですね。でも……疑いたくなかったのです。ミリアム様も、他の人も。親しくはありませんが、今回仕事をしていて真面目で信頼できる人だと思いました。全員潔白です。他の誰かがきっと……なのに、罪を着せられてしまうと思って……」

「あの部屋にいる全員を助けたかったのですよね?」

「そうです。でも、別室にいた時にわかりました。指輪が見つからないので、クラリス様とマーサは担当者として責任を問われて解雇になると話していました。私のせいです……助けるどころか、逆のことをしてしまいました……」


 メアリーは苦しくてたまらなくなった。だからこそ、泣いていた。


「メアリーさん、本当にすみませんでした! 私が箱のことを完全に忘れていたせいです。大変申し訳ないのですが、一緒に謝ってくれませんか? レイモンド様に本当のことを話して土下座するのです。もちろん、レイモンド様だけでなく、関係者の全員に心から謝る必要があります。大叱責されるのは間違いありませんが、仕方がありません」

「そうですね……心から謝罪します」

「不安だとは思います。でも、一人じゃありません、二人です! 勇気を出して頑張りましょう! ルビーは勇気の石でもありますから! いいですね?」

「はい! ミリアム様のおっしゃる通りです。そうします!」


 ミリアムとメアリーは支え合うように頷き合った。


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