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こえあらず ほうに恋ありけり  作者: ぶりかま
六章 確定事項
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第23話 宇宙の法則

ガシャンッ!!


 俺がぶら下がったバスケットゴールが、グラグラと大きく波打っている。

リングを通過したボールが、コートの端へと転がっていった。


「無理だろ。勝てねぇよあんなの」

「その前にデカ過ぎんだろ……」


 チームメイトたちの、畏怖と諦めが混じった囁きが聞こえる。

 ビーーーッ!


「はいっ! 今日はここまでー! 片付け入れー!」


 顧問の笛が鳴り、俺はリングから手を離して着地した。

 俺の将来は明るい。いや、眩しすぎると言ってもいい。

 これはもう、確定している。

 俺はこのままいけば、間違いなくプロになれる。

 そしてNBA入りも余裕だ。これも確定している。

 現役中にラッパーとしてデビューするのも悪くない。

 曲を出すかはその場のヴァイブスで決めるが、出せば全米大ヒット間違いなし。ビルボード一位。これも確定している。

 引退した後は、この故郷に戻ってきて畜産を営む。

 毎日最高級の肉を食らい、全ての時間を筋トレに費やす悠々自適なセカンドライフ。

 これも確定している。

 そして何より、これだけは絶対に確定しているものがある。


 ケツがデカい女との結婚だ。


 残念ながら、俺の理想とする完璧なヒップは、まだ映像の中でしか確認できていないが、俺の遺伝子レベルが求めているのだから仕方がない。

 必ずだ。必ず理想のケツを手に入れてみせる。

 俺の人生設計に、狂いはない。

 ただ一つ。俺以外の要素で、確定していないバグが存在する。

 ハルの進路だ。あいつは迷っている。数学か、漁師か。

 どうにかして、あいつのベストな未来を確定させねぇと。

 俺が汗を拭いながらドリンクを飲んでいると、キャプテンが近づいてきた。


「ケネスーっ! ちょっといいかー?」

「ういーす。なんすか?」


 タオルの端を噛みながら、キャプテンの前に立つ。

 ただし、意識して二歩分の距離を取った。二メートルある俺が真正面に立つと、それだけで威圧感が出る。


「お前さ。……香椎さんと仲良いだろ?」


 キャプテンが少し声を潜め、上目遣いで尋ねてきた。


「あー。はい。同じ中学ですし、幼馴染みたいなもんです」

「そ、そっか。彼女ってさ、手話以外でも話せるのかな……」


 何が聞きたいんだ? 手話の勉強でもしたいのか?


「まぁ、筆談とか音声アプリとか使えば、普通に会話できますよ。あいつは耳は聞こえますし、喋れないだけなんで。言ってることは全部通じます」


 俺が答えると、キャプテンは少し安心したように頬を緩め、モジモジと足元を見つめ始めた。

 その挙動に、俺の野生の勘が反応する。


「か、彼氏とか……いる?」


 あー。なるほど。そういうことか。


「いないですよ。まだ誰とも付き合ったことないです」

「そーなんだ! ……じゃあ、よく一緒にいる天然パーマの男の子とも、付き合ってないってこと?」


 天然パーマ。ハルのことだ。

 学校内では、俺とハルとねむは常にセットだと思われている。


「はい。付き合ってません。親友みたいなもんですから」


 俺が事実を告げると、キャプテンの顔がパァっと明るくなった。


「そ、そっかっ! わかったっ! ありがとう、それだけっ! 引き止めて悪かったな、片付け続けて!」


 そう言って、キャプテンは軽やかなステップで去っていった。

 その背中には、「チャンスあり」という文字が浮かんで見えた。


 まずい……。


 俺はタオルで顔を覆い、大きく息を吐いた。

 あいつの嫁はねむだと、宇宙の法則レベルで確定していると思っていたが……。もしかして、確定していないのかもしれない。

 ハルがウジウジ悩んでいる間に、ねむが他の男に取られる? そんなバッドエンドは、俺のシナリオにはない。

 急がねぇとな。ハルの進路も、恋路も。

 俺が強制的にでも「確定」させねぇと、取り返しのつかないことになる。


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