74話 日本②
綺麗にカットしてもらったソラは、顔がよりはっきり見えるようになり、美容院の人全員が絶賛してくれた。私? 私は至って普通です。くくれる長さのセミロング。異世界にも美容院があればいいなと今回思ったが、本で見て覚えられるとは思えない。異世界の美容師を探して、日本クオリティに近付けてもらうしかないか。かなり高難易度な気もするけれど。
「お母さん、これなに?」
「お、これは仕掛け絵本だね」
家族と合流後、いまは本屋さんにいる。ソラはこちらでも全言語理解のスキルが通用しているみたいで、見るものすべてに興味を示している。
「こうすると、ほら」
「えっ、すごい! こんなの初めて見たよ。シスターに修復させられていた本は白黒だけだったし、こんなに色があるのすごいね!」
そのシスターは、かなり問題があったようだ。もう会うこともないからと怒りが湧いてきそうなのをぐっと堪える。
「お母さん、これ」
「ん? 魔法使いの仕掛け絵本? 綺麗な本だね」
「これ、欲しい……。頑張って勉強していっぱいいっぱい働くから……ダメ?」
「あらっ、ソラ君はそんなことしなくていいのよ! おばあちゃんが全部買うわ!」
お母さん、上目遣いに即死したな。ソラがこんな技術を学ぶところはないから、素でやっているんだと思うと末恐ろしい。
「お母さんはそれだけ買ってあげて。他は私が買うから。本はきっと役立つから、帰ってきたら真っ先に買おうと思っていたものだったの」
「それならおじいちゃんからは、他の絵本なんかを贈らせてもらおうかな!」
あ、わかった。私のチョロさは完全に両親の血だ。
「おばあちゃん、おじいちゃん。ありがとう!」
気付けば、絵本や図鑑、文字の練習帳などいろんな本を十冊以上も購入していた。めちゃくちゃ重い。そうだ、羅稀に荷物持ちさせよう。
ソラはお菓子やおもちゃ屋さんよりも本屋さんを大層気に入ったようで、帰ってからモカに、将来本屋さんになると宣言していた。あちらでは紙も高いし、本は高級品だ。ソラの宣言がそれを変えてくれるといいなと思う。
「ああ、お母さんの料理……ありがたい……最高……」
夕食は久しぶりの母の手料理。和食をリクエストしておいた。ソラは行く前にお箸の持ち方を練習していたから、ちゃんと使えるよ。
「なんかこうしてると、姉ちゃんが異世界にいるってのが信じられないんだけど」
「弟よ、私自身もいまそれ思ってる」
「ねぇ、ハル姉。あの銀髪の美形とは進展あった?」
ブハッ
「ちょっ! 汚っ!」
ゴホッゴホッ
「な、な、なんで!」
『写真送るときにボクがママとディルクの良い感じの写真入れたからかも』
『まさかの裏切者がこんなところに!』
『えー、でも最近ママはディルクたちのこと忘れてたでしょう? この辺で思い出しておこうよ』
ぐっ。言い返せない。気持ちがなくなったとかそんなのではないけれど、毎日必死過ぎて思い出す時間が減ったというか……ほらっ、慣れない母親業もしないとだからね!? 余裕がないというか!
「だってすごい雰囲気良さげな写真だったよ、ほら」
綺羅花が見せてくれたのは、食事会のあとの撮影会のものだろう。お互いを見て微笑みあっていた。え、こんなシーンあった? なんの会話してた、この時?
「お母さんもこの人が良いと思うわ。文句無しの美形じゃないの」
「姉ちゃんにはもったいなさ過ぎねえ?」
「お、お父さんはこういう相手を選び放題な人は浮気の心配もあるし、どうかと思うな」
「えー、こういう人ほど一途だったりするのが異世界ものの定番なんだよ、お父さん。で、どうなの?」
好き放題言われてるよ、ディルク。
「いや、どうもこうも私、いまその国にいないから」
「えっ! あの可愛いアナちゃんは!?」
「あんた、本当にアナが好みなの? モカがライキが好きそうだって言ってたのよ」
「おっ、さすがモカ! よく分かってる! 俺とモカなら某ゲームのように相棒になって魔物狩りとかできたのにな」
いまは久々のポメラニアンサイズのモカも、椅子を用意してもらい羅稀の隣に座っている。前からこの二人は妙に気が合うのか仲が良いのだ。
「アナも一緒にいないわよ」
「じゃああの王子様も!? 爽やかイケメンも!?」
「双子も!? イケオジも!?」
「いないわね」
「「「えーーー!」」」
弟妹三人の不満がすごい。「キラキラリアル王子様に会いたかった」や「あんなイケメン置いて出てくな」とか私まで言われ放題になってきた。
「その人たちは、お母さんの知り合いなの?」
「おや、ソラ君は知らないのかい?」
「うん。僕がお母さんと出会ったときはモカしかいなかった」
ソラは日本への興味はすごかったけれど、他国への関心は全く示さなかったから詳しく説明していない。
「あんた、いま一体何人でどういう生活してるの」
「帰ってきたときにある程度は話したでしょ。いまは降りた土地とは違う場所で土地開発中。その広い土地で3人暮らしで魔物と精霊が庭にいる。右隣の国の辺境伯様は良い人だよ」
「マジで辺境伯っているんだ!」
「ねぇ、お母さん。僕もこの人たちにいつか会える?」
「そうねぇ、いまの仕事が落ち着いてからなら行けるかしら。ソラは会ってみたい? この人たちに」
ソラが見ていたのは綺羅花が持ってきた集合写真だ。ソラはそれ以外の写真も見て、ディルクを指差した。
「お母さんが前に言ってた人はこの人でしょ? お母さんとお似合いだと思う」
ごふっ
「もうお姉ちゃんは何回詰まらせるのよっ」
「いや、だって息子にそんなこと言われると思ってないもの!」
『ほら、ソラにだってわかるんだよ。ソラは聡明だからね』
『私の味方は誰一人としていないのはなんでなんだ……』
「ソラ君もいつか会えるといいわね」
「うん、早く会えるように僕もお仕事手伝うからね!」
「え、お姉ちゃん、こんな子どもに働かせてるの?」
なんてことさせてるんだという批判の目が一斉に私に集中する。
「いろいろ手伝ってくれてるのよ。モカとソラには助けられっぱなしなの。そろそろ人手も増やさないとやることが詰まりすぎてるの。だからリフレッシュのつもりで帰ってきたのよ」
「そしたら色々抉られたってことか。いいなー、俺も異世界行きたい!」
「わたしも行きたい! 服装とか舐め回すように見たいわ!」
「私も私もっ!」
「それならお父さんも行ってみたいなぁ、どんな植物や鳥がいるんだろう……夢あるなぁ」
「お母さんだってせっかくの初孫と離れたくないわぁ。せっかくだからお母さんももう一度働いても良いかもしれないわね」
「いやいや、言っとくけど、私にはモカがいて、創造神様っていう神様がいて、チートだから生き残れてるんだからね?」
「これから俺、毎日会社近くの神社寄ってチートで転移させてってお願いしようかな」
「あんたは私の無職のときとは違って、ちゃんと社会人してるんだからアホなこと言わないの」
そう言ったにもかかわらず、家族は異世界転移したらどうするこうしたいなど夢物語を長く語っていた。
そんな家族をソラは不思議そうに見つめていたが、私と目が合うと、来て良かったと幸せそうに笑ってくれた。思わず抱きしめたのは仕方ないと思う。だけど、ソラからは早くお風呂入って本読みたいから早く食べろと冷たくあしらわれてしまった。だんだんとモカに似てきた気がする。




