8:勇者ではあるけれど
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国王陛下の計らいで、俺は王都に家を構えることになった。
陛下はとんでもなくデカい家を作ってくれようとしていたが、さすがにそれは辞退した。
広すぎても管理なんかできない。そもそも、俺は簡単な飯を作れるくらいで、家事なんかからっきしなんだ。
だから、王城に近くて、小さすぎないという三階建ての一軒家を貰った。
元は空き家だったらしい。それをそっくりそのまま貰った。陛下は何か言いたそうだったけれど、俺には十分な家だ。
もっとも、
「豚小屋から鳥小屋にでもなったか。ふんっ、気に入らん」
同居人、ロスヴィータは不満を隠さずぶつけてくる。
「寝室など、まるで便所のようではないか。薄汚く、手入れもされておらん。おい、勇者、とっとと使用人をよこせ!」
とかなんとか言ってくるので、俺は使用人なんていないし、自分のことは自分でやるように言っておいた。
家があるだけで十分じゃないか。そりゃ、ロスヴィータは元・魔王だから感覚が違うのかもしれないけど。
「あと、俺にはアシュレイって名前がある。いつまでも勇者って呼ぶなよ」
「何がおかしい? 勇者なのだろうが、貴様は。名などどうでもよいわ」
「俺はちゃんとお前の名前を呼んでるだろ。元・魔王だなんて、言ってないぞ」
「ちっ、名を呼ばれるのも不快だが、元というのが気に食わん。名を呼ばせているのは特別だ。光栄に思え」
はいはい……。
まあ、そんなこんなで家の整理が終わったのが、謁見から四日後。陛下から貰った軍資金を使って、必要最低限の生活用品もそろえた。
そして今日は、陛下から預かった騎士団との打ち合わせの日。陛下はくれる、なんて言ってたけど、騎士団を丸々一個貰うなんて、それもまた恐縮ってもんだ。
ちょっと借りて、バグを倒し終わったら素直に返そう。
「おい、モグモグ、今日のハムエッグは モグモグ、少し塩がきついぞ」
「ん? ああ、悪いな。俺はコックじゃないんだ。調味料なんて適当だよ」
「むぅ……。我の食事を作る権利を与えてやっているのだ。精進せい! このパンは貰うぞ!」
「待てって、それは俺が食べる分だ」
奇妙な同居生活だ。魔王様と同じ屋根の下に住んでるなんて。元だけど。
ラザフォードたちに言っても、笑っては貰えないだろうな。冗談としては、最低だ。
とはいえ、そんな同居人も今じゃパーティメンバーだ。これからのことについては、ちゃんと話し合うべきだろう。
「んで、だ。話の続きをするぞ。俺は、騎士団のみんなと打ち合わせをしてくる。お前はギルドの方を見てきてくれ」
「我に狗になれとでも言うのか? ふざけるな。我はバグ退治の手伝いはする。しかし、それ以外には協力してやらん」
「だから、そのバグを探すのがまず第一だろ。これだって、バグ退治の一環だ」
「ふん、小賢し言葉を並べおって。いいだろう、今はその口車に乗ってやる。それで、そのギルドというのはどこにある?」
俺は仲間たちを助けるために。ロスヴィータは魔王に戻るために。
方向性は違うけど、バグ退治という目的だけは共通している。お互いで動いた方が、効率的ってもんだろう。それが分からない魔王様でもないわけだ。
「えっと、確か王都のギルドは……」
どこだったかな。
雑貨ついでに買った王都の略地図を見てみる。えーっと、冒険者ギルドなら、城門近くにありそうなもんだが。
俺が目を凝らしていると、ノックの音が聞こえた。
「おい」
「知らん。我は小間使いではない」
はいはい。
地図をロスヴィータに押し付けて、俺は外への扉を開けた。
「お、おはようございます、勇者様!」
と、目に飛び込んできたのは、綺麗なブロンドの髪と、宝玉のような青い瞳。
あれ、この人って確か。
「アーサ、さん?」
「はいっ!」
ああ、そうだ。国王陛下に謁見する時に案内をしてくれた、女騎士。ユニコーン騎士団団長のアーサさんじゃないか。
「ああ、おはようございます。えっと、何かありましたか? また陛下がお呼びなら、すぐに行きますけど」
団長さん自らってことは、至急の用件かもしれない。マズイな、まだ飯の途中だ。用意なんか全然してないぞ。
「ちょっと待っててください。すぐに支度しますから。とりあえず、どうぞ中へ」
「きょ、恐縮です!」
あーあー、美人さんが緊張でがっちがちだよ。せっかくの可愛い顔が、青くなっているようにも見える。
あまり広くないけど、応接間で待ってもらおう。一応、掃除はしておいたから、そんなに見た目は酷くない、はず。
ここで、それこそ使用人がいてくれればお茶でも出せるんだけどな。ロスヴィータには期待できない。
いや、そもそも我が家に茶葉なんてあったっけ? 買ったかな……?
おっと、そんなことを考えている場合じゃないな。
部屋に戻って、ローブと鎖かたびら、そして勇者の剣を持つ。
なるべく早く準備しないと。どんな話なのか分からないし。
「すみません、お待たせしました」
「い、いえ、とんでもありません!」
応接間に戻ると、アーサさんがビシィっと敬礼してくれた。俺も、敬礼すべき?
「それで、今日はどのようなお話で? あ、いや、陛下がお待ちですよね。すぐに行って、そちらから話を聞いた方がいいかな?」
早速何か情報が入ったのかもしれないな。バグが出たなら、すぐさま向かわないと。
今の俺にできるのは、バグの退治がせいぜいだ。ここ四日は普通に過ごしていたけど、これからは気合を入れなくちゃならない。
「あ、いえ、違います、勇者様! 陛下がお呼びというわけではなく、あの、その……」
「え?」
あれ、陛下が呼んでるんじゃないの?
「今日から、我らユニコーン騎士団が、勇者様のお供をすることになったと、そのご報告に参ったしだいで……」
へ? ユニコーン騎士団が?
陛下、俺にユニコーン騎士団を貸してくれるの?
「ってことは、王城に向かうってことじゃないんです、か?」
「は、はい。誤解させてしまいましたか……?」
うつむいて上目で尋ねてくるその様子は可愛いけど、ちょっと肩透かしだ。
てっきり、また剣の出番が来たのかと思った。
「あ、ああ、そうですか。すみません、勘違いしました」
喜ぶべきか、悲しむべきか……。
「も、申し訳ございません。私、勇者様にお仕えできると聞いて、居ても立ってもいられなくなりまして、すぐにでもご挨拶にと……」
直角に腰を折る勢いで、アーサさんが謝ってくる。
いやいや、俺の勘違いだったんだから、謝ってもらう必要はない。
ちょっと、気が早かったかな。カミサマとかいうのが潰すのに苦労してる相手なんだ、そう簡単には見つからないか。
じゃ、まあせっかくだ。来てもらったんなら、少し話でもしようかな。
って言っても、話題になりそうなのは、バグのことくらいか。女性相手にする話題にしちゃ、華が無さすぎて悲しくなる。
「とりあえず、座ってください。あまり上等な椅子じゃないですけど」
「い、いえ、私は立ったままで! 勇者様こそ、おかけください」
「いや、座ってください、どうぞどうぞ」
「いえ、お気になさらずに……」
なんてやり取りを延々としてしまった。
それが食堂まで聞こえたようで、
「えぇい、何をやっているのか、たわけがっ! 我に食器洗いをさせるつもりか!」
と、扉を蹴破る勢いで、ツッコミが来た。席の譲り合いで何分も使ってたら、そりゃツッコミもくるわな。
「ああ、ロスヴィータ、洗い物は後で俺がやっとくから。食器を水につけるくらいでいいぞ」
「だから我は小間使いではない! 片づけは全て貴様がせい!」
ったく、元・魔王様はいつも偉そうなこって。
「分かった、わーかった。アーサさんとの話が終わったらやるから……」
そのまま置いとけ、と言おうとしたら、目の前で風が吹いた。
……あれ? 今の風、ブロンド色してたような気が。
「……いくらお仲間とはいえ、勇者様へのその態度、目に余りますよ」
「……小娘、貴様ぁ」
何、剣と腕付き合わせて険悪な雰囲気作ってるの君たち。しかも俺の目の前で。
あれか、今の風はアーサさんか。すごいな、勇者の目で見てもかなりの速さだったぞ。
「じゃなくて、アーサさん、落ち着いてください。ロスヴィータ、お前はちょっと外行ってろ、外」
「ですが、勇者様、いくらなんでも今の態度は……」
「黙っていろ、勇者。この小娘に、礼儀を教えてやる」
「なにを……!」
だからケンカするなっての。
俺はすぐさま二人の間に割って入った。アーサさんの剣を取り上げて、ロスヴィータの首根っこをひっつかんで。
「えっ?」
「むっ」
はいはい、そこまでー。
アーサさんの剣は、一時没収。猫みたいにぶら下がってるロスヴィータは即退場。
まったく、朝から、しかも人間同士でケンカなんかするもんじゃないよ。
「アーサさん、剣は後でお返しするので、今はとにかくお話しましょう、お話」
「えっ、いつの間に……。じゃなくて、あっ、は、はいっ!」
剣を奪われたのに気づかなかったようだ。何気なく割り込んだつもりでも、勇者の体ってのは思った以上に便利に動くんだな。
ロスヴィータは食堂の方へ放り投げた。なんか、カエルを潰した時みたいな音がするけど、気にしない。後でうるさそうだけど。
「えっと、それで挨拶に来てくださったんですよね?」
と、強引に話をすり替えて、その勢いでアーサさんを座らせる。はいはい、肩に触れるくらいは許してねー。
「そ、そうです。あの、陛下から昨日、勇者様のお手伝いをするようにと拝命いたしました。大まかな事情はうかがっています。どうぞ、お好きなようにお使い潰し下さい!」
潰しませんよ、バグじゃないんだから。
なんだか、俺、乱暴者みたいな印象持たれてる? 心外だなあ。これでも元・遊び人だよ? 女性への気配りくらい心得ているよ。
戦わされる、とか思っているのかな。それは違うぞ、アーサさん。
いくら力を借りると言っても、直接戦うのは、俺とロスヴィータの二人だけ。借りた騎士団は、情報集めに協力してもらうってだけだ。
借りるのがユニコーン騎士団になったっていうなら、なおのこと。バグみたいな化け物、レベル99の勇者と元・魔王に任せて欲しい。
でも、さっきのアーサさんの動き、かなりすごかったな。意識してないと、完全に見逃していたかもしれない。
さすがレベル48。
世界で一般的なのは、1~10くらいのレベル帯。兵士とか騎士なら、15~25くらいかな。
レベルは福音として、頭の中に直接教えられる。だから、よっぽどのことがない限り、あまり人には教えないものだ。
さっきの俺の一般的、とか、兵士とか、なんてのは、王国の統計調査の結果だったかな。嘘も混じっているかも。誰でもレベルは高めに申告したいだろうし。
まあでも、嘘をついてもすぐばれるんだけどね。低レベルが高レベルだと偽って仕事したら痛い目見るし。
人間、身の丈にあった仕事をするのが一番だよ。
「あの、勇者様?」
おっと、つい考え込んでしまった。お話お話。
「えーっと、アーサさんはどこまで陛下から聞いてます? 俺はとにかく情報が欲しくて騎士団の力を借りたいんですけど」
「はい。世界の敵を相手にするとはうかがっています。それを倒すのに協力せよ、と」
あ、半分勘違いしてる。やっぱり戦うもんだと思ってるな、アーサさん。
「倒すのに協力はして欲しいですけど、実際に戦うのは俺と、さっきのロスヴィータだけです。皆さんには、その敵の居場所を探して欲しいってだけで」
「わ、我々は戦わずとも、よい、と?」
そうそう。
「ですが、勇者様! 恐れながら申し上げます、勇者様の盾となれる人間は、一人でも多い方がいいはずです! 我々も訓練は積んでおります。伊達で騎士をやっているわけではありません。お役に立てます!」
アーサさん、結構熱血だなー。でも、俺が欲しいのは盾じゃないんだよな。
そもそも、もう俺は誰かを盾にして生き延びるなんて、ゴメンだ。今は、誰かに守ってもらうばかりではいられない。
今はいない仲間たちを思い出す。遊び人だった俺を助けてくれた、大切な仲間たちを。
俺は別に、英雄になりたいわけじゃない。世界を助けるとか、正義のために戦うとか、そんな意志は欠片も無い。
ただ、失った者たちを取り戻すために戦うんだ。
話しても、誰も信じないだろうけどな、“前の世界”なんて言っても。
でも、俺は誰にも信じてもらえなくても、理由がとてつもなく後ろ向きでも構わない。
俺がこれからやるのは、ただ自分のために戦うってだけさ。
アーサさんは勇者に思い入れがあるみたいだけど、俺は勇者なんて器じゃない。幻滅されるのは時間の問題だし、先に言っておくかな。
「アーサさん。俺は、自分がやりたいから戦うんだ。世界の脅威とか、そんな話はどうでもいいんだ」
「どうでも……?」
「そう。俺はただ、バグを潰したいから戦う、それだけなんだよ」
くそ、説明するのが難しいな。頑張れよ、俺。舌だけは他の人より回す自信あるだろうが。
「これは、俺の都合の話なんだ。本当は、俺一人でやらなきゃいけないこと。手伝ってもらうだけでも申し訳ないんだ」
「そんなっ、私は勇者様のためならば!」
「俺は、本当は勇者なんてすごい人間じゃないんだ。自己満足で戦うだけの、勝手な奴なのさ」
そう、その程度の人間さ。
やっぱり、仲間たちのことを話せないと、難しいな。こういう時には、良いジョークでも思い浮かべばいいのに。
アーサさんはうつむいてしまった。勇者と一緒だ、なんて喜んで飛びこんできたのにこんな話されちゃあな。
申し訳なくて、俺はアーサさんから目を背ける。どんなことを言われても、それは当然だと思って受け止めるさ。
「勇者様」
「うん?」
さて、何を言われてもいい覚悟をしないとな。
「勇者様は、ご自身を勝手と仰いますが、それは違うと思います」
「え?」
「少なくとも、勇者様はこの世界を救ってくださいました」
「あー、それは……」
俺がやったわけじゃないんだけど……。
「いえ、こういう話も聞いております。勇者様は、商人を助けるために戦ったとも」
……それは、俺だな。
でも、あれだって、バグが目の前に出たから、カッとなって戦っただけさ。正直な所、商人のおっちゃんを助けたって自覚は無い。
「結果論ってヤツだよ」
そう、結果的におっちゃんは助かっただけ。偶然みたいなもんさ。
「ですが、その結果に喜んではいけないのでしょうか?」
え?
「勇者様が行ったことにより、世界は救われ、たった一人の商人でも生きて家族の元に帰れました。それは、喜んではいけないことなのでしょうか?」
「それは……」
悪い事ではない、けど。
「勇者様はご自身を卑下なさいますが、私は決して勇者様がただの身勝手な野蛮人だとは思いません」
「……」
「勇者様が行ったことに、私は憧れます。お人柄も、まだお会いして数日ですが、決して悪いとは思っていません」
「……」
「自分勝手と仰いますが、確かに助かり、感謝している人間がいるのです。どうか、そのことをお忘れなきよう、お願いいたします」
アーサさんは、言い終わると挨拶して出ていった。
……なんか、俺の思っていた答えとは、違ったな。
「ふんっ、聞いていればウジウジと。貴様、そんなに情けない奴だったのか、遊び人め」
「……聞いてたのかよ」
「嫌でも聞こえるわ、愚か者。こんな鳥小屋、ネズミのささやきでも耳に入る」
ロスヴィータがずかずかと入って来た。
嫌な会話を聞かれたもんだ。
ロスヴィータが俺の胸倉をつかむ。俺は抵抗しなかった。抵抗する意味もない。
「遊び人、貴様には勇者たる自覚はないのか?」
そりゃ、あるよ。鏡を見るたびに、自分の名札を見てるんだ。勇者・レベル99。俺には重すぎる称号だ。
でも、俺は仲間たちを失った責任を取らなきゃならない。元の世界を取り戻さなきゃならない。そのために勇者になるって決めたんだ。
「違うな、そうではない。貴様が本当にこちらの魔王を倒したかは知らんがな、今、勇者は貴様しかおらん。そんな勇者が、小娘相手にグチグチと弱音を吐くな!」
弱音? 弱音だったか、今の。
俺は事実を言ったつもりだ。実際、これからの俺は、バグを倒すだけの名ばかり勇者だぞ。
「それでも勇者なのだろうが! 勇者なら勇者らしく、小娘の理想くらい受け止めてみせよ。元が遊び人だからと、情けないことをほざくな!」
いいか、とロスヴィータが言う。
「物事には、何をするにしても、行った者には責任が付いてくる。どれだけ拒否をしようとな。善悪など関わらずにだ」
悪い事だけじゃなくて、善いことにも責任があるのか?
「その通りだ。貴様は人間を助け、感謝されたのだろう? ならば、助けた者として、感謝を受け取る責任がある」
そりゃ、まあ、感謝されるくらいはいいけど。
「違う。……まったく、元が遊び人だと、こうも愚図なのか? 勇者の肩書が泣くわ」
「待ってくれ、俺はお前が何を言いたいのか分からない」
「そうだろうな。自分のことを勇者だと認められない勇者には、何を言っても無駄だろう」
「だって、俺はもともと遊び人だ。勇者なんかじゃない」
「それでも貴様は、神とやらの前で、勇者をやると宣言したのだろうが! ならば勇者に押し付けられた責任を、全て果たせ!」
それは、なにか?
「世界を救ったって、それを自分のことにしろって? こっちの“勇者”じゃなくて、“俺自身”がやったって認めろってことか?」
「その通りだ!」
ロスヴィータが俺を突き飛ばした。椅子の角に、背中がぶつかる。痛ぇ。
「真偽などどうでよい。貴様は、世界で唯一の勇者だろうが、アシュレイ。貴様の知る勇者は、今の貴様のように下らぬことで思い悩み、小娘を泣かすような小物だったのか?」
「それは……!」
違う。勇者・ラザフォードは、そりゃ悩みくらいはあっただろうけど、いつも前向きで、いつも誰よりも先に進んでいった。怖いものなんて無いみたいに、勇敢だった。
「で、あるならば、貴様は“この世界の勇者”として振舞わねばならぬ。“勇者”の功績を、“アシュレイ”自身が認めよ。認められぬならば、せめて演じよ。それが、“勇者”の肩書を受け継いだものの義務だ!」
なんだそれ、無茶苦茶な理論じゃないか。
「……それが、魔王式の責任の取り方か?」
「魔王に限らぬ。力を持ち、事を成した者の義務だ。魔王も勇者も関係あるものか」
まだ俺は、ロスヴィータの言うことの半分も理解しちゃいないだろう。
でも、そうか。俺はちゃんと“勇者”をやらないといけないのか。
勇者っていったら、ラザフォードのことしか思い浮かばなかった。勇者イコールラザフォードで、肩書きを貰っても自分はただの遊び人だとしか考えていなかった。
「貴様の心は、この鳥小屋のように狭い。大海とは言わぬ、だがせめて、この前の豚小屋程度には広く持て」
はいはい。分かりました。分かりましたよ。
ったく、魔王に説教されるなんて、思っちゃいなかった。しかも、微妙にまともな説教じゃねえか。
ロスヴィータは、言うだけ言って、引っ込んじまった。しゃっきりしない俺に、呆れたんだろう。
でも、あいつ、
「俺の名前、初めて呼びやがった」
俺の名前を言って、説教しやがった。
そうなると、今の説教は“情けない勇者”じゃなくて、“俺自身”に向けられたものになる。言い訳なんか、できやしねえ。
それに、気になることも言ってたな。
「俺、アーサさんを泣かしたのか」
あー仕方ねえ、どうしようもねえ。勇者のやるこっちゃないよな。
それに、元・遊び人としちゃ、放ってはおけないよな。
「少し、出かけてくる」
言うべき相手は今は目の前にいないけど、一応言っておく。
鼻で笑う音が聞こえたような気がするけど、今は気にしない。
おれは扉を開けると、すぐに外に飛び出した。
確か、馬のひづめの音はしなかったはず。アーサさんは、歩いてうちまで来てくれたんだ。
なら、追いつけるかな。行くとしたら、王城の方だろうし。道は分かる。
今の俺の脚力なら、追いつけるかもしれない。
追いついたらまずは謝って、それから……、謝るしか思いつかねえ。
まあいい。とにかく俺には追いかける責任がある。それを果たしに、ちょっくら走りますかね。
勇者の力を自分で泣かした女の子のために使うのは罰当たりだと思うけど、今は許してくれよ、ラザフォード。
分割ができず、長くなってしまいました。
次回からは、また前回と同じくらいに分けます。




