74 家族のお茶会
急な変更で慌てたものの、ミリアムとモードは婚約披露パーティーに向かった時の服装に着替えることができた。
ドアが強くノックされる音がしたため、先に着替え終わったミリアムがドアを開けに行った。
「支度はできたか? おじい様が来る前に行く必要がある」
二人を迎えに来たレイモンドとリチャードが廊下で待っていた。
「私は終わっています。モード! 迎えが来ました! 急ぐようです!」
「今行くわ!」
先に姿をあらわしたのはメアリーだった。
そのあとでモードが白いドレスのスカートを持ち上げながら寝室から出て来た。
「あとはお願いね!」
「はい!」
「かしこまりました!」
クラリスの声が寝室から聞こえ、モードのトレーンを持って応接間に来た。
「ミリアム様、私がドアを抑えます! 廊下へどうぞ!」
メアリーと交代してミリアムが廊下に出ると、続いてモードも廊下に出た。
「ミリアムは私のあとから来て! トレーンを絶対に踏んではダメよ! 引っ掛かりそうな時があったら教えて!」
「わかりました!」
「僕がトレーンを持つよ! 長いから!」
リチャードが申し出た。
「ありがとう!」
さすがリチャード様です!
優しいとミリアムは思った。
「ミリアムのトレーンは短い。平気だな?」
完全なる差。
だが、トレーンが短いのは確かだった。
「大丈夫だと思います。でも、廊下を走ったらマナー違反ですよね?」
「緊急事態だけに許す。一応言っておくが、スカートを持って上げる場合はくるぶしまでだ。それ以上ははしたないと思われる。途中でおじい様に会うかもしれない。気をつけろ!」
「くるぶし……」
それでも上げられないよりはまし。
マーメイドラインですし、ヒールが低くても走りにくいです……。
モードは靴のヒールが高くドレスも豪華だが、慣れているとばかりに移動速度は速い。
リチャードがトレーンを持っているため、ひっかかる心配もない。
一番遅いのはダントツでミリアムだった。
「おじい様、わざわざ来てくれるなんて嬉しいです!」
リチャードは満面の笑みを浮かべながらダートランダー公爵を出迎えた。
「どっちだ?」
ダートランダー公爵は緊張した面持ちで立っているモードと落ち着いているミリアムを鋭い視線で見つめた。
「白いドレスの女性が僕の婚約者です」
モードが一歩進み出た。
「モード・チェスタットと申します。ご挨拶できますこと、光栄に存じます」
モードは完璧な淑女の礼を披露した。
「もう一人は?」
「モードの友人のミリアムです」
「ダートランダー公爵だ。挨拶しろ」
レイモンドが付け加えた。
「ミリアム・ワイズと申します。ご挨拶できますこと、光栄に存じます」
ミリアムもモードを真似して淑女の礼をした。
「茶会に出席するのは家族だけだと聞いたが?」
「僕の夢が叶ったのはキューピッド役を務めてくれた兄上とミリアムのおかげです。婚約披露パーティーが終わった後、あらためてお礼を伝えるためにお茶会に招待しました」
「父上、リチャードはずっとモードと結婚したがっていた。だが、モードの気持ちを確認できなければ一方的な想いでしかない。ミリアムのおかげで確認できた。功労者だ」
ダートランダー伯爵が理由を補足するように説明した。
「そうか。だが、家族の茶会に加えるほどなのか?」
「レイモンドがぜひ一緒にと言ったのです」
ダートランダー伯爵夫人が答えた。
「今後のためにも貴族の礼儀作法を勉強させたいと言って。ミリアムの衣装と宝飾品を用意したのもレイモンドです」
「えっ?」
ミリアムは初耳だった。
てっきりダートランダー伯爵夫人が用意したと思っていた。
「レイモンドが? その女性と親しいのか?」
「自分の衣装は自分で決める。それに合うような衣装は私でなければわからない。ドレスに合う宝飾品も私のほうで決めた方が早い。母上が選ぶと流行を重視し、露出が高く派手になる。控えめなものを用意したかった」
レイモンドが説明した。
「わざと同じ色にしたのか?」
「面倒な者が多いからだ。牽制になると思った」
「どこの家の者だ?」
「取引先の令嬢だ。個人的にも信用している」
「なぜだ?」
「別邸の図書室の件を知っている。あの件でも功労者だ」
ダートランダー公爵は眉を上げた。
「なるほど」
「今日はリチャードとモードにとって特別な日だ。おじい様もわかっているからこそ本邸から来た。水を差して欲しくない」
「そうだな」
ダートランダー公爵はゆっくりと頷いた。
「特別な日だからこそ、特別な許しを与える。全員席につけ」
その言葉によって安堵の雰囲気が広がった。
ダートランダー伯爵夫妻がにこやかに席への移動をうながす。
モードはリチャードと、ミリアムはレイモンドにエスコートされてソファに座った。
古参の執事たちがきびきびと動き、最高級のお茶と多種多様なスイーツが用意された。
話題は婚約披露パーティーのこと。
ミリアムはレイモンドの隣に座るように言われたため、ダートランダーの家族が集まる茶会の雰囲気を壊さないようじっとしていた。
「緊張するだろう。だが、貴族が家族で集まってこのように過ごすことを知る勉強ができる」
「そうですね」
「お茶や菓子も楽しめ。今日は特別な日だけに、大目に見てもらえる」
「わかります。でも、ドレスに何かあったら困ります」
「気にするな。お茶と菓子、どっちがいい? 取ってやる」
「お菓子で……」
こぼしても被害が少ない方をミリアムは選んだ。
「どんな菓子が好みだ?」
「今の気分ではクッキーです」
「チョコレートがついたものにするか? 果物入り、ナッツ、ジャムがついているのもある」
「できるだけシンプルなものがいいです。粉砂糖のは絶対にダメです。落ちそうなので」
「わかった」
レイモンドは数種類クッキーを小皿に取るとミリアムに渡した。
「いくらでも食べていい。遠慮は無用だ」
「ありがとうございます。でも、ここまで配慮しなくても大丈夫ですよ?」
「今日はエスコート役でもあるからだ。このような機会は滅多にない。しっかり勉強しろ。私もエスコート役としての経験値を積む機会にする」
「わかりました。それにしても、こんなに多くのスイーツが用意されるとは思いませんでした」
大きなテーブルの上に所狭しとばかりに置かれているが、わざわざ他のテーブルを追加してまで多種多様なスイーツが用意されている。
家族のお茶会だけに参加するのは少人数。
明らかに過剰過ぎるほどの量だった。
「特別なお茶会ということで豪華なのでしょうか?」
「それもある。だが、別の理由もある。ちょっとした謎解きだ」
腰掛椅子の次は大量のスイーツの謎に挑戦だった。
答えは次話です。




