21.バルトロメウスの暗躍
バルトロメウス隊長は、アルトが縄で縛られ、連れて行かれるところを後方部隊の馬車から暗い笑みを浮かべて見物していた。
バルトロメウスにとって後方補給部隊は「美味しい金蔓」だった。戦争だといえば誰もが予算を出してくれる。前の隊長を蹴落とし、自分が隊長についたことで、全てがうまくいくはずだったのだ。
アルトはバルトロメウスにとっては役に立たない副官だった。魔法が使えるなんてことは知らなかった。それなのにだ。アルトがいなくなった途端、後方補給部隊への苦情が一気に増えた。
「薪の使用量が多すぎだ。」
「スープが冷たい。」
「材料に金をかけすぎだ。」
以前に寄ったベルギンの町で後方補給部隊の予算はすでに使い果たしてしまっている。バルトロメウスが副官に据えたデズモンドは食糧の量を誤魔化し、しかもその金の一部を自分の懐に入れていた。
「人を見る目のない隊長だ」と噂をされているのを、バルトロメウスは歯噛みをしながら聞き流すしかなかった。自分の懐に金貨袋を入れたこともいつかバレてしまうかもしれない。そう思うと生きた心地がしない。なんとか誤魔化す方法はないか。バルトロメウスは焦っていた。
それに比べてアルトはどうだ。大佐に気に入られ、魔法が使えることが判明した。しかも今回の戦いでは、水を凍らせ、氷の橋を作ることで軍を勝利へと導いた功労者だ。
このまま国へ戻ったとしても、バルトロメウスに輝く未来は訪れない。
(あいつさえ……アルトさえいなければ)
デズモンドを副官から外してから、帳簿の整理もバルトロメウスがやらなければならなくなっていた。イライラとしながら帳簿を見ていると、見覚えのある帳簿が目に入った。以前バルトロメウスが資材の量を少なく書き直した時のものだ。確認をしたのはアルト。署名も入っている。焼却しようともちあげた手が不意に止まる。
これを使えば、アルトに横領の罪を着せて、引き摺り下ろすことができるのではないか。バルトロメウスは帳簿をつけるのを忘れ、計画を練るのに夢中になった。
「ふふふ……アルトめ。地獄に落ちるがいい。」
バルトロメウスは参謀を訪ねた。
「バルトロメウス隊長。なんの御用かな。」
「実は、アルト副官がベルギンの商人と通じ、資材を横流ししていたことが分かったのです。この帳簿はデズモンドが副官になる前のこと。資材が不足した理由はここにあったのです。」
そう言いながらバルトロメウスは先ほどの書類を差し出した。参謀はひったくるようにその書類を取り上げると、じっくりと眺める。
「ほう。確かに改竄されているな。これが本当なら、アルトは横領をしていたことになる。反逆罪だな」
「ええ。アルトはベルギンの商人から大量の物資を手に入れております。通じていた証拠ではありませんか。」
商人からアルトが木箱に入れた物資をもらっているのをバルトロメウスは見ていたのだ。
参謀は重々しく頷いた。
「分かった。ベルギンの町でアルトを捕らえ、話を聞くとしよう。」
「ありがとうございます。」
頭を下げながらバルトロメウスは心の中で喝采を叫んだ。
バルトロメウスはそれぞれの部隊が落ちつくのを待って、行動を始めた。
ベルギンほどの大きな町であれば、盗賊を入れておくための牢もある。そこにアルトが繋がれていることを、バルトロメウスは掴んでいた。
見張りの兵士に金貨を握らせると、バルトロメウスは牢の中へと入っていった。
「バルトロメウス隊長……。」
鉄格子の中、アルトは困ったような顔をして座り込んでいた。
「お前が後方補給部隊の金をくすねていたとは気づかなかった。おそらく前の隊長の時からずっとやっていたんだな。」
バルトロメウスの言葉に、アルトは目を丸くした。
「僕は、そんなことしていません!」
「誰も信用せんよ。あの父親の息子だからな。」
アルトが父の名前を聞いて怯んだ。
アルトの父親のことはバルトロメウスも知っていた。大金に目が眩み、身を持ち崩した男。アルトの父親を泥沼に引きずり込み、その上前を跳ねていたのは自分だという事実は、バルトロメウスの記憶の底で心地よい優越感として眠っていた。あとは弱味をちらつかせればいい。
「これでお前の罪が確定すれば、残された兄弟はどうなるんだろうなあ。」
アルトは弟と妹を国に残して、父の代わりに育てている。彼らを助けるためならアルトは何でもする。助けて欲しいと自分にアルトが縋る姿を夢想して、バルトロメウスはゾクゾクと快感を覚えた。案の定アルトは真剣な目で訴えてきた。
「弟と妹は関係ありません。そもそも僕は何も……。」
「国に戻れば『私がやりました』というまで拷問されるだろうなあ。」
バルトロメウスの言葉に、アルトは青い顔をして黙り込んだ。
「お前の弟と妹を助けてやろうか?ゼクス大佐はそんなことしてはくれないだろう?なにしろ『死神大佐』だからなあ。」
大佐の名前を出した途端、アルトの態度が変わった。酷く冷たい目を向けてきたアルトにバルトロメウスはギョッとするが、最後のあがきだと自分に言い聞かせた。
「……僕に、どうしろと?」
その一言を待っていた。バルトロメウスは懐から小瓶を取り出して、牢の中に置く。
「これを飲め。そうしたら全てが終わる。」
「……毒ですか?」
「さあな。預かったものだからな。」
そもそもこの小瓶は大佐に使うよう、渡されていたものだ。
アルトは小瓶を握りしめた。
「最後に教えてください。帳簿の数字を改竄したのは隊長ですか?」
「ああ。そうだとも。」
「……だそうです。参謀!」
声の調子を変え、アルトが大声を出した。
「よくやった。アルト。」
奥の牢の暗がりから出てきたのは参謀だった。
読んでくださり、ありがとうございます。
「続きが気になる」「面白い」「早く読みたい」など思われましたら、下記にあるブックマーク登録・レビュー・評価(広告の下にある☆☆☆☆☆→★★★★★)、リアクションなどしていただけると嬉しいです。




