73話 日本①
親子となってしばらく。今日はいよいよ、最初の一年だけ三回与えられる帰還権利の一回目、日本へ帰る日だ。
ソラは祖父母といった親戚に関しての記憶もなく、家族というのは両親と兄弟姉妹だけだと思っていたようだから、新しく祖父母となる私の両親や叔父や叔母になる弟妹に会うのをとても楽しみにしていた。
「ソラがこれから行く場所では、モカは人前では話せないの。だけど、心の中でお話できるからね」
「心の中?」
『ソラ、ボクだよ。聞こえる?』
『わっ、すごい!』
『うん、ソラもすぐに順応できて偉いね』
「ママ、ソラは大丈夫そうだからそろそろ行こうか。向こうも待ちくたびれているでしょ」
「そうね、手紙では孫ができたことに大興奮していたものね。じゃあ、ソラ。お母さんと手を繋いでいてね。絶対に離しちゃダメよ?」
「うん!」
◇◇◇◇
車内に到着して10分。ようやく泣きながらの再会が終わった。本当に帰ってこれたんだ!
モカもみんなに撫でくり回されていた。いまからは、家族の勢いに引いていたソラの紹介だ。
「は、はじめまして……ソラ・タカシロです。よろしくお願いします。おじいちゃん、おばあちゃん、ライキお兄ちゃん、キリカお姉ちゃん、アサカお姉ちゃん」
五人とも胸を押さえて悶えた。この上目遣いには耐えられないだろう。気持ちは分かるとにやにやしてしまう。
「は、はじめまして。おばあちゃんよ。これからよろしくね、ソラくん。おばあちゃんとも仲良くしてね」
「はじめまして、我が家族へようこそ。おじいちゃんと呼んでくれてありがとう。これからよろしく」
「おじさんて教え込まれてるだろうと思ってたのに、まさかのお兄ちゃん……」
「それなら私だって、おばさんだと思ってたよ」
「こんなに可愛い家族ができるなんて、想定外よ」
「我が家はあなたのこと大歓迎だから、何も遠慮する必要はないからね!」
「は、はい。ありがとうございます」
照れてはにかむ姿にまた身悶えしている良い年した大人たち。わかるよ、可愛いからね。なんならいま私も身悶えしたいわ。
あ、私の名前のことはソラに伝えたよ。本当の名前は、ハルカだって。瘴気の土地で新たに戸籍制度も私が作るわけだから、そちらは、トワ・永遠・タカシロで登録することにした。ソラは名前もミドルネームも読みが同じだけれど、自分も同じが良いと言うので、ソラ・蒼良・タカシロだ。
「早速だけど、美容院の予約してくれているんでしょ?」
「私がしたよ。ここから車で20分ぐらい行ったところにあるショッピングモールに親子一緒にカットしてくれるところがあったんだ」
「ありがとう、それは助かる。その間、みんなやモカは?」
「そのまま買い物よ。ご飯は家がいいでしょう?」
「うん、そうだと嬉しい」
「明日はモカちゃんも行けるアウトレットでお買い物しましょうね」
日本に帰るとしてもお金をどうしようかと創造神様に相談したのだけれど、異世界のお金をタブレットの上に置き、両替と押せばなんと日本円が出てきた! なんて便利システム。私は異世界なら金持ちだ。たんまり両替してきたわよ。
『モカも留守番お願いね』
『任せて! 久しぶりに犬を体感するとするよ』
『違和感あるだろうから怪我しないようにね』
「それにしても、異世界とはなぁ……」
運転しながらお父さんが、信じられない様子で呟く。お母さんは、後ろでソラの相手をしてくれている。ソラが家族を怖がらなくて安心した。
「私だって未だに信じられないときがあるよ。でも月がふたつあったり、魔法があるし、魔物がいたり、精霊がいたりするから信じざるを得ないというか」
「そうか……だが、魔物に襲われたりしないのか?」
「モカが最強だからね。結界でも守られているし、うちの庭に住んでいる子たちは温厚で色々手伝いもしてくれて随分助かっているの」
「魔物と住んでいるのか!?」
「庭にだけどね、なんの問題もないよ。モカともソラとも仲良しだもの。ねー?」
「うん、みんな優しいし、いろいろ教えてくれる」
後部座席を振り返ると、気付いたソラがしっかりと答えてくれた。
「へえ、子どもが懐いているなら事実なんだろうな」
「お母さん的には、永遠がちゃんと生活できているのかが心配よ。向こうではなにか仕事しているの?」
「お金はなにも問題ないよ、向こうではチートだから。仕事は、いまとある地域の開発をしているの。めちゃくちゃ忙しいんだよ」
「そう、ほどほどにして体調崩さないようにね。そうだ、病院はあるの?」
「いま住んでいるところにはないけど、庭に薬草畑があるからそれを魔物に教えてもらって薬にしてるよ。その開発地域にも病院作ろうと思ってる。学校もね」
「そうか、それは良いことだな。ソラ君は学校は?」
「行ってないからそろそろなんとかしないとなと」
「学校ないからいけないの?」
「行こうと思えばいけるんだけど」
ルーベン辺境伯家からぜひとも娘と同じ学園へとまた誘われたが、ソラが首を縦に振らない。それならいっそ学校自体作ってしまえと計画中だ。
「あ、着いたぞ。じゃああとで合流しよう」
「分かった、ありがとね」
ソラと手を振って見送り、美容院へ入るとざわつき出す。ソラは車や周りの景色に大興奮していて全然それには気付いていない。
「は、はじめまして、ようこそ。カットでご予約の高城様でお間違いないでしょうか」
「はい、お願いします。息子は美容院初めてなのですが、都度説明してもらえると言われたとおりにできると思います」
「承知いたしました。で、では、どうぞこちらへ」
ソラは私の真似をしてペコリと軽く頭を下げると、えらいねぇと褒められていた。一体何歳に見えてるんだろ。




