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謎解きに誘われて  作者: 美雪
第五章 婚約指輪の謎

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72 お着替え



 寝室にいたモードは赤いドレスではなくガウン姿。宝飾品もつけていない。くつろぐようにベッドの上に座っていた。


「モード、こちらで着替えることになりましたのでお邪魔します」

「聞いているわ。ダートランダー伯爵夫人がいない時にミリアムを通すわけにはいかないから、私の部屋で着替えるって」

「もしかして、私が最初に着替えた時の部屋はダートランダー伯爵夫人の部屋だったのでしょうか?」

「そうみたいね。ダートランダー伯爵夫人が直々にミリアムの支度をすると張り切っていたから」

「モードは着替えないのですか?」

「足が痛いから休んでいるところよ。正直、動きたくないわ」

「ずっと立ちっぱなしでしたからね。私も会場にいる間は座れなかったのでよくわかります」

「ミリアム様、まずは宝飾品をはずしますので、椅子にお座りください」


 ミリアムが椅子に座ると、メアリーが順番に宝飾品を取っていく。


「傷がないかどうかの確認はあとでするわ。とりあえず箱にしまって頂戴」


 侍女のクラリスがメアリーに声をかけた。


「わかりました」

「モード様、このあとのお茶会ですが、婚約指輪をつけられますか?」

「家族だけの集まりだからつけなくていいわ。大切な品に傷をつけたら大変だもの。確認が終わったら金庫にしまっておいて。晩餐会にはつけるわ」

「かしこまりました」


 ミリアムが視線を変えると、クラリスがモードのために用意された宝飾品を順番に確認しているのが見えた。


 ルーペを使っています。なんだか宝石の鑑定家みたいです……。


 かなり本格的な確認作業のようだとミリアムは感じた。


「モード、帰る前に婚約指輪を見せてもらうことはできるでしょうか? 私のいた位置からはよく見えなかったので」

「着替えが終わったら見せるわ!」


 モードがにっこり微笑んだ。


「パーティーで散々見せびらかしたけれど、ミリアムはいなかったわね」

「モードが婚約指輪を見せびらかしているうちに会場を出ました。ずっと立ちっぱなしだったので、他の部屋で休んでいるように言われました」

「そうだと思ったわ」

「婚約指輪の宝石ですが、予想通りでしたね」


 ようやく言えるとミリアムは思った。


「そうね!」


 モードはパーティーの途中で赤いドレスに着替えることになっていたため、赤いドレスに合う宝石の婚約指輪――ルビーの指輪ではないかと予想していた。


「ダイヤモンドはすでに貰っているから、婚約指輪は別の宝石でもいいってリチャード様に伝えていたのよ。それでルビーにしたみたい。素敵な指輪で良かったわ!」

「では、心から喜んでいるのですね?」

「当たり前でしょう? まさか私が気に入らないと言うとでも思ったの?」

「そうではないのですが、モードはお洒落です。宝飾品にもこだわると思うので、リチャード様は選ぶのが大変だったのではないかと思って」

「リチャード様はお洒落でセンスがいいのよ。だから、大丈夫だと思っていたわ」

「確かにリチャード様はいつもお洒落な服を着ていますね」

「ダートランダー公爵家は格が高い貴族でしょう? 当主であるダートランダー公爵から正統な服装をするよう言われてしまうらしいわ」


 若い世代は流行に敏感である方がいい。


 情報通であることを示すためにもお洒落な装いは必要だとリチャードが説明した結果、学生時代はそれでもいいとなったことがわかった。


「自分の好きな服を着るだけでも大変のようです」

「今日のパーティー、ダートランダー公爵夫妻がいなかったでしょう?」

「そう言えばいませんでしたね。ご高齢だからでしょうか?」

「公爵夫人は領地にいるの。公爵は本邸に戻っているのだけど、パーティーの主催はダートランダー伯爵夫妻なのよ」

「ダートランダー公爵がいないのであればそうなりますね」

「わかっていないわね。貴族の家における重要かつ正式な催しは基本的に当主が主催なの」


 婚約は重要な催し。通常は当主のダートランダー公爵が主催する。


 しかし、今回はリチャードの両親が主催であるため、婚約とは言っても絶対に結婚するとは限らない。


 現状としては両親の許諾を得た上で結婚を前提とした交際をしていることを正式に披露するための催しであることが説明された。


「ダートランダー公爵はお父様のことをまだ怒っていて、絶対に当主の主催にはしないって言われてしまったみたい」

「まだあの件は完全に解決したわけではないのですね」

「そうなのよ。チェスタット伯爵家の者は本邸に出入り禁止なの。婚約が内定した時にも挨拶できなかったし、パーティーにもお茶会にも来てくれないわ。晩餐会で会えると聞いているけれど、私が本邸に入れないからこちらでするそうよ」

「そんな事情があったとは……」

「でも、婚約できただけでも嬉しいわ。リチャード様の婚約者として努めれば、いつかダートランダー公爵にも認めてもらえるはずよ」

「モードなら大丈夫です。ダートランダー公爵に必ず認めてもらえます」

「リチャード様との結婚については大丈夫だと思うわ。だけど、他のこともあるし……」

「まだ何かあるのですか?」

「リチャード様が婚約したわけだから、レイモンド様もそろそろ婚約しないとでしょう? 年上だもの」

「そうかもしれません」

「レイモンド様は候補を蹴散らしていたわ。王都郊外にある別邸でね」


 ミリアムは思い出した。


「そんなこともありましたね」

「でも、いずれは決まるわ。跡継ぎなのに結婚しないわけにはいかないもの」

「そうですね」

「リチャード様が私を大事にするほど、弟想いのレイモンド様も私に配慮するわ。そのせいでレイモンド様の婚約者から目の敵にされてしまったら嫌だわ。だから、ミリアムも頑張って!」

「何を頑張るのですか?」

「レイモンド様とのことよ! 女性らしさを磨いて知り合いから恋人に昇格するのよ!」


 ミリアムはまたかと思うしかない。


 モードはお洒落なだけでなく恋愛にも非常に興味を持っている。


 好きな人に告白できず悩んでいる女性を助けてあげたエピソードは数知れず。


 だが、勝手にレイモンドとくっつけようとするのは困ることだった。


「私は平民です。ありえません。その気もありません。別の女性を応援してあげてください」

「それはできないわ。レイモンド様の心を動かす女性でないとね。ミリアムはレイモンド様の心を動かしたでしょう? でなければ、同じ色の衣装を着ることを許すわけがないわ!」

「説明しましたよね? キューピッド役として衣装を揃えただけです」

「女性避けのために決まっているわよ。でも、男性も近づけなかったわ。そのせいで私とリチャード様のところに人が集まっていたわ」

「大人気でしたね。まさに主役という感じでした」

「次々と話しかけられて、少しだけでも分散してくれたらと心の中で思っていたわ。ミリアムはレイモンド様と二人きりでゆったり会話を楽しんでいたわね? たくさんの女性がミリアムを羨ましがっていたわ!」

「睨まれているだろうとは思っていました。平民なので悪く言われていそうです」

「リチャード様は私の友人だと答えて名前を伏せていたし、大切な取引先の令嬢だと説明していたわ。ダートランダーへの配慮もあるから大丈夫だと思うわよ」

「そうであって欲しいです」

「心配なら、レイイモンド様と親しくしておきなさい。何かあったら助けてくれるわ。むしろ、レイモンド様の助けなしにダートランダー絡みの問題を解決するのは難しいと思うわ」

「そうですね……」

「大金持ちの取引先があるのは良いことでしょう?」

「ダートランダー公爵家の依頼を受けたということで、店の評判も売り上げもよくなっているのは確かです」

「レイモンド様と私のおかげね!」

「さすがモード。しっかりと自分のこともアピールしています」

「当たり前でしょう?」

「モード様、ミリアム様、お時間がありますので、そろそろ着替えを……」


 会話のタイミングを見計らいクラリスが声をかけてきた。


「そうね。家族のお茶会だけど、ミリアムも参加よ!」

「気遣いは無用です。家族だけでくつろがれては?」

「ダートランダー伯爵一家からの招待よ。ゆっくりしていって。貴族の世界を知る勉強にもなると思うわ」

「ミリアム様はこちらの衣装にお着替えください」


 メアリーが見せたのは青灰色のロングワンピースだった。


「青灰色のドレスの次は青灰色のロングワンピースですか?」

「パーティーの途中でドレスに問題が起きた時の予備として用意されました。せっかくですのでご着用くださいとのことです」

「それで同じ色、丈も長めなのね」


 モードはロングワンピースを着るミリアムをじっと見ていた。


「わかるけれど、青灰色なんて……レイモンド様は間違いなく策士ね」

「どんな策ですか?」

「それはもちろん女性避けの策よ」

「私では全然。モードのように美人でないと意味がないように思います」

「レイモンド様が顔で相手を選ぶわけがないでしょう?」

「顔だけではありません。身分も家柄もお金もないし、頭だって良くないです。どこにでもいるような平凡な人間ですが?」

「大間違いよ! 謎解きの才能があるでしょう? 賢者の子孫であることを誇ったら?」

「またそれですか」


 ミリアムはため息をついた。


「お気に入りの設定よ! 私だけでなく、リチャード様やレイモンド様にもね!」

「びっくりするほど好評で困惑します」

「私の周りにああいった話を作り出せる人はいないわ。レイモンド様やリチャード様だってきっと同じように思っているはずよ。ミリアムの豊かな想像力を純粋に好ましく思っているってこと」

「そうでしょうか? 子どもっぽいと思われていそうです」

「私もミリアムも子どもだもの。だからいいのよ」

「子どもというような年齢ではありません」

「だったら、さっさと素敵な男性を見つけなさいよ! 同級生の私は婚約したのよ? 想い人さえいないミリアムはかなり遅れているわ!」

「平民が結婚する平均年齢は貴族が結婚する平均年齢よりも遅いのです。まだまだ猶予があります」

「そういうところで身分を持ち出すなんてずるいわ!」

「平民の方が得なこともあると言いたくて」


 会話を楽しみながら、二人の支度が進行していく。


 先にミリアムの支度が終わった。


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