7:はじめての謁見
ギャグなのかシリアスなのか分からなくなってきました(無計画)
「勇者様、国王陛下より、謁見のご連絡が……」
来ちゃったよオイ。願ってから一分も経ってねえよ。
「そら、行ってこい勇者よ。せいぜいもてはやされてくるといい」
もう、何も言い返すまい。
俺が観念して扉を開けると、いたのは女騎士だった。
薄桃がかったブロンドの髪に、宝石のような青い瞳。背は俺よりちょっと低いくらいで、女性としては高い方だろう。
背中まである長い髪が特徴的だ。女性とはいえ、騎士なら短くしてありそうなものだが。
「初めまして! 私、ユニコーン騎士団団長、アーサと申します! 勇者様にお目にかかれて光栄です!」
騎士団の、団長さん? ユニコーン騎士団っていうのは、確か女性だけで作られた騎士団だったかな。
『アーサ・Lv48・騎士』
さすが騎士団団長さん。レベルも高い。
でもユニコーン騎士団は、主に儀礼用に使われている。訓練はしていても、直接戦場に出ることはないはず。
歳は、俺と同じくらいかな? この若さで団長をやれてるってことは、どこかの貴族のお嬢様なんだろうけど。
ああ、だからか、俺を呼びに来たのは。
国王陛下の配慮、というよりも、大臣あたりの差し金って言った方がよさそうだ。ラザフォードの嫌いなやり方だなあ。こういう攻め方されると、あいつ怒るんだよ。
まあ、俺は中身が中身だから、怒るどころか嬉しいけど。……いやいや、だから今はそんなこと考えている場合じゃない。
顔を真っ赤にしているアーサさんには悪いけど、国王陛下とのイベントはあまり時間をかけずに済ませよう。
変にボロを出せば、ロスヴィータの言うように上から剣が降ってくるかもしれない。くわばらくわばら。
「えっと、よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げる。
「お、おやめください勇者様! 私のような者に、頭を下げるなど……。陛下に知られたら、私の首が飛ばされてしまいます」
え、そういうものなの? 俺が頭下げるだけで、こんな美人が大変なことになるの?
「あ、す、すみません。ついいつものクセで」
クセっていっても、昔のものだけど。気品がある人とか、偉そうな奴には頭を上げないようにしていたからなあ。
「と、とにかくこちらへ。外に馬車を用意してございます」
「あ、はい」
「あの、お仲間は……」
あ、ロスヴィータか。あいつは行かないって言ってるし、無理やり連れていって爆弾発言されても困るしな。
「王都へ来る途中で魔物と戦いになったんです。その時に魔力を使ったせいで、今は体調がすぐれないらしくて。このまま国王陛下に会わせるのも失礼なので、休ませておきます」
「魔物が!?」
「えぇ、ちゃんと倒しましたから、そこは安心して下さい」
「さすが、勇者様……」
やめてそのキラキラした瞳。なんか、すっごく罪悪感湧くから。
魔物っていうかバグは、俺の仇だ。ソイツを倒せたのは、勇者というジョブのおかげだ。元々の俺じゃ、逃げることだってできやしないさ。
騎士団団長さんに、褒められるようなことじゃない。
「勇者様……?」
っと、顔に出てたかな。
「すみません、何でもないです。さ、行きましょう」
「は、はい」
アーサさんの動きは、なんだかぎこちない。勇者が相手ってことで、緊張しているのかな?
俺としては、もっと気楽にして欲しいんだけど、無理な話なんだろうか。
馬車には、俺とアーサさんの二人で乗り込んだ。
ここから王城までは、あまり時間がないかな。
なので、俺は最後の頼みの綱を頼ることにする。
「あの、アーサさん」
「はい、なんでしょうか?」
「お願いがあるんですが……」
「お、お願いですか?」
突然の申し出に、アーサさんは驚いている。まあ、そりゃそうだ。二人っきりになっていきなりお願いなんて。
「あ、あの、私で応えられることならばいいのですが……」
あー、そわそわしてる。本当に申し訳ないなあ。
「いえ、むしろ、アーサさんじゃないとダメというか、他に頼める人がいないというか」
「わ、私ではないと、ですか!? それはその、光栄ではありますけれど……」
あまり時間が無い。はっきりと伝えよう。
「作法、教えてくれませんか?」
「さ、作法ですか?」
「はい、国王陛下と謁見する時に」
「え……?」
まあ、そうなるよね。勇者とか言ってもてはやされてる人間が、礼儀作法知らないなんて言ったら、呆れるよね。
アーサさんは、一瞬固まった後、顔を真っ赤にして、
「そ、それくらいお安い御用です。礼儀作法は幼少の頃より指導されてきましたので。その、あの、作法って言うから、てっきり……」
ん? 最後の方が聞き取れなかったな。まあ、いいか。
その後は、なんとなく歯切れの悪いアーサさんに、最低限の作法を教えてもらった。
ずっと顔が赤かったのは、怒っていたからだろうか。ホント、すみません。
王城に着くと、またアーサさんが案内してくれた。王の間までは誰にも会わなかった。たぶん、俺が通る道は空けておいてくれたんだろう。
「こちらです、勇者様」
「おー……」
でっかい扉が目の前にあった。高さは三メートルくらいあるんじゃないか?
王城は広いしでかいけど、こんな扉があるのは、やっぱり玉座の間くらいだろうな。
「ありがとうございました、アーサさん。とても助かりました」
馬車の中での礼を言っておく。俺の首が飛ばないうちに。
「いえ、私などでお役に立てたのならば幸いです。では、これにて失礼いたします」
ビシッ、と敬礼をして、アーサさんは行ってしまった。ここから先は、俺一人の仕事かあ。
怖いなあ。バグを相手にしてる方が、考えること少なくて済むよ。
外見は勇者でも、中身は遊び人のまんまだからな。失礼なこと、しないといいけど自信が無い。
……そういえば、これ、どうやって開けるんだろう。ノックすればいいのかな?
どうしようか迷っていたら、急に扉が開いた。ギギギ、なんてそれっぽい音がするもんだから、飛びあがりそうになった。
ヤバい、頭が真っ白になってきた。せっかくアーサさんが色々教えてくれたのに。
と、とりあえず歩かないとな、国王陛下の前に行かないとな。
うーわ、アーサさんのこと言えないわ、それだけぎくしゃくしてるわ、俺も。
手と足が同時に、ってことはないけど、目の前がかすむ。
これくらいでいいか、という距離でもって、俺は片膝をついた。
周りの静寂が耳に痛い。俺、早速何か間違えた?
「……勇者よ。なぜお主はそんなに離れておるのか」
やっべー、やっちゃったよ。国王陛下直々のツッコミだよ。
いやだって、近づいたらそれだけボロが出るじゃん。遠くからなら誤魔化せるだろ。
「え、えー、それでは少しだけ」
片膝をついたまま、気持ち一歩分くらい進んでみる。まだ遠い?
「……」
「……」
「……」
ダメっぽーい。なんか、大臣とかお偉いさんからため息漏れてない?
「まあ、よいわ。とりあえず勇者アシュレイ、顔を上げよ。そもそも、膝をつく必要もない」
……そうなの?
恐る恐る、頭の上に刃物が無いことを確認する意味でも頭を上げてみた。
すると国王陛下は、玉座じゃなくて、俺の目の前に座っていた。
陛下、近い近い。
「よくやってくれた。よく生きていてくれた、本当に感謝するぞ、勇者よ」
あれ、俺、抱きしめられてる?
「へ、陛下?」
「お主にはどれだけの礼を重ねても言い尽くせぬ」
感激しているのか、国王陛下はおいおいと泣き始めてしまった。
大臣たち、周りの偉い人たちも、ハンカチ片手に泣いている。
「魔王に苦しめられて、もう何百十年と経った。お主は、その戦いに終止符を打ってくれたのだ。感謝してもしきれぬよ」
「あ、ありがとうございます」
泣かれると、ちょっと困る。
俺には魔王を倒した実感なんて無い。もしかしたら、同名の別人が勇者やってて偶然倒してくれただけなのかもしれない。
まあ、同名云々は冗談としても、“今の俺”が魔王を倒したわけじゃないんだ。感謝されると、むしろこっちが申し訳なくなる。
「陛下、どうか泣き止んでください。俺は、じゃなかった、私は、必要とされたことをやるだけです」
そう。“やった”ではなく、これから“やる”んだ。
魔王が倒されているなら、後はバグを消していくのみ。俺の旅は、やっと始まったばかりなんだ。
バグはどんな問題を起こすか分からない。もしかしたら、魔王より酷いことをするかもしれない。
実際、魔王を襲ったりもしてたんだ。これから、王国が無事だっていう保証もない。
「謙虚じゃのう」
俺の決意はともかく、国王陛下は泣き止んでくれた。ハンカチをだいぶ濡らしてはいたけれど。
「とりあえずは褒美じゃな。何でもよいぞ。金でもよい、土地でもよい、望むものを何でも言うがよいぞ。ちなみにワシの娘は十六じゃぞ」
何を言っているのでしょうか、この国王陛下は。
「ワシはお主の功績に応えるには、この王冠すら譲るつもりでおる。ちなみにワシは孫が欲しい」
だから、何を言っているの、この国王。
「どうじゃ? 娘のスリーサイズも聞きたいか?」
だーかーらー。
「い、いえ、陛下。王女様のことはとりあえずわきに置いておきましょう。私は今、特に欲しい物はありません」
えー、とあからさまに残念がる国王陛下。大臣たちも、俺の“謙虚さ”に感心して唸っている。だから、そうじゃない。
「なんでもいいから言うてみい。王女ではなくとも、欲しいものがあるならばなんでも用意させるぞ?」
欲しいもの、欲しいもの、か。
そうだ、俺が今欲しいもの、あるじゃないか。
「陛下、では、申し上げます」
「うむ」
「私は、まだ世界を救い終わってはいません」
「なんじゃと?」
国王陛下の声が、やっと落ち着いた。周りからもどよめきが聞こえる。
「私は、まだ世界各地に残るバグを除去しなければなりません」
「バグ? バグとは何のことじゃ?」
「世界を歪ませる、邪悪な敵のことです」
「まだそんなものがおるのか!」
魔王とばかり戦っていた王国には、寝耳に水の話だろう。
だから、俺は頼む。
「そのバグの位置を突き止めるために、どうかお力添えをお願いいたします。敵は凶悪にして強大。王都への道すがらにも出遭いました。私はそれらを全て倒さなければならないのです」
ふむ、と国王陛下が唸る。
「よかろう。お主のためならば、いくらでも力を貸そう。何が必要か? 兵士か?」
「いえ、バグと戦うのは、私の務めです。バグの居場所さえわかれば、私が赴きます」
「まだ戦うと言うのか、お主は! 魔王を倒したのだ、もう戦わずともよいではないか! お主はそれだけの務めを立派に果たしだのだぞ?」
その言葉は、どうかラザフォードに言って欲しいな。あいつ、働きすぎだったから。
「いいえ、陛下。私の務めはまだ終わりません。この身が擦り切れようとも、何があろうとバグを倒さねばならないのです」
それが、“今の勇者”である俺の本当の仕事だ。
「どうか、お願いします。私一人では、バグの居場所が付き止められません。国王陛下のお力を借りねば、この国の異常事態を知ることは難しいのです」
国王陛下は、まだ座ったまま。俺も片膝をつき直して、お願いする。
返事は、なかなか来ない。
ダメかな、やっぱり。信じてもらえないか。
まあ、予想できていたというか、元からそのつもりだったしな。ロスヴィータと二人で、王都で情報収集する予定だったし。
ここで国王陛下の力を借りられなくても……、
「よかろう」
え?
「救国の勇者の頼みを断れるはずもないじゃろう。騎士団を一つ、お前にやろう。それを使って、国中の知らせを集めよ。そして」
俺が下げていた頭を上げると、国王陛下はニカッと笑い、
「お主の思うようにせよ」
と、言ってくれた。
「戦い続けるのもよし、疲れたのならば休むもよし。そうじゃな、王都にお主の家でも作ろうか。そこを拠点にするがよい。ギルドの連中にも、情報を集めるよう話は通しておこう」
……ありがてぇ。
「感謝の言葉もございません」
「それはさっきワシも言うた。なあに、お主なら、また世界を救ってくれるじゃろう。その手助けができるなら、本望じゃて」
そう言って、国王陛下は俺の横に並び、がっしりと肩を抱いてくれた。
今は勇者でも遊び人だったころの思考が抜けきっていません




