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第3章〈魂失の人形〉⑴

全体の構成を見直すにあたり、これまでの3章を2章にまとめ、本話を3章としました。


その部屋は暗かった。


いや、この空間を表すのに暗いという言葉は適当ではない。


光を持ってしても照らすことのできない闇、照らすことが許されない程のどす黒い人の闇が、そこには渦巻いていた。


ぎりぎりぎり、と何かが軋む音。


錆びた歯車を動かすような、悲鳴をあげるような、人が本能的に嫌悪する、高く耳障りな音。


その音の源、それは手だろうか、闇の中にあってなお鈍い光を放つそれは、"そこにあっていいものでも、ここにあってもいいものでもない"知ってはならない、この世で忌むべき禁断の一つであった。


「アイン様」


若い男の声とともに、部屋をノックする音が聞こえる。


「何用か」


部屋の主は、低く響く声で問いを投げかける。


ドアの向こうより男は答える。


「例の男、シロナ・クロカゼが予想通りアンダーへと向かいました。今後の方針について直接ご説明したく、お部屋へ入らせていただいてもよろしいでしょうか」


「ならぬ」


アインと呼ばれた男は、さらに低い声で答える。


「この部屋へは如何な理由があろうと入ることは許さぬ」


声を荒げることはないものの、その声は聞いたものの心臓をつかむがごとき重いものだった。


「はっ、申し訳ございませんアイン様、私の無礼をお許しください」


「よい、声は届いておる、そのまま続けよ」


「ははっ、我々はシロナを捕縛する為、各遺跡に先回りし、騎士を配備しておりましたが、とある遺跡にてアンダーズと接触。これと交戦した際、シロナと思われる人物の奇襲を受けたとのことです」


「らしき……とは?」


アインと呼ばれた人物が問う。


「観測の出来ない攻撃だったとの報告が入っております。目撃者によると、突然騎士の首にナイフが生えたようだったと……」


「成る程」


銃ではなくナイフ、それも突然発生のような攻撃。そこから奴のクラスを考慮した結果、シロナではないかと踏んだわけか。


ナイフで騎士に挑むなど、到底アンダーズの連中とは思えない。


だがそれは騎士とて同じこと。騎士でもナイフ武器として使う者は片手で数えるほどしかない。


「中々の洞察力だ、よい仕事をしたな。して、目撃者は?」


「私にはもったいなきお言葉……、連絡によると、目撃した騎士は重症、現在治癒魔法にて傷を癒しておりますが、再度意識が覚醒するまでは今しばらく時間が必要かと」


「その者も、やはりシロナの攻撃を受けたのか?」


「いえ、彼の傷はアンダーズの銃によるものかと、ナイフによる傷は確認できませんでした」


「ふむ、となるとやはりアンダーズの連中と……」


「はい、ほぼ間違いなく接触しているかと」


「……」


アインはその報告を聞き沈黙する。


それがどのような事態なのか、ドアを挟んでアイズの表情を伺うことのできない男にとっては、知る由もなかった。


ゆっくりと時が流れ、何分も待っていたと感じるほどの沈黙の後、再びアイズが口を開く。


「場所は?」


「ここから西にある辺境の地、カンタラです」


「遠いな……、中央からでは、飛ばしても2日以上かかる距離か」


「はい、とはいえ既に現地の騎士を周辺の地域を警戒させています、警戒網に引っかかれば今度こそ……」


「無駄だ」


アインは部下の言葉を遮り断言する。


「戦闘能力はともかく、奴の魔術は隠密行動にかけては一級品だ、逃げに徹する限り、闇雲に投入したシングルクラスの騎士で発見はできまい」


「では……」


再度アインは沈黙する、暫しののち。


「その地域に、騎士の在中していない村はあるのか?」


「はい、現場から西に50km程の場所にひとつ」


「よろしい、奴はアンダーズと接触した以上、大きな都市にはいられぬ筈だ。だが食料や水を補給しないわけにはいくまい、奴がその村を訪れる可能性は高い」


「はっ!では直ちに近隣の騎士をその村周辺に配備いたします」


「待て、先ほど言った通りシングルクラスの騎士には荷が重い、だが、中央の騎士を向かわせていては間に合わん」


「……早計に逸り申し訳ございません。ですがそれでは」


男は困惑したように問いかける。


「なに、騎士で捕まえることに拘る必要などあるまい」


笑っているかのような声でアインは答える。


「カンタラの聖堂協会に連絡を取れ、ホムンクルスを使うぞ」

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