第23話 宇宙の法則
ガシャンッ!!
俺がぶら下がったバスケットゴールが、グラグラと大きく波打っている。
リングを通過したボールが、コートの端へと転がっていった。
「無理だろ。勝てねぇよあんなの」
「その前にデカ過ぎんだろ……」
チームメイトたちの、畏怖と諦めが混じった囁きが聞こえる。
ビーーーッ!
「はいっ! 今日はここまでー! 片付け入れー!」
顧問の笛が鳴り、俺はリングから手を離して着地した。
俺の将来は明るい。いや、眩しすぎると言ってもいい。
これはもう、確定している。
俺はこのままいけば、間違いなくプロになれる。
そしてNBA入りも余裕だ。これも確定している。
現役中にラッパーとしてデビューするのも悪くない。
曲を出すかはその場のヴァイブスで決めるが、出せば全米大ヒット間違いなし。ビルボード一位。これも確定している。
引退した後は、この故郷に戻ってきて畜産を営む。
毎日最高級の肉を食らい、全ての時間を筋トレに費やす悠々自適なセカンドライフ。
これも確定している。
そして何より、これだけは絶対に確定しているものがある。
ケツがデカい女との結婚だ。
残念ながら、俺の理想とする完璧なヒップは、まだ映像の中でしか確認できていないが、俺の遺伝子レベルが求めているのだから仕方がない。
必ずだ。必ず理想のケツを手に入れてみせる。
俺の人生設計に、狂いはない。
ただ一つ。俺以外の要素で、確定していないバグが存在する。
ハルの進路だ。あいつは迷っている。数学か、漁師か。
どうにかして、あいつのベストな未来を確定させねぇと。
俺が汗を拭いながらドリンクを飲んでいると、キャプテンが近づいてきた。
「ケネスーっ! ちょっといいかー?」
「ういーす。なんすか?」
タオルの端を噛みながら、キャプテンの前に立つ。
ただし、意識して二歩分の距離を取った。二メートルある俺が真正面に立つと、それだけで威圧感が出る。
「お前さ。……香椎さんと仲良いだろ?」
キャプテンが少し声を潜め、上目遣いで尋ねてきた。
「あー。はい。同じ中学ですし、幼馴染みたいなもんです」
「そ、そっか。彼女ってさ、手話以外でも話せるのかな……」
何が聞きたいんだ? 手話の勉強でもしたいのか?
「まぁ、筆談とか音声アプリとか使えば、普通に会話できますよ。あいつは耳は聞こえますし、喋れないだけなんで。言ってることは全部通じます」
俺が答えると、キャプテンは少し安心したように頬を緩め、モジモジと足元を見つめ始めた。
その挙動に、俺の野生の勘が反応する。
「か、彼氏とか……いる?」
あー。なるほど。そういうことか。
「いないですよ。まだ誰とも付き合ったことないです」
「そーなんだ! ……じゃあ、よく一緒にいる天然パーマの男の子とも、付き合ってないってこと?」
天然パーマ。ハルのことだ。
学校内では、俺とハルとねむは常にセットだと思われている。
「はい。付き合ってません。親友みたいなもんですから」
俺が事実を告げると、キャプテンの顔がパァっと明るくなった。
「そ、そっかっ! わかったっ! ありがとう、それだけっ! 引き止めて悪かったな、片付け続けて!」
そう言って、キャプテンは軽やかなステップで去っていった。
その背中には、「チャンスあり」という文字が浮かんで見えた。
まずい……。
俺はタオルで顔を覆い、大きく息を吐いた。
あいつの嫁はねむだと、宇宙の法則レベルで確定していると思っていたが……。もしかして、確定していないのかもしれない。
ハルがウジウジ悩んでいる間に、ねむが他の男に取られる? そんなバッドエンドは、俺のシナリオにはない。
急がねぇとな。ハルの進路も、恋路も。
俺が強制的にでも「確定」させねぇと、取り返しのつかないことになる。




