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謎解きに誘われて  作者: 美雪
第五章 婚約指輪の謎

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69 赤の客間



 モードは特別な支度や当日の打ち合わせをするために前日から泊まり込んでおり、二階にある赤の客間にいた。


「ミリアム! 待っていたわよ!」

「まずはお祝いを。リチャード様との婚約、おめでとうございます」

「ありがとう! 上品で優雅なドレスね! 体の線が美しく見えるし、何よりもトレーンが素敵だわ!」


 モードの称賛はミリアムのドレスに対するものばかり。


 正直でモードらしいとミリアムは思った。


「このような素晴らしい衣装を用意してくれたことに心から感謝しています。ですが、モードには到底及びません。まるで花嫁のようです。これから結婚式をするように見えます」


 モードは白いドレス姿。


 ミリアムのドレスについているよりも長いトレーンがついている。


 ウェディングベールがあれば、どこからみても花嫁にしか見えないような印象だった。


「リチャード様の希望なのよ。どうしても結婚した気分を味わいたいって」


 普通は女性の方がそう思うのではないかとミリアムは感じた。


「ウェイディング用にできるドレスがあれば、いつでも結婚できる。安心できると思った」


 リチャードは白いドレス姿のモードにうっとりするような眼差しを向けた。


「早く大学を卒業したい」

「しっかり勉強して、優秀な成績で卒業してくれないと困るわ。学歴は一生ものよ。安定した職につくためにも大事だわ」

「わかっているけれど、官僚になれるかどうかはわからない。新人の給与は低いだろうし、自由に使えるお金が少ないのも心配だ」

「どこに務めても新人の給与は低いわよ」

「そうだけど」

「リチャード様は官僚を目指すのですか?」


 ミリアムにとっては初耳だった。


「てっきりダートランダー公爵家に関係した仕事をするのだと思っていました」

「僕は次男だからね」


 レイモンドはダートランダー公爵家の事業を継ぐため、祖父や父親の元で学ばなければならない。


 しかし、リチャードについては本人次第。


 ダートランダー公爵家の庇護を受ける方が得のように思えるが、常に次男の立ち位置で我慢しなければならず、両親や祖父母に従う立場から抜け出せないデメリットもある。


 独立すれば自由だけに、大学卒業後は社会経験を積むためとして別の道に進むことがわかった。


「ダートランダーの事業の手伝いをするとしても、関係ない就職先で社会人としての経験を積んでからでないとダメだって言われている」

「結婚後はリチャード様の給与だけで暮らさないといけないの?」

「ここに住めば生活費はかからない。僕のための予算もあるけれど、使い道は全て管理されている。ハンカチ一枚であってもどの店のどんな品だったのかをチェックされるよ。結婚したらモードも同じだ。自由に使える小遣いが少ないという感じかな」

「でも、ダートランダー公爵家にふさわしくないお店で買い物をしたらダメよね?」

「ダートランダー公爵家の御用達の店や商人から買うなら僕の予算、あるいはモードの予算から出せるよ」

「チェスタット伯爵家が利用する店はダメなの?」

「物によるかな。御用達との付き合いが減るのは歓迎できない。付き合いが長くて信用できる相手と取引したいと言われるはずだよ」

「わかるわ。信用はとても大事だもの」


 モードとリチャードが話す様子を見ていたミリアムは部屋を見回した。


 内装は赤を基調とした応接間で、美しい調度品に使われているのも赤と金色。


 コンソールの上には金の花瓶に大輪の赤いバラが生けられている。


 だが、二つある腰掛椅子の張地は緑。


 違和感があった。


「座るか?」


 腰掛椅子を見つめるミリアムにレイモンドが声をかけた。


「この部屋は赤を基調としています。でも、腰掛椅子は緑色です。どうしてなのでしょうか?」

「別の部屋から持って来たからだ」

「そうですか。でも、ソファに座ればいいですよね?」

「女性はソファに座れないだろう?」

「女性は座れない?」


 ミリアムは純粋に驚いた。


「ここはモードの部屋では?」

「そうだ」

「モードは女性です。ソファがあるのに座れないということですか?」

「そうだ」

「おかしいですよね?」

「おかしくない」

「どうしておかしくないのですか? もしかして、貴族ならではのルールがあるのでしょうか?」

「貴族ならではというのはわかるが、ルールというほどのものではない」


 ミリアムは気づいた。


「レイモンド様、私がわかっていないことを面白がっていますね?」

「ミリアムにとっては謎のようだが、私にとっては謎ではない」

「それはここがダートランダー公爵家の屋敷だからですよね?」

「跡継ぎである伯爵一家が住む屋敷だ。だが、ダートランダーの者でなければわからないということではない」

「モードでもわかるでしょうか?」

「わかるに決まっている。モード、少しいいか?」

「何でしょうか?」

「理由は説明しなくていい。だが、なぜ緑色の腰掛椅子が二つあるのかわかるな?」

「わかるに決まっています」

「ミリアムにはわからないらしい」

「えっ!」


 モードは驚いた。


「ミリアムにはわからないの?」

「別の部屋から持って来たことについて教えてもらいました」

「だったら、わかるわよね?」

「腰掛椅子だけが緑である理由はわかりました。でも、腰掛椅子があるのは、女性がソファに座れないからだと言われました」

「そうよ。だから、腰掛椅子が必要なの」

「どうして女性はソファに座れないのですか?」

「そういうことね」


 モードはたちまち笑いをこらえるような表情になった。


「おかしいわ!」

「ですよね?」

「そうじゃなくて……ミリアムのことよ!」

「私ですか?」

「女性がソファに座れない理由をミリアムはわからないのよね?」

「そうです」

「私よりも謎を解くのが上手なのに、こんな簡単なことがわからないなんて!」

「ミリアムが平民だからだよ」


 リチャードもおかしそうな表情をしながら答えた。


「だから、普通だと思うな」

「そうかもね」

「やはり貴族ならではの特殊な事情があるようですね? 教えてください」

「あら、せっかくだもの! 謎解きを楽しんだら?」


 モードが茶目っ気たっぷりに答えた。


「そういうものだと思えば、謎でも何でもありませんが?」

「そうね。じゃあ、ソファに座れない理由を教える必要はないわね」

「レイモンド様、教えてください。なぜ、女性はソファに座れないのでしょうか?」

「兄上、答えてはダメだよ。モードはミリアムに謎解きをさせたいようだから」


 突然の謎解きが始まった。


 答えは次話になります。

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