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謎解きに誘われて  作者: 美雪
第五章 婚約指輪の謎

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87 正直に話して



「どうしたのですか?」

「……正直に言ったほうがいいですよね?」

「疑われたくないのであればそうですね」

「じゃあ、話します。見た目からいって宝飾品用の箱です。でも、召使いは重要物に触ってはいけないことになっています」

「宝飾品は重要物ということですね?」

「そうです。なので、本当は箱に触るべきではありませんでした。クラリス様を呼んで、あそこに箱がある、宝飾品の箱ではないかと報告するのが正しい対処です。でも、これには抜け道がありまして」

「抜け道?」

「宝飾品用の箱でも、宝飾品が入っていなければただの箱です。空箱は重要物ではありません」

「それって……空箱だとわかっていたので、クラリスさんに届けたのですか?」

「違います!」


 マーサは慌てて否定した。


「そうではなくて……宝飾品用の箱を見ただけでは、中に宝飾品が入っているかどうかわかりませんよね?」

「そうですね」

「蓋を開けて宝飾品が入っていると、重要物に触ってしまったことになります。でも、蓋を開けなければ、宝飾品が入っているかどうかはわかりません。空箱だと思ったと言えば、触っても平気なのです」

「ああ……なんとなく言いたいことはわかりました。面倒だったのですね?」


 マーサは仕事が早い。それは効率よく仕事をするから。


 その逆である面倒で回りくどいことは嫌い。


 はっきり言ってしまうように、行動もさっさとしたい。


「そうです。寝室に行ってクラリス様に報告して、また応接間に戻って箱を見てもらうなんて面倒じゃないですか。さっさと持っていって渡せばいいだけです。違いますか?」

「違いません。普通のことだと思います」

「このお屋敷では違います。召使いは重要物に触れてはいけないというルールがあるせいで。でも、蓋を開けなければいいわけです。空箱だと思ったと言えば、触っても仕方がないとなります。そもそも高価な宝飾品が入っている箱が無人の応接間に放置されているわけがないですよ! それが普通です!」

「まあ、そうですよね……普通は」


 高価な宝飾品の箱を無人の応接間に放置してしまったミリアムは落ち込んだ。


「クラリス様は細かい部分を指摘して、ルール違反だとネチネチ言うような人ではないです。むしろ、自分が管理しなければならない箱が出しっぱなしになっていたことに動揺し、さっさとしまいます。実際にそうでした」

「そのようですね」

「私が箱に触ったことを誰かに言うこともありません。自分のミスを教えることになるからです。それで大丈夫だと思っていたのですが……まさか本当に空箱だったとは!」

「じゃあ、マーサさんは箱の中に婚約指輪が入っていると思っていたのですね?」

「それはわかりません。見た目としては宝飾品用の箱というだけです。でも、それでいいのです。許可なく宝飾品の箱を開けるのは違反、勝手に開けて宝飾品が入っていたらやはり違反。わざわざ違反行為を何度もするなんてバカですよね? だから、開けません。侍女にさっさと渡せば終わりです。侍女の仕事を補助しただけ。それが今回の仕事ですから」

「そうですね。確かに侍女の補助です。間違ったことはしていません」

「勝手な想像ですが、リチャード様が迎えに来ていたので、追加で持って来た箱かもしれないと思っていました。クラリス様がすぐに金庫にしまったということは、モード様のものだということですからね。それ以外だったら金庫に入れません。ミリアム様のものだったら、奥様の部屋に持って行くはずですから」

「なるほど」

「まさか婚約指輪の箱だったとは……余計に応接間に置きっぱなしなんてありえませんよ!」

「すみません。私のせいです……」


 ミリアムはしゅんとした。


「パーティーで指輪がよく見えなかったので、見せてもらおうと思って。先に支度が終わって暇だから見てもいいとモードに言われたのです」

「凄い指輪なので気になるのはわかります」

「マーサさんは婚約指輪を見ましたか?」

「モード様がお部屋に戻られた時にちらっと。ルビーの指輪、ダートランダー公爵家の由緒ある品だということは知っています。屋敷内で噂になっていましたが、モード様は贈られるまで知らない。絶対に秘密だという通達がありました」

「私と似たり寄ったりの情報です」

「平民の召使いには一生縁がないような品物です。見ても見なくても関係ないと言えば関係ないですね。だというのに、紛失するという意味で関係してしまうとは……最悪ですよ! しかも、箱を発見したのは私です! 疑われてしまいます!」

「どうしてですか?」

「クラリス様に箱があったと知らせる前に、箱から指輪を取ったかもしれないからに決まっているじゃないですか!」

「確かにその可能性もあります。でも、身体検査をした時に持っていませんでした」

「どこかに隠したのかもしれませんよね? 使用人用の化粧室に行きました。戻って来た時ではなく、行く時に箱を見つけたかもしれません。それだと指輪を応接間から持ち出せます。屋敷のどこかに隠したかもしれないってなりますよね?」

「確かに疑われそうな部分がありますね」


 ミリアムはその可能性に気づいていたが、あえて自分からは口にしていなかった。


「疑われたらきりがないです。無実であることを証明するようなものがありません。長年真面目に働いていたことを考慮して信じてくださればいいのですが、どのように判断されるのかを待つしかありません」


 マーサは深いため息をついた。


「召使いは重要物には触らない。このルールの大切さを実感しましたよ。きっとこういうことが起きた時のためにあるのだと思いました。次に発見した時は、すぐに侍女を呼びます。空箱だと思ったという言い訳はやめます。自分に疑いがかけられたら怖いですから!」

「マーサさんはとても真面目な方ですね」

「真面目でないと! それから信用を無くさないようにしないとですよ! そうじゃなきゃ、名門貴族の屋敷で長く働くことなんかできません!」

「マーサさんの言う通りです」

「これからどうなるのか……クラリス様も相当なショックを受けています。出世できそうな機会になるはずが、真逆ですからね」

「わかります」

「祈るしかありません。最悪でも解雇を免れたいです」

「そのためにも協力してください」

「わかっています。だから、こうやって正直に話しています」


 マーサははっきり言う性格。


 思ったことを正直に話してくれているとミリアムは感じていた。


「じゃあ、ちょっと質問内容を変えます。マーサさんから見て、クラリスさんはどんな方ですか?」

「普通です。宝飾品については詳しいようですが、若いです。屋敷のことは私の方が詳しいですね」

「親しくはない感じですか?」

「侍女と召使いでは階級差があります。わざわざ交流はしません。年齢も全然違います。どこかで会っても互いにフーンって感じですよ。でも、仲が悪いということでもないです。普通は普通です。話し相手は召使いだけで十分ですよ」

「面倒とか、うるさいとか、他の侍女が良かったと思いませんでしたか?」

「全然。クラリス様の方がそう思っているかもしれませんね。緑の靴を探せない召使いは無能だとか」

「でも、マーサさんは三人分のお茶とお菓子を持ってきました」

「……本当は秘密にして欲しかったのですが、こういうことがあった以上正直に話しますよね」

「それがいいです。隠していると、他にも隠しているのではないかと疑われてしまいます」

「そうですよね」

「休憩も大事だと思います。休める時に休んでおかないと、あとで動けなくなってしまいます」

「私もそう思います。催事の時は屋敷中が大変なので」


 大勢の招待客がいるため、何かあればダートランダー公爵家の名誉にかかわる。


 召使いも侍女もダートランダー公爵家の使用人にふさわしく振舞う必要がある。


 表に出るような役目ではなくてもその心構えが必要であり、多忙でも全力を尽くすべきというのがマーサの信条であることがわかった。


「クラリス様の負担は相当ですよ。若いのもあって余計にね。それで古参ならではの情報を活かして補助しただけです。座るだけの休憩よりも元気が出るじゃないですか」

「優しいです」

「本当はあまり褒められたことではないです。催事の品の下げ渡しを狙っているわけですからね。でも、厨房関係者はいつものことです。夕食用のデザートのあまりだって、壮絶な奪い合いらしいですよ?」

「役職者が優先とかないのですか?」

「さあ? それは厨房の事情なので。とにかく、催事の時は大量の飲食物を用意して余るのが当たり前です。足りないなんてなったら不名誉ですからね」

「そうですよね。たっぷり用意されますよね」

「必ず残りますし、つまむ程度であれば厨房の人が分けてくれます。モード様の担当で大変だからと言えば、今回は貰えそうな気がしました」

「確かに貰えそうな感じというか、貰えましたね」

「三人分確保できたのはモード様の担当だったからです。普通は厨房に行った者だけしか貰えません。ダメ元で聞いてみて良かったですよ」

「やっぱりマーサさんは優しいです」

「クラリス様もメアリーも喜んでいました。応接間で待機するっていっても、階級も仕事も年齢も違います。いろいろと気まずいですよ。でも、お茶とお菓子のおかげで和んだというか……客人付きの担当として頑張ろうって感じになりました」

「良かったです」

「そうです。そこまでは良かったのですが、そのあとはどん底です。三人とも」

「別室で待機していた時に話していたのですか?」

「それはまあ……全員が泣きたい気持ちというか、泣いていました」


 全員が泣いていた?


 ミリアムは気になった。


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