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第3章〈魂失の人形〉⑵

日は高く上っている。


森の中なのではっきりとは見えないが、木漏れ日が明るく道は照らされている。


そんな中を軽い足取りで歩くリアを眺めながら、自分は後ろからついて行く。


俺の手には彼女の見つけた銀のトランクが握られているが、中々に重い。


いくらフレームで強化された体といえど、小柄な彼女がこれを抱えて砂漠を走っていたとすれば、相当な負荷だったであろうことは想像に難くない。


リアは遺跡を出るとき、「はい、これ」と当然のような流れで俺に渡してきたが、彼女が命がけで守っていたものを運ばせているということは、同時に俺のことを信頼しているメッセージとも取れる。


それを思えば、この荷物運びもそれほど悪いものではない。


遺跡を出てから2日目、彼女の提案で自分達は森の中にある離れの村へと向かっていた。


目的は食料の補給と本拠地への連絡。


なんでもこの先にある村は、長年アンダーズとの付き合いがあるらしく、中継点の一つとして彼らがよく利用しているらしい。


首都近郊では考えられない話だが、それなりの辺境ともなればそういう村もあるのだろう。


年を追うごとにきつくなってくる税収の取り立てが原因で、生活苦からアンダーズとの取引に走った村は少なくないらしい。


その話を聞きながら俺は、2日前にであった行商の男のことを考えていた。


「なあ、リア。騎士に追い立てられた過去がある村に俺が入っていくのは大丈夫なのか?余りいい顔をされないような気がするんだが」


ふと、そんな疑問が浮かびリアに聞いてみる。


「心配ないわ、アンダーズに協力していると言っても、表向きは魔道皇国の領民だもの。それに、込み入った事情を詮索しないのは暗黙の了解だから、たとえ貴方が騎士だと知っても何も言ってはこないわよ」


なんの心配もいらない、という体でリアは話す。


「そうか、リアがそういうなら心配はいらないんだろうけど、この先、自分はもう騎士じゃないです。って毎回いろんな人達に説明するのは骨が折れそうだな」


「いいえ、貴方は騎士よ」


何気ない一言だったが、それを聞いたリアは足を止めて振り返る。


ほんの少し前の表情とは違い、その顔は少しだけ怒気を帯びているかのようだった。


「シロ、貴方がどんな考えであれ、貴方が騎士である事実は変わらないわ。その手に騎士の刻印が刻まれた以上、貴方は騎士以外の何者でもない。それだけは絶対に忘れないで」


リアは一歩踏み出して続ける。


「私は決して騎士の刻印を受けることのないサイボーグ体。逆に貴方は決してフレームが適応しない騎士の体。それは不変的な事実。この世界の理よ」


更に俺の手をつかんで言い寄る。


「この先、余計な揉め事に巻き込まれず生きていきたいなら、自分の立場はしっかりと理解しておいたほうがいいわ」


そこまで言うとリアは視線を少しだけそらし。


「そうでないと、私みたいな目に会うから……」


つらそうな表情でそう俺に告げた。




そうだった。


彼女は元々は中央にいた人間だったはずだ。


遠因とはいえ、彼女の両親を殺したのは自分の存在そのもの。彼女自身に罪はなくとも、サイボーグ化手術を受けたとき、最初からこっち側の人間として生きていたら……と、後悔の念に苛まれることがあったのかもしれない。


だが……、いや、だからこそ。


「それなら、やっぱり俺は騎士じゃあない」


俺は、彼女をまっすぐと見据えてそう言った。


それを聞いたリアは、きょとんとした表情で俺を見上げている。


「自分の立場って意味なら、最初から騎士団に俺の場所なんかなかったんだ」


そう、俺は物心ついた時から孤独だった。


元々由緒正しい家系の騎士が集まる中央に、孤児である俺の居場所はない。

さらに俺が生まれ持った魔術の性質は、俺を孤独にするには十分すぎた。


「俺のことを、初めてまっすぐ見てくれる人ができた。初めて、俺のために話しかけてくれる人ができた。だから、誰かが俺を騎士としてみるのは構わない。でも、リアの前でだけは一人のシロナという人間として見てほしい。それが俺の在り方だ」


それを聞いたリアは少しだけ固まったあと、上気したように驚いて、先ほどまでのつんとした表情を崩した。


睨んでいるような、あきれたような、でも怒りとは別の感情が彼女の表情から見て取れる。そしてしばらくしてから少しだけ微笑んでこう言った。


「呆れた、私より自分のいるべき場所に気付くのが遅い人が、中央の騎士団にいるだなんて」


そして俺の手を放すと、指を俺の鼻先につきだし。


「いいわ、だったら貴方の場所は私が作ってあげる。だからしっかりと私についてきなさいよね」


そういうとまた元の道を振り返って歩き始めた。


「あぁ、なるべく離れないよう善処するよ」


俺もそんなことを言って彼女についていく。


このまま順風満帆な旅になればいい。


少しだけ彼女との間の壁が薄くなったことを感じながら、漠然とそんなことを考えていた。


だが、それは自分たちを照らす木漏れ日の光のように、刹那の夢想に過ぎないと、俺はすぐに思い知ることになるのだった。

久しぶりに更新、次話も久しぶりにならなければいいな。

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