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謎解きに誘われて  作者: 美雪
第五章 婚約指輪の謎

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75 大量のスイーツの答え



「これも貴族ならではのことでしょうか?」


 ミリアムはヒントとして聞いて見た。


「そうだ」

「婚約した時には大量のスイーツを用意するという決まり、習慣があるからとか」

「否定はしないが、正解にもしない」

「しっかり理由を説明しないといけないようです」

「腰掛椅子の時もそうだった。トレーンがついているというだけでは甘い。トレーンを踏まないことがマナーだが、ソファでもトレーンを踏まないようにすればいいだけだ。腰掛椅子でなくてはならない理由とは言えない。正しく理解する必要がある」


 腰掛椅子が用意されたのは、ドレスにシワがつかないようにするためだった。


 そこにこだわらなければ、腰掛椅子である必要はなかった。


 大量のスイーツも同じ。


 決まりや慣習で用意されたということであっても、何かが不足している。


 ミリアムは大量のスイーツを順番に見つめた。


「様々な種類があります。ケーキも、パイも、チョコレートも、クッキーも。飴までありますが、お茶会では飴を食べそうもありません。なので、何でも揃う。縁起が良いということでは?」

「それも間違いではないが、正解にはしない」

「どう考えても食べ切れません。大量に残ります」


 種類に着目した答えは正解にならなかった。


 そこでミリアムは大量という部分に着目した。


「あとで大勢に配るのでは?」

「誰に配る?」

「使用人です。招待者にはケーキ、使用人にはスイーツを配り、幸せのおすそ分けをするとか?」

「正解だ」


 ミリアムは嬉しそうに笑顔を浮かべた。


「良かったです!」

「パーティーなどのために飲食物が大量に用意される。消費期限があるため、残った分は使用人に下げ渡されるのが普通だ。だが、今回は婚約披露だ。必ず全員に下げ渡せるように、茶会用として大量に用意した」


 主人のものを忠実な者に分け与えるのは信用の証であり、褒美でもあった。


 そのような考え方が貴族の家では伝統として受け継がれている。


「残りものを与えるというだけでは特別にはならない。あえて使用人の全員に届くよう考え、大量に菓子を作っておく。全員で祝うため、幸せを分かち合うための行為という部分が大切だ」

「パーティー用のスイーツでは、招待客次第で使用人の全員に分け与えられるほど残るとは限りません。だから、茶会用のスイーツというわけですね」

「そうだ。家族もどんな種類のスイーツがあるのか、どのような味かを勉強する機会になるだろう。気に入ったものがあれば、お茶の時間や夕食のデザートに出すよう言えばいい」

「お得な勉強です。大掛かりな催しをすると使用人たちは大変ですが、お祝いのスイーツをもらえるなら喜びます」

「ダートランダーは富を得ているが、独占するだけではいけない。ルールや規律に従い、公正な再分配をうながすようにする。忠実な者には手厚く報いる」

「貴族はただのお金持ちとは違うようです」

「貴族の世界は難しい。モードはリチャードの婚約者になったことで苦労が増える。友人として支えてやって欲しい。時に貴族は家や利益を優先しなくてはならず、個人の感情だけではままならないこともある。だが、ミリアムには身分を越えた信頼、友情、英知、豊かな想像力がある。困難に打ち勝てる方法を見つけ出せるだろう。もちろん、二人だけで乗り切る必要はない。私もリチャードもいる。相談して欲しい」

「わかりました。ありがとうございます」

「お茶も飲め。まずは香りを確かめてからだ」

「その次に色、味。どのような食器かもよく観察しておきます」

「皿の裏を見てはいけない」

「裏を見なくても、デザインや形、質感でどこの食器なのかをあてないといけないのですよね?」

「有名なものはわかりやすいと思うかもしれないが、似たようなものも多くある。アンティークの品は専門家であってもわかりにくい。茶会で茶や食器の話題をする者がいても、無理に答える必要はない。会話の流れに任せておけばいい」

「お茶のカップだけに着目しても、相当な知識量が必要そうです」


 レイモンドはお茶のカップを取った。


「冷めている。温かいものに変えるか?」

「そのままでいいです。香りはわかりにくくなりますが、ダートランダーの茶会のお茶です。悪いわけがありません」

「そうだな。おじい様がいるだけに変わった物は出ない。正統派の厳選された茶葉だ」


 ミリアムは礼儀作法の授業で習ったことに気をつけながらお茶を飲んだ。


「とても美味しいです。綺麗に飲むべきですが、普通に飲むことしかできません」

「それでいい。できている」

「良かったです」

「リチャードのほうがよほどマナー違反だ」

「どんなところが?」

「モードの近くに座り過ぎだ。触り過ぎでもある」


 リチャードはモードとぴったりくっつくように座っており、モードの手に何度も口づけていた。


「婚約したことを周囲にアピールするため、わざとあのようにすることもあるだろう。だが、家族の茶会だ。単に浮かれているだけだ」

「特別な日だからです。幸せそうに見えますし、仲が良いのはいいことですよね?」

「おじい様は厳格だ。礼儀作法ができていないのは心の乱れ、紳士ではないとみなす」

「いかなる時も紳士であることが大事なようです」

「そうだ。そこで私とミリアムが重要になる」

「どういうことですか?」


 レイモンドが顔を近づける。小声で囁くためだった。


「おじい様はリチャードの様子を見て呆れているだろう。父上もわかっている。おじい様の機嫌を損ねないよう話しかけ、母上はそれをサポートする。だが、おじい様の機嫌は直らない。それでも叱責はしない。なぜなら、特別な日だからだ。そして、一人だけ客がいる。よくわからない者の前で家族の名誉を傷つけるわけにはいかない」

「なるほど」


 ミリアムも小声で応じた。


「ミリアムを招待して正解だった。おじい様が私とミリアムの様子を気にするほど、リチャードとモードの方には注意を払わなくなる。助けることができる」

「理解しました」

「緊張するのはいい。だが、つまらなさそうな顔や嫌そうな顔はするな。私の話に合わせればいいだけだ。何事も勉強、経験。モードのためだと思え」

「わかりました」


 レイモンドが体勢を元に戻す。


 その表情は冷静そのもの。


 レイモンド様は優秀な策士です……私かいかに冷静さを装っても、絶対に敵いません!


 ミリアムは心からそう思った。


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