72話 親子
わかってはいたけれど、あまりにもやることが多い日々。モカにもブラックな勤務をさせてしまっているし、ソラにもあまり構ってやれない状況に私自身がうんざりしてきた。
それならいまのうちにとモカと相談して、一度日本に帰ることにした。私に縁があり、モカと創造神様の許可が下りた者は連れて行くことは可能だと創造神様から言われたので、当然ソラを連れて行く。
でもその前に聞かないといけないことがある。
「ソラ。大事なお話があるの」
夕食後、いつものようにモカと遊んでいるソラにそう話しかけると、びくっと体を震わせた。
「……っ。出て行かないといけないんだ……」
小さな呟きが耳に入った瞬間、言葉を失った。私は私なりに大事にしていたつもりだが、全く伝わっていなかったのだろうか。そんな思いが込み上げ、答えられずにいる間にソラが庭へと駆け出してしまった。
その後ろ姿を見て、気付く。
もしかしたらディルクも、私に対してこんなふうにもどかしさを感じていたのかもしれない。
「ママ、ソラは大事な話とか言われるときっと悪いほうにとっちゃうんだよ」
「いや、まさかこうなるとは思わなくて……とにかく追っかけてくる!」
私にも体力がついたとはいえ、子どもの足になかなか追いつけないでいると、モカが私を銜えてから背に乗せて走り出した。
た、助かった……あのままじゃ息切れで終わってたわ。
「ソラ、おいで」
庭にある大きな樹の根元に座っていたソラは、私からそっぽを向いた。
「じゃあ、そのままでいいから聞いて」
モカがソラの横に一緒の方向をむいて座り込んだのを見てから、私は二人の正面に座り込んだ。
「最初に言っておくけど、追い出す話ではないからね」
「ほんと……?」
「だって、私はソラのお母さんになりたいと思ってるもの」
「……え」
ようやくこちらを見たソラの両頬を私の両手で包む。
「大好きで大事なソラ。私をソラのお母さんにしてくれないかな?」
「……ほんと?」
「ほんと。私はソラと親子になりたい」
「……僕の、お母さん……に、な、なってっ、くれるっのっ」
「うん、なりたい」
ぼたぼたと音がなりそうなぐらい涙が溢れるソラを抱きしめると、ぎゅうっと子どもとは思えないほど強く返された。
「良かったね、ソラ」
「……うん」
「ボクの弟だね」
「……うん!」
「モカがお兄ちゃんかぁ。モカは何気にスパルタだから、ソラも言動には気をつけないとね?」
「それはママだからだよ。ソラは優秀だもん」
「モカ、それはどういう意味かな」
「ふふ、よく怒られてるもんね」
ソラが顔をあげて涙をこすり取ろうとしたから、慌ててとめた。可愛い顔に傷がついてしまう。モカがさっと魔法で乾かしてくれたあとに、まだいくつか話さないといけないことがあると切り出した。
私とモカの異世界のこと、なぜこの瘴気の土地にいるのか、それからディルクのことも。
「異世界ってどんなところ?」
「うーん、こことは全然違うかなぁ。魔法はない代わりに便利なものもあるし、衛生的だし、きっとソラも楽しめると思うよ」
「えっ、僕も行けるの?」
「もちろん。家族だもの」
「っ、嬉しい!」
その笑顔にこちらもほほ笑みながら頭を撫でる。
「その、ディルクさんって人、その人がお父さんになってくれるの?」
「なってくれるといいなとは思っているけど、どうだろう。正直わからないんだ。でも、ソラもその人と会ったからといってすぐにお父さんて呼ばないといけないなんてことはないからね」
「そうなの?」
「ソラがこの人ならいいなって思えたら教えてほしい」
「……うん。その人、怖い?」
「いいえ、とても優しい人よ」
「ソラと似てるところもあるよ。髪色が銀色でものすごく顔が整ってる」
「僕の髪も銀色なところあるよ。それならその人がもしお父さんになったら髪色戻していいの?」
「そこは悩みどころだから会ってから考えましょうか」
いつ会えるかわかんないしね。頷いたソラの手を引っ張って立たせる。
「よし。戻って、プリン食べよっか」
「「食べる!!」」
「2人ともプリンが好きねぇ」
「……あの、あのね」
「うん?」
ソラがもじもじと言おうか言わまいかで悩んでいるようだから目線を合わせるように中腰になる。
「僕、モカのことも大好きだよ」
モカは自分に話がくると思っていなかったのか、「プリーンプリーン」と鼻歌を歌っていたのを中断して目を丸くしていた。尻尾をぶんぶんと振り回しているのを見ると相当嬉しいようだ。
「それから……」
ぎゅうっと私の片手を両手で握りしめたソラと目が合う。
「大好きだよ……お母さん」
ばたん
「ママっ」「お母さんっ」
悶絶して後ろに倒れてしまった私は決して悪くはないと思う。




