29.思わぬ出会い3
シャーロットはアレクシスにつられて空を見上げた。
すると真っ白な紙に絵の具を垂らしたように、雲一つない真っ青な空に黒い点がポツリとあることに気づいた。
(...?あれは何かしら)
そうして見ていると、その点はシャーロットをめがけて落ちてきた───いや、飛んできた、が正しいだろう。
近づいてきたことで気づいた。あれは鳥だ。ただ、鳥なのだが...
(何か大きな荷物咥えてる...ということは)
ここまで来るとあの鳥がなんなのか、なんとなく見当がつく。
その鳥は予想通りアレクシスの腕に止まり、荷物を彼に渡した。
「おぉ、ありがとう、イーグ」
アレクシスは鳥の──いや細かく言うと、鷲の頭を撫でてしっかり誉めることも忘れない。
「ペット...いや、使い魔かしら?」
「あぁ」
やはり肯定の返答だった。こんなタイミングで一体何を持ってこさせたのかが不可解だが。
「その大きな荷物は?...びゃっ!」
シャーロットに背中を向けて鷲に褒美の餌を与えていたアレクシスに向けて質問をすると、言い終えると同時に頭から何か布をほいと被せられた。
乙女の顔に向けて物を投げるとはどういう神経をしているのか。そう、文句を言おうとその布を引き剥がすと、それが服だということに気づいた。
それも、ただの服ではない。
「こ、これ、まさか...!」
「ご明察。コンバラリアの活動服だ。今日からお前は俺の弟子だ」
アレクシスの言葉に思わずポカンとしてしまう。
「いいの…!?」
「ん?あんだけ必死に教えてアピールしてたからもっと喜ぶかと思ってけど」
「うれしいのだけど、突然すぎて頭がついてきてないだけよ」
我ながらこんな反応になるのも致し方ないと思う。
アレクシスは先ほどまで一切の教えそうな素振りは見せていなかった。それどころか、教えるのに拒否していた。
それが急に教えてくれると言い出したのだ。全く意味が分からない。
シャーロットがいまだ呆けていると、アレクシスは見かねたのかため息をついた後声をかけてきた。
「…とりあえずそれ着てみれば?」
「はっ!そ、そうね」
現に戻ってきたシャーロットはせっせと憧れの服を手に取りながらさっきからの疑問をぶつけてみる。
「ねぇ、なんで急に教えてくれることにしたの?」
シャーロットにとって、しばらくぼーっとするほどに不思議だったことなのだが、アレクシスは何だそんなことか、と言いたげに眉を上げた。
「お前の言動に素質を感じたのもあるが…一番はお前が面白かったからだぞ」
「はい!?」
今聞き捨てならない言葉が聞こえた気がする。もう一度聞き返そうとしたがにやっと笑ったアレクシスに言葉を遮られる。
「ほれ、そんなことはどうでもいいから早く着てみろよ。手、止まってるぞ」
「んなっ!」
言い返そうとしたが、シャーロットがちんたら着ているのは事実だったため言い返せない。
(むぅ…、絶対からかわれたわね)
頬を膨らませながら、池に映ったコンバラリアの活動服を身につけている自身の姿を見る。
「わぁ…かっこいい…!」
コンバラリアのシンボルであるスズランのデザインが腕と胸の位置についた、真っ黒なフードがついたコートだった。
「だろ?」
アレクシスが誇り切った顔―――所謂どや顔で見下ろしてくる。
(なんで貴方がそんなに誇らしげなのよ。この顔腹立つわ…あとこの身長差も。なんでそんなに高いのよ)
「シャーロットー、お待たせ」
アレクシスをじとっと見ていると、森の入り口あたりから兄の声が聞こえてきた
「おっと。あいつも帰ってきたみたいだし、俺行くわ。あ、練習明日の7時からな。じゃな」
アレクシスは口早にそう告げると、とっとと木の上を移動してどこかへ姿を消した。
「あれ、シャーロットが剣を振ってないなんて。珍しい」
「あ、あぁ、お兄様!お帰りなさい!ちょっと休憩中だっただけです。今日もよろしくお願いします!」
気持ち的にはいつもの2倍は疲れたが、まだこれから剣の稽古だ。
シャーロットは疲労した心に鞭打って気合を入れると、剣を握りなおしたのだった。




