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19.作戦開始

 そして、その日の夜。

 集合がかけられた騎馬隊、弓兵隊、歩兵隊がそれぞれ隊列を組んで並んでいる。作戦の内容はすでに周知されていた。これが最後の戦いだとみんなわかっているのだろう。目が爛々と輝いている。

 大将がみんなの前に現れた。じっと皆を眺めてからおもむろに手を挙げる。

「今日の戦いで全てが決まるだろう。皆、力を貸してくれ!」

「おお!」

 大地の揺れるようなどよめき。僕は作戦がうまくいくように祈る他なかった。

「大丈夫だ。作戦が失敗したとしても、お前のせいではない。」

 大佐がそう声をかけてくれるが、そんな楽天的にはなれなかった。

 僕が橋をかけられなければ、全て終わるのだ。


 騎馬隊が上流に向けてわざと対岸から見えるように移動していく。肉を焼いたような美味しそうな匂いも漂わせている。囮となって、魔狼たちを引きつけるのが役目だ。対岸の魔狼たちが匂いに釣られるように上流へと動いていくのを見て、僕と大佐は頷きあった。


 僕は氷でできた筏の上に乗った。万が一にも光らないよう、黒い布で覆われている。僕も黒い布のローブを着て、手にはグローブをはめている。凍傷防止用だ。


「行くぞ」


 小さな声をかけた兵士は竹の筒を竿代わりに筏を漕ぎ出した。竹の筒にはところどころ穴が空いており、水が少しずつ中に溜まっていく。


 筏の真ん中にはロープがしっかりと固定されており、ロープの反対側は川岸の杭にしっかりと結び付けられていた。


 筏が少し進むと、川岸からロープ沿いに氷が押し出されてくる。僕は手袋をした手で氷を掴むと、筏に固定した。固定した氷に乗り移ると次の氷が来るのを待つ。氷が押し出され、それを僕が次々と固定していく。氷同士は勝手にくっついてくれるので、固定だけなら魔力はほとんど必要ない。


 川の真ん中まで筏は進むと一度止まった。僕は筏へとまた戻る。竹の竿を操っていた兵士がそれを水の中に垂直に入れようと手元に引き寄せぐっと力を込めた。ゴボッという音と共に、竹の竿はスルスルと水の中に沈んでいった。


「川底につきました。」


 兵士の小声に頷くと僕は竹に触れた。竹の中の水だけを凍らせ、支柱にするのだ。ぱきり、という音をたて、竹は水の中に垂直に立った。筏をその竹に固定する頃には、氷の筏が僕の近くにいくつも来ていた。それをまた繋げ、対岸へと進んでいく。筏に乗っていた兵士は橋を使ってゆっくりと岸へと戻っていく。大人数にはこの橋は耐えられないのだ。敵に見つからないように、静かに。


 上流では川を渡った騎馬隊と魔狼達が戦っているのか、光と金属音が響いている。あの匂いと音でこちらに気づくことはないだろう。


 騎馬隊が押される前に対岸につかなければ。僕は逸る気持ちを必死で抑えながら、一つずつ固定していった。


 ジャリ。と氷と川底の砂が擦れて音を立てた。対岸についた。敵の気配は……ない。飛び跳ねる心臓を宥めながら、僕は橋全体の氷の温度を更に下げ、氷の板同士を強固に接着する。これで氷の橋の出来上がりだ。


 隠し持っていた鳥笛で、鳥の声を真似た音を出す。それを合図に、歩兵隊が静かに渡ってきた。その後に弓兵隊も。あとは、切り札が来るのを待つだけだ。

「よくやった。あとは私の仕事だ。」

 弓兵隊と共に橋を渡ってきた大佐が、僕とすれ違いざまにポンと頭を叩いた。話したいことはあるが、敵に気づかれてもいけない。

 魔狼達の背後を取る形で、隊列は上流へと進んでいった。


「明かりを!」

 隊長の一言で、歩兵隊が松明を掲げる。急に明るくなった河岸に、狼狽える魔狼達の群れ。騎馬隊は一旦対岸へと下がる。

「弓兵隊、構え!……撃て!」

 松明の光を受けて、矢が星のように飛んでいく。


「ギャウ!」


 悲鳴のような鳴き声を上げながら、魔狼達が倒れていく。こちらに向かってくる魔狼は、歩兵隊が次々と倒していく。


「たまには戦わないと、体が鈍っちまうからな。」

 大きな戦斧を振り回しながら、隊長が笑う。

 何匹かの魔狼が遠吠えをあげた。あれは、巨大な魔狼に助けを求めているのだろう。


「そろそろお出ましか。」


 大佐の前がざっと開かれた。弓兵隊は油断なく弓を構えている。

 暗い塊にしか見えない森がザワザワと動いていた。大佐はその方向に両手を突き出した。

「これで、最後だ。"爆炎"」

 いつもより大きな炎が両手から生まれてくる。僕にできることは、大佐を支えることだけ。僕は大佐の腰に手を回し、動かないよう、自分の体で固定した。僕の行動に一瞬大佐は驚いた顔をしたが、すぐに顔を前に向けた。


「背中は預けたぞ。」


 森から現れた魔狼は、大佐の炎を見つけると、ぐわっと口を開けたまま恐ろしい速さで突っ込んできた。このままでは食われるかもしれない。そう脳裏に浮かんだが、手は離さない。僕は、大佐を守ると決めているんだから。グッと手に力を込めた。


 その途端大佐の両手から弾けた炎の威力で、後ろに吹っ飛ばされそうになった。さらに巨大狼からも風が放たれる。川の石が巻き上げられ、体にあたる。あちこちで悲鳴が上がっているのは同じように石が当たっているからか。風圧で、体が持っていかれそうだ。


 恐ろしいほどの唸り声が聞こえて、僕はハッと目を開けた。

 炎に巻かれた巨大な魔狼が河岸でゴロゴロと体を擦っている。炎を消そうとしているのだ。


「させるか!弓兵隊!」

 弓の雨が降り注ぎ、巨大魔狼へと突き刺さる。

「歩兵隊、行くぞ!」

 隊長が先陣を切って、巨大魔狼へと走っていく。


 なんとか踏ん張りながらも、大佐の手がだらんと下がり、崩れ落ちそうになるのを僕は支え続けた。そして、戦いの様子をじっと眺めていた。目を逸らしてはいけないのだ。これは僕が起こしたことなのだから。

読んでくださり、ありがとうございます。

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