26.贈り物2
理解したや否やフィンの元へ急ぎ、執務室の重い扉を勢いよく開けた。
「フィン様、失礼します!」
「もう既に部屋の中に入って、執務机まで歩いてきますよね?」
細かいことは気にしない質なのだ。シャーロットが突っ込みをスルーしていると、フィンは小さくため息をついて気を取り直したように口を開いた。
「来るだろうとは思っていましたが、思っていたより早かったですね」
「早かったですね、じゃありませんよ!こんな高い物、どうしたんですか」
言いながら一つの可能性にたどり着きはっとする。
(もしかして…)
「…給料の一部は物でくれる感じのスタイルなんですか?」
「違います」
恐る恐る言ったのに、一刀両断された。
じゃあ、なんだというのだ。
「…ボーナス的なものですよ」
(……?今一瞬目を反らした?)
いつものフィンなら飄々と相手の目を見て話す。そのため、その動きに少し違和感を覚えた。
だが、そんなことよりも。
「いやいや、ボーナスってだいたい年間で月収の2.5倍位が平均でしたよね?このバレッタ、絶対月収の3倍くらいしたはずですよ!婚約指輪レベルです!」
そう言うと、フィンは眉尻を下げた。
「それでは、受け取ってもらえないんですか?」
「そ、そんな悲しそうにしなくても!けど...私には不相応です!」
「そんなことありません。もしかして...あまり好みではありませんか?」
「そんなんじゃ...!す、好きですけど!」
そして冒頭に至るわけだが。その後10分ほどこの「あげる」「もらえない」という応酬を続け、話している本人達も聞いている騎士達ももどかしくなったとき、やっとシャーロットが話を進めた。
「そもそも私、それをいただけるほどの事はしてません!」
そう叫ぶと、フィンは「いいえ」と食い気味に否定してきた。
シャーロットがびっくりしていると、フィンは少し言いづらそうに口を開く。
「…貴女は聖女としての能力も優秀で、普段の活動でもとても役に立っています。ですが何より…。この前、活動時間外にも関わらず、花瓶を足に落とした女性に対して、割れた花瓶の処理と女性の治療をしているのを見かけました。二ヶ月前だって、ぐずる女の子宥めて母親を助けていました。…そういう人との接し方が、私にはとても好ましく映ります。貴女は十分すぎる程に人のためになっています。だからそれはそのご褒美みたいなものです。」
「……。」
確かに、何度か業務時間外にも人を助けた。今の二つだって覚えがある。だが───
(それをちゃんと見てくれていたのがすごく嬉しい…)
嬉しさを噛み締め、目頭が熱くなっていく。
涙を堪えていると、フィンの手が伸びてきてシャーロットの髪をふわりと持ち上げ、髪にバレッタがはめられる。
「うん、やっぱり似合っていますよ」
その優しい手つきと言葉に右目から一粒、二粒と涙が溢れていく。
「…っ、ありがとうございます」
色々な意味を込めて、笑って一言感謝を伝える。
すると、それまでシャーロットの涙に、動きを止めていたフィンは安心したように息をつき、再びシャーロットの頭に手を伸ばし───触れると思ったその時。執務室の扉が思い切り開いた。
シャーロット達が驚いて振り向くとそこには、騎士達による雪崩を起こした惨状が広がっていた。
「いってぇ…」
「お前が寄っ掛かって来たからだろ」
「俺じゃない、こいつだ」
なんてこそこそ話ながら床に積み上がっている。
それをじっと見ていると、背後から凄まじいオーラを感じ取った。振り返ると、案の定胡散臭い笑みを浮かべた男が一人。
(あぁ…お怒りだわ、今からこの笑顔で圧をかけながら叱られるのね…頑張れ…あれ?私このままじゃ、しばらくその様子を見守る羽目にならないかしら?)
そんなの御免だ。
ということで、さっさと撤収するに限る。
そう考え、フィンがシャリアを呼ぶ声を背に、シャーロットは扉からさっさと走って逃げた。
…騎士達を馬跳びしていったのは別に盗み聞きへの恨みとかではない。




