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7.バルトロメウスの憂鬱

 バルトロメウス隊長は、ジルベール大将の天幕に呼び出されていた。騎士団長を長年勤めていたが、後任に譲り、この遠征を最後に引退する、熟練の猛者だ。髪は黒よりも白が多く目立つようになっており、それをオールバックにしてなでつけている。そんな彼の鋭い目線がバルトロメウスを射抜いた。


「最近補給部隊に対する苦情が増えている。申し開きはあるか。」


「え?そ、そんなことはないかと思うのですが……。」


 バルトロメウスは背中に冷や汗をかいた。


「暖を取るための薪を倉庫にもらいに行ったら、補給部隊が全て使ったから渡せないと言われたそうだ。どういうことだ。」


 バルトロメウスは慌てて弁明する。


「全てなど使っておりません!ただ、異動を行ったため、引き継ぎでいつもより使用量が増えているだけでございます。持っていかれると食事の用意ができませぬ。そのためお断りさせていただいたのです。」


 ジルベールの無言の圧力に耐えながら、バルトロメウスは次の言葉を待った。


「それから料理の質が落ちたそうだ。今までは温かいまま出てきた食事が今は冷え切っている。中に入っている具材も少ししかないと。」


 バルトロメウスは舌打ちしたくなった。そもそも上層部から優先的に良い食材を使うべきなのだ。兵士などただの駒であり、余り物を食べさせていればいい。バルトロメウスはそう思っていた。


 その思いを顔には出さず、バルトロメウスは頭を下げる。


「申し訳ありません。長い遠征のため、食材が不足し始めております。補給をお願いしようと思っておりました。」


 それは事実だった。試算では今まで通り使っていれば、あと7日ほどで食糧が尽きる。それは総司令官も分かっていたようだ。


「確かに、しばらく補給もなかったな。次の目標だったベルギンの町で補給をするとしよう。それから、ギラン辺境伯にも補給のお願いを出しておこう。」


ベルギンの町は、魔獣討伐の最前線だ。何年もに渡る魔獣の暴走を食い止めていられるのは、この町の存在があるからだ。ここがなければ後退し、ギラン辺境伯領まで戻るしかない。


 ギラン辺境伯に王都から補給物資が集められ、ベルギンの町へと運ばれることになっている。しばらく町で駐屯すれば、運んできてくれるだろう。その間はベルギンにある物資で食いつなげるだろう。


「かしこまりました。」


 補給ともなれば大金が動く。バルトロメウスの頭の中は、いくら稼げるか急速に計算を始めていた。所詮補給専用の町だ。物資を買い叩いても文句も出ないだろう。そうやってバルトロメウスの稼いだ金貨の雨を待ち望んでいる貴族が王都にはたくさんいるのだ。



「……ところで、人事異動の話など私は聞いていないのだが。」


 不快を声に滲ませた大将の顔を見られず、バルトロメウスは頭を下げたままだ。


「実は軍務大臣から通達がありまして。」

「……ほう。私を通さずそなたのところにくる通達があるのだな。よっぽど仲が良いと見える。」


 下手な言い訳は危険だ。そう思ったバルトロメウスはそのまま沈黙を続けた。やがて大きなため息が聞こえてくる。


「もういい。……下がれ。ただしまた苦情が増えるようなら、私が直接人事異動を行おう。」


「失礼致します。」


 顔に泥を塗られた。バルトロメウスは怒りながら補給部隊の天幕へと向かった。天幕の中は夕食の準備で大わらわだ。


「デズモンドはどこだ!」


 バルトロメウスの怒鳴り声に皆が振り返る。どの顔にも疲れが滲み出ていた。


「デズモンド副官はご自分の天幕でお休みです。」

「なんだと?」


 一番忙しい時に休んでいるとはどういうことだ。バルトロメウスはデズモンドの天幕に向かった。バサリと天幕を開けると、だらしない格好で手紙らしきものを書いているのを見つけた。バルトロメウスに気づくと慌てて立ち上がる。


「これはバルトロメウス様。何かご用でしょうか。」

「お前が副官になってから苦情だらけだ。どういうことか説明してもらおう。」

「苦情?ああ。薪のことですか。おかしいのですよ。そもそも薪の量が足りないのです。」

「今まではそれで足りていたんだ!」


 足りていたからこそ、業者には少な目に持ってきてもらい、浮いたお金を分け合っていたのだ。


「アルトのやつ、自分が節約できていると見せかけるために、きっと薪の量を誤魔化していたに決まっています。それに食事が冷たいと文句を言われるんですよ。軍の食事なんてそんなもんでしょう?だから僕は水だけ出して、後は任せることにしたんです。僕のすべき仕事はこんなことじゃないはずだ。」


 不満だけを言い続けるデズモンドに、バルトロメウスは頭痛がしてきた。コイツのせいで大損だ。ただ、デズモンドの親はこのバカ息子に箔をつけたいらしい。この戦争で報奨を貰えるよう便宜を図るよう頼まれているのだ。もちろん大量の金貨で。なんとかしてそこまで持っていかなければならない。


「……もういい。とにかく薪の量を節約するんだ。もう少ししたら補給を近くの町で行う。その時は足りなくならないように購入しておけよ。」


「了解しました!」


 だらしない格好で敬礼をするデズモンドに侮蔑の視線を投げて、バルトロメウスは天幕を出た。

読んでくださり、ありがとうございます。

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