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謎解きに誘われて  作者: 美雪
第五章 婚約指輪の謎

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70 腰掛椅子の答え



「ヒントをあげるのは問題ないか?」


 レイモンドが確認するように聞いた。


「問題ないわ。じゃあ、リチャードからヒントをあげて」

「僕から? じゃあ……貴族やお金持ちの女性ならではの事情があるから。これはどう?」

「いいヒントだわ!」

「良かった!」


 モードとリチャードは微笑み合うが、ミリアムにとってはヒントとは言えなかった。


 なぜなら、すでに貴族ならではの特殊な事情があるのはわかっている。


 それに金持ちの女性が加わっただけだった。


「別の視点におけるヒントが欲しいのですが?」

「ミリアムはどんな姿をしている?」

「おめかししています」

「貴族の令嬢のようではないか?」

「そうですね」

「つまり、そういうことだ」

「貴族が着用するような姿をしている時は、腰掛椅子に座れないのでしょうか?」


 ミリアムはそう答えたが、違うことはわかっていた。


 前に貴族の若者たちが参加する園遊会に行ったことがある。


 その時にもおめかしをしたが、腰掛椅子だけにしか座れなかったということはない。


 ダートランダーの別邸に行った時もそう。


 普通に椅子やソファに座っており、特別なルールがあったようには思えなかった。


「よく考えろ」

「次は私からヒントをあげるわ。衣装をよく見て?」


 ミリアムは自分の衣装に視線を移した。


「青灰色です」

「そうね!」


 モードは喜んだ。


「レイモンド様と同じ色だわ! 私にとってはその方が謎よ!」

「謎ではありません。私とレイモンド様はキューピッド役を務めたということでペアなのです。一緒にいるのに合わない衣装だとおかしいので、色を揃えたと聞きました」

「そうなのね。でも、わざわざ青灰色にするなんて!」

「レイモンド様が青灰色の衣装だからです。それで私も衣装も青灰色になっただけです」


 謎でもなんでもないとミリアムは思った。


 だが、モードにとってはおかしくてたまらない。


「ミリアムは貴族の常識を本当に知らないわね!」

「平民だからです」

「その通りだ。わからなくてもいいと思うかもしれないが、貴族といる時に自分だけわからない。ついていけない。困ることになるかもしれない。勉強しておく方がいいだろう」


 冷静な表情のレイモンドが答えた。


「ミリアムは私が出した謎も別邸に隠されていた謎も解いた。衣装の謎も視点を変えれば気づける。後ろを見ろ」


 ミリアムの目に映ったのはトレーンだった。


「もしかして、トレーンのせいですか?」

「それでも正解にすることはできるけれど、正しく理解しておかないとね。よく見ていなさい」


 モードは腰掛椅子のところへ行くと、ドレスのスカートを持ち上げ、腰掛椅子にかぶせるようにしてから座った。


「準備中の時はこうやって座るのよ。さすがにその理由はわかるわよね?」

「座った時にシワをつけないようにするためですね?」

「正解よ。せっかくお洒落をしたのに、パーティー会場にシワのついたドレスで行くなんてがっかりでしょう? だから、腰掛椅子に座っておくのよ」

「お洒落好きなモードにとっては簡単な謎でした。でも、学校の礼儀作法の時間では教えてくれませんでした」

「それはそうよ。マナーでないもの。あくまでもドレスの状態にこだわるかどうかね。だけど、トレーンについては絶対に踏まないように座るのがマナーよ。そうすれば、座ったことでドレスにシワがついてしまっても、上についているトレーンが隠してくれるわ」

「なるほど。トレーンはシワを隠すためについているのですね」

「違うわよ」


 モードは呆れ顔になった。


「ミリアムのドレスの場合はお洒落と見た目のボリューム調整よ」

「そういえばそうでした。ダートランダー伯爵夫人が貧相に見えないようについていると言っていました」

「昔はトレーンが長いほど身分が高いことをあらわしていたの。現在は主役であること、フォーマルであること、優雅さを演出するため、お洒落のためについているわね」

「主役であるモードのドレスにトレーンがついているのはわかります。でも、私は招待者の一人でしかありません。トレーンがついているドレスを着てもいいのでしょうか?」

「レイモンド様と一緒なのよ? 当然、注目されるわ。貧相なドレスではダメ出しのオンパレードになるわよ? 余計に睨まれるわ?」

「余計に睨まれる?」


 ミリアムは眉をひそめた。


「なぜですか?」

「鈍感過ぎるわ! リチャード様が婚約したということは、素敵な独身男性が減ってしまったということよ。婚約者がいないレイモンド様に対する熱い視線が増えるに決まっているわ!」

「確かにこれまで以上にモテそうです」

「でも、レイモンド様がエスコートをする女性がいたら? 同じ色の衣装を着ているし、恋人かもしれないと思うわよね? 心の中ではともかく、あからさまにミリアムの悪口を言いにくくなるわ」


 ミリアムはハッとした。


「まさか……キューピッド役で揃えるというのは建前。私を女性避けに利用するつもりで衣装を用意してくれたのですか?」

「私やモードの側にいれば注目される。相手を悪く言うため衣装に難癖をつけるのはよくある手法だ。ダートランダーで用意し、同じ色にすることでミリアムを守る効果を強くした」


 ただ衣装を用意するというだけでは、ダートランダー伯爵夫人が用意したと思われる。


 同じ色にしておけば、レイモンドも了承済みの衣装だとわかる。


 レイモンドがしぶしぶモードの友人をエスコートしていると思われないためであることがわかった。


「余計な勘繰りをしてしまいました。申し訳ありません」

「謝る必要はないと思うわ。レイモンド様が人に囲まれて困った時、ミリアムを利用する気なのは明らかよ。今日はエスコート役だからという理由をつけてね」

「やっぱり私を利用する気です!」

「そうだ。だが、勉強にも経験にもなる。苦労もあるかもしれないが、あとでいいことがあるかもしれない。まずはパーティーを乗り切るよう努めろ」


 あとでいいこと……?


 ミリアムの頭の中に浮かんだのは本。


「また本をくれるということですか?」

「欲しい本を決めたのか?」

「まだです」

「別のことだ。ミリアムなら喜ぶのもわかっている」

「私が喜ぶこと……」


 ミリアムの頭の中に浮かんだのは図書室だった。


「もしかしてこのお屋敷の」

「待て。この謎は今すぐ解く必要はない。楽しみにしておけばいい」

「わかりました!」


 ミリアムの表情は一気に明るくなり、その目が輝くように活き活きとしたものになった。


「謎が解けていないのに嬉しそうだわ」

「そうだね。期待しているみたいだ」

「モードのために笑顔をふりまくのも友人の務めだ」


 その通りだと誰もが納得した。


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