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聖獣と自宅、異世界に着地  作者: 冬実 なぎさ
第二章 異世界での新生活

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71話 急ピッチ

 


 あれからソラは、モカに魔力感知の基礎から教わり、どんどんと魔法を吸収していった。

 全言語理解の上位互換版のスキル。ソラは自分にスキルがあることすら知らなかった。知っていたのは、自身の魔力量が豊富なことと、ドライ魔法とクリーン魔法が使えることだけ。捕らえられている間はあの首輪が魔力封じのもので魔法を使うことができなかったのだとか。


「トワさん! 今日も魔物が増えてたよ!」


 ソラは毎日毎食の聖水のおかげで劇的に回復している。私のことをトワさんと呼ぶようになり、性格も明るくなった。いまではモカや庭の魔物と毎日走り回っている。私たちの浄化活動にも初日から付いてきては、いろんな植物に興味を示していた。どうやら植物が好きらしい。


「また? もう庭じゃなくて、農園と牧場ねぇ」


 裏庭は、元の裏庭はどこいったと思うほど広大な土地が広がっている。畑や果樹園、それから花畑に薬草畑。そこで魔物と精霊が普通に遊んだり寝たりしている。


 三人とも全言語理解があるから魔物の声が聞けるのは助かる。なにせどこに何があるとか、有益な情報を教えてもらえる。


「ママ、これが今日のミルクだって」


 モカが魔法で浮かせて運んできた樽には、のんびりした牛の魔物が作る栄養満点の牛乳が入っている。乳搾りはほかの魔物と精霊が協力してくれている。とんでもない光景だと思うが、楽しんでくれているし、私も楽なので止めない。その搾りたて牛乳はとても濃厚なのに後味がスッキリしている。

 ものすごく美味しいし、嬉しいんだけどいかんせん量が多い。付与スキルで作ったアイテムボックスのおかげで味が変わるとかそういったことがないのが救いだ。


「そろそろなにか名物考えるとかしたほうがいいかも。街道も出来たら、作った施設で売るのもいいかも?」


 モカの提案にたしかにと思うと同時に心配もあった。


「確かに。牛乳そのものでも売れるし、ソフトクリームやバターにもチーズにもできるもんね。でもそのせいであの子たちが狙われたり住処が荒らされるのは嫌なんだよねぇ……」

「彼らは大型だけど、穏やかだから狙いやすくはあるかもしれない。聖獣のボクにしか取れないものだと言うとか? ボクに手を出す馬鹿はいないよ」

「そうねぇ。量がものすっごくあるから何とかしないといけないのも事実。他にもたくさんそういった物があるけど。モカのロゴを作って期間限定、数量限定で売ろうかな」

「こういうのは、アサ姉うまそうだよね」

「ああ、確かに。私のハンドメイド商品のときも張り切っていろいろ準備してくれてたもんね。手紙でデザインできるか聞いてみようかな」


 妹たちは手先が器用なうえに、商魂たくましい。おかげでいろいろ助けてくれてはいたけれど、こちらの世界ではアナがいてくれていた。


「……アナにもいつか会えるかな」

「会えるでしょ」


 小さく呟いたはずの声に、モカが妙に自信満々で断言した。


「アナってだあれ?」

「アナは私たちが前いた国の大事な友達よ。いつかソラも会えるといいわね」

「うん!」


 そう言ってソラは、また手元のスケッチブックに視線を戻した。ソラは絵を描くようになり、それが上手で、日々上達している。普通にイラストとして売れそうなレベル。

 最近よく描いているのは、庭の生き物や植物。絵にはエフェクトのようなものが描かれていることもあり、もしかしたら精霊が見えているのかもしれない。


 とまあ、こんな感じで私たちの関係は良好だ。最初は警戒もあったのかぎこちない部分もあったが、これまで親に甘えられなかったぶんを取り戻そうとするかのように甘えてくれるようにもなった。


 私はまだ親ではないけれど、しばらくしたら養子縁組をしたいとモカに相談をしていた。モカはディルクのためにも良いと答えてくれたが、私が心配なのはソラよりそのディルクだ。彼には子どもは持てないと伝えているから、再会したときに子持ちになっている私を見てどう思うのか、予想がつかない。


 たとえディルクに否定されたとしてもソラが望まない限りは離れるつもりはないし、一緒に過ごしていて私は養子縁組する前だというのにすでに母親のような気持ちになりつつあった。


 正直、自分のことさえろくにできていないのに、この子を守り抜けるのか心配もあった。でも、それ以上にこの子のためになんでも頑張ろうと、モカに感じたものと似たようなものを感じている。なかには犬と人間を一緒にするなという人もいるだろう。だけど私にとっては、モカは大事な我が子、そこにソラが加わる。あとは、それをディルクがどう思うかだけが問題だった。

 そろそろ一度、日本へ帰ることも検討しているからそれまでには本人の意思だけでも確認しておきたいと考えてはいる。ソラのこと以外にもやることが山積みで、頭も回らなくなってきている。私もそろそろリフレッシュしたい。


 先に街道近辺と住むべき場所の浄化は終わらせた。各場所を確認しながら、タブレット内で区画整理もしている。貴重なものが多い土地だから、自然を壊す範囲は少しでも小さくなるよう考え中だ。


 モカと創造神様の協力で、増えすぎた魔物の多くは北側に新しく作った二ヶ所のダンジョンへ移した。沼とダンジョンは別物のようで、討伐されてもまた同じ魔物や新たな魔物が延々と湧いて出てくるから都合がいい。残る二ヶ所は元からあるダンジョンで、何がいるかわからないため、私とソラは立入禁止だとモカから言われている。

 なぜダンジョンを浄化しなかったかは、簡単。お金を生むからだ。


 街道を挟んだ南側は、生活エリアにするつもり。南側に私の家があり、残りは商業・農業・学校などの公共エリアと住宅街に分けて区画整理している。中心には大きな桜がある神殿を建てる予定だ。桜は精霊王様にお願いしたら快く了承してくれた。今回のことのお詫びも兼ねて立派なものを用意してくれた。春になれば神殿の庭でお花見ができそうでいまから楽しみにしている。まだいまはタブレット内で眠っているけれどね。


 日々の浄化活動や整備をしていると毎日があっという間に過ぎ去っていく。


 ――とにかく、忙しい。あの人やあの国のことを考える余裕もないくらいに。



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