68 婚約披露
久しぶりの更新になります。
楽しみに待っていてくださった方、ありがとうございます!
今回はちょっと長めの章になりそうですので、よろしくお願いいたします!
ダートランダー公爵邸でリチャードとモードの婚約パーティーが行われる日が来た。
迎えの馬車に乗ってダートランダー公爵家に向かったミリアムは、到着するとすぐにダートランダー伯爵夫人のところへ案内され、ダートランダーで用意した衣装に着替えることになった。
「とても似合っているわ」
ミリアムのために用意されていたのは青灰色で緩やかなマーメイドラインのドレス。
薄い生地を重ねられたもので軽やかに見えつつも、後方についているトレーンが優雅な印象を与えていた。
「ありがとうございます。まさかアクセサリーも貸していただけるなんて思いませんでした」
「ドレスはミリアムのサイズに合わせて特注したのよ」
「えっ!」
ダートランダー伯爵夫人の言葉を聞いたミリアムは驚いた。
「オーダーメイドということですか?」
「そうよ。サイズは前にはかった時のものだから、太っていなくて良かったわ。アクセサリーもドレスに合わせて購入したの」
「アクセサリーも?」
ミリアムは平民。
貴族の催しに着ていけるようなドレスは持っていない。
婚約披露という特別なパーティーに招待されても着ていくドレスがないという理由で不参加にならないようダートランダーで用意してくれることになっていた。
だが、ドレスだけでなくアクセサリーまで購入しているとは思ってもみなかった。
「いずれリチャードとモードの結婚式もあるでしょう? その時にも招待するから、ミリアム用のアクセサリーを用意しておくことにしたの。小さいけれど、サファイアとダイヤモンドなのよ」
「どちらも硬度が高いので傷つきにくい宝石です。貸していただいても傷をつけてしまう可能性は低そうです」
「着目すべきはそこではないでしょう?」
ダートランダー伯爵夫人はミリアムを残念な目で見つめた。
「普通は石言葉に着目するのよ」
「サファイアの石言葉は誠実・慈愛・忠実。ダイヤモンドは永遠の絆・純潔・不変です。宝石において最も高価と言われるのがダイヤモンドですが、色で人気や価格が違ってきます。最も希少性が高いのはレッドダイヤモンド。非常に小さな石でもかなりの値段がつきます」
「会話というより専門家の解説ね。金額的な話は無粋になるわ」
ダートランダー伯爵夫人のダメ出しが続く。
「貴族の社交においては、もっと華やかで楽しい話題になるような工夫が必要よ」
「内容は合っていても、華やかさや楽しさが感じられなかったということでしょうか?」
「そうよ。例えばだけど、石言葉を考えると恋人や花嫁に贈るのにぴったりでしょう? サファイアは花嫁が身に着けるサムシングブルーの一つに選ばれることが多いの。ダイヤモンドは愛の証として婚約指輪に選ばれることが多いわ。婚約披露のパーティーだから、そういった方向で話をしていくといいわ」
「なるほど。祝い事なので、話題や雰囲気も揃えるようにするわけですね」
「そうよ。難しく考えることはないわ。できるだけ良い話題にすること、それから他の人がわかりやすい方がいいわね。専門的だと会話が続きにくいし、知識をひけらかしていると思われてしまうわ」
「リチャード様が選ばれた婚約指輪がどんなものか楽しみです。こういった感じでしょうか?」
「それなら合格よ! 誰もがそう思っているでしょうから、予想で会話が盛り上がるわ!」
リチャードは婚約披露のパーティーでモードに婚約指輪を贈ることになっている。
それまではどんなものかは秘密ということで、モードは非常に気にしていたのをミリアムは知っていた。
「モードもどんな婚約指輪なのかが気になって仕方がないらしく、とても楽しみにしていると言っていました」
「そうよね。でも、正直に言うと別のものにした方が良かったと思うのよ」
「別のものに? 婚約には不向きな宝石なのでしょうか?」
「こっそり教えてあげるけれど、ルビーなの。愛を示す宝石として人気だけど、縁起が悪い気がして」
縁起が悪い?
ルビーの石言葉は勝利・情熱・勇気、愛。
リチャードが猛烈にモードを愛している気持ちをあらわすのにぴったりだとミリアムは感じた。
「もしかして、愛の疑惑という石言葉あるせいでしょうか? でも、あれは深い愛によって生じる嫉妬や疑惑を消すという意味だと本にありました」
「そうなのね。石言葉は良いと思うのよ。それにダイヤモンドの指輪はすでに贈ってしまったわ。またダイヤモンドなのってモードが思ったら困るでしょう?」
「そうですね」
リチャードはモードに告白する時、ハートシェイプのダイヤモンドがついた指輪を贈った。
モードは恋人の指輪だと言って喜んでいたが、正式な婚約の証としてまたしてもダイヤモンドの指輪を贈るのはどうかというのはある。
それならリチャードの気持ちをあらわすものとしてルビーの指輪にするのはおかしくない。
「私だったらダイヤモンド、サファイア、エメラルドのどれかがいいと思うわ」
「王道の宝石ですね」
「ルビーがダメだということではないの。だけどあれは……まあいいわ。それよりもミリアムのつけるアクセサリーについて教えてあげないとね。自分の宝飾品について聞かれた時に知らない、借り物だと答えてはダメよ。とても恥ずかしいことだわ」
「私にとってはありがたいことなのですが?」
「そう言うのもダメなのよ。身分が低いことや裕福ではないことを自ら宣伝することになってしまうわ。相手に見下されないよう余計なことは言わないこと。必要最低限は説明できるようにしなさい」
ミリアム用のアクセサリーは地金がプラチナ。サファイアとダイヤモンドはどれも小さいものばかりであるため、高価な部類ではない。
パーティーに参加する時やおめかしして外出する時につけるようなものだが、貴族の感覚では控えめ。日中用にするのが望ましい。
夜用はもっと豪華なものをつけるほうがいいことが説明された。
「平民だけの集まりなら、フォーマルな場でつけても平気よ。だけど、モードのような貴族の友人もいるでしょう? 貴族から招待された時には注意しないといけないわ。夜のパーティーにつけたら、貧相な宝飾品だと思われてしまうわよ」
「これで控えめとは……」
ミリアムにとってわかりにくい価値観。
しかし、ダートランダー伯爵夫人がつけているゴージャスなアクセサリーを見れば、控え目だというのは理解できることだった。
「園遊会の時の装いよりもずっといいわ。どこから見ても貴族の令嬢に見えるわよ」
「私もびっくりです。でも、裾が床についているので歩きにくいです。トレーンもありますし……」
「仕方がないわ。そういうドレスだもの」
園遊会の時のドレスは野外で歩くのがわかっていたため、ドレスの裾が地面につかないように少しだけ上がっていた。
今回はドレスの裾が完全に床についているばかりか、後方についているトレーンは完全に引きずっている状態だった。
「でも、ちゃんと理由があるのよ。緩やかなマーメイドラインは細身で綺麗な印象があるけれど、フリルとか刺繍とか何かしら工夫をしないと貧相にも見えやすいの。それでボリュームをつけたすためにトレーンがついているのよ」
「なるほど」
「ダンスをしなくて済むようにするためでもあるわ」
さすがにこのようなドレスではダンスがしにくい。
普通は誘わない。誘われても無理だと言って断りやすい。
「レイモンドが一緒にいるから大丈夫でしょうけれど」
ミリアムは首を傾げた。
「レイモンド様が一緒に? もしかして、エスコートをしてくださるのですか?」
「そうよ。キューピッド役を務めたのはレイモンドとミリアムだわ。だから、キューピッド役同士ということでペアなの」
「なるほど」
「そろそろ見せてあげましょうか。レイモンドを呼んで来なさい」
「かしこまりました」
部屋にいた侍女が一礼した時だった。
ドアがノックされた。
「母上、まだですか? 時間がかかりすぎです」
「あらあら、噂をすればね。入りなさい!」
すでにミリアムの着替えが終わっていたため、侍女がドアを開けた。
「丁度呼びに行かせようと思ったところよ。どうかしら?」
レイモンドは部屋に入るとじっくりとミリアムを見つめた。
「似合っている」
「そうよね。このドレスはミリアムのイメージではないような気がしたけれど、大丈夫だったわ」
「似合わないドレスを用意するわけがない」
「アクセサリーも控えめだけど、丁度良い感じね。夜であればもっとボリュームがほしいわ」
「ミリアムは若い。平民でもある。母上の好むようなものをつけると成金に見えてしまうかもしれない」
「若い頃は控え目なデザインが好きだったのよ。だけど、年齢と共に知識が増えて目が肥えるでしょう? だんだんと物足りなくなってしまうものなのよ」
「関係ない」
レイモンドは無表情をミリアムに向けた。
「今日は私がエスコートする。面倒な者に絡まれると困るため、できるだけ離れないようにしてほしい。化粧室に行く時もエスコートする。女性だけしかいない場所に行くと詮索され、困ったことになりかねない。廊下に私を待たせていると言って素早く退避しろ」
「わかりました」
ミリアムの視線はレイモンドの衣装に釘付けだった。
「質問をしてもいいでしょうか?」
「なんだ?」
「私のドレスとレイモンド様の衣装は同じ色ですよね? キューピッド役で揃えたのでしょうか?」
ダートランダー伯爵夫人は意味ありげに微笑んだが、レイモンドは無表情のままだった。
「一緒にいるというのに合わない色の衣装ではおかしい。同じ色で揃えておけば必ず合う」
「そうよね。レイモンドとしては揃えた方がいいものね?」
何かあるとミリアムは感じた。
だが、レイモンドとダートランダー伯爵夫人の会話にわざわざ加わるようなことはしない。
見ないふり。知らないふり。
それもまた貴族の世界では必要かつ重要でことをモードから教えてもらっていた。
「そろそろ行く」
レイモンドがミリアムの手を取った。
「まだパーティーが始まる時間ではないですよね。どこに行くのでしょうか?」
「モードの部屋に行く。リチャードと一緒にミリアムの支度が終わるのを待っている。なかなか来ないために呼びに来た」
「そうでしたか。ダートランダー伯爵夫人、素敵な姿にしてくださりありがとうございました。レイモンド様と一緒にモードの部屋に移動します」
「またあとでね」
「はい。失礼いたします」
ミリアムはドレスの横を軽くつまむと、深々と頭を下げた。
「待って。その礼は正式なものだけど、わざわざ身分が低いのを宣伝するようなものだからしない方がいいわ。場に馴染むようなもの、軽く会釈をしたり、腰を落とす礼の方が自然でいいわ」
「わかりました。気をつけます」
ミリアムはすぐに修正した礼を披露した。
「それでいいわ。行きなさい」
「ミリアム、手を」
レイモンドがエスコートしてミリアムと一緒に出ていく。
ダートランダー伯爵夫人は既視感を持った。
「園遊会の時も同じペアだったけれど……変わったわね」
レイモンドも、ミリアムも。
特にレイモンドからエスコートのために手を差し出したのは、母親として嬉しくもあった。
「これからが楽しみね!」
ダートランダー伯爵夫人は今後に期待しながら微笑んだ。
続きを書こうかどうか悩んでいたのですが、もうちょっと頑張れば読んでくださる方が増えるかなって……応援していただけると頑張れます。
これからもよろしくお願いいたします!




