7話 スキル
宰相様の部下が、殿下と大神官長様を呼びに来たこともあり、ひとまず解散となった。ディルク様が私のことを送ると言ってくれたけれど、殿下の元を離れるのはどうだろうと固辞したら、ロキ君とロク君が送ってくれた。私の家がある中庭までの道のりを覚えていなかったから助かった。
おかげで双子君とは仲良くなれた気がする。うちの弟とは違って可愛い。モカも同じだったようで、キラキラと自分を見てくる二人を気に入ったようだった。
「それにしても、美形揃いだったわね……」
リビングにあるソファにぐったりと沈み込みながら、今日のことを思い出してみる。外に出て改めて実感した。ここは地球ではないのだと。中世ぐらいの時代だろうか。でも魔法があるみたいだから実はものすごく発展している可能性もある。そのへんのことは明日以降にお勉強なんだけど――
「ママ、この家のこと説明していい?」
「この家?」
「そう。地球にあった時とは変わっているんだよ」
モカはそう言うが、体を起こして確認しても何も違いが分からない。残念ながら散らかったままでもある。
「ここに来たことによって、水は聖水になっているし、愛し子の影響もあってママが育てていた植物なんかはすぐに大きくなる。それに栄養価がものすごく高い希少なものになっているんだよ。薬草になっているものもあるよ」
「……なんだって?」
「だから、アサ姉やキリ姉が観ていたアニメみたいに、薬草を売ったりもできるよ」
モカは、朝陽華と綺羅花のことをそう呼んでいたんだな。じゃあ、羅稀のことは、モカからすればライ兄かなと確認したら、ライだと答えた。うん、自分より下と認識しているんだな。
「聖水ということは、よくある面倒なものよね? なんか色々巻き込まれたり」
「悪い面もあるけど、ママにとって嬉しいことあるよ」
「なんだろ、体が元気になる?」
「それもあるけれど、肌が綺麗になる」
「よしっ、がんがん使っていきましょう!」
この際、悪いことは無視だ。この年で美肌を手に入れられるなら大抵のことは大したことではない!
「あとは、植物だっけ」
本当は裏庭をエディブルガーデンにしたかったけど、そんな能力は私には残念ながらなかった。比較的簡単と言われているブルーベリー、じゃがいも、ミニトマト、ラベンダー含むハーブ数種類ぐらいしかない。花は寄植えで、ガーデニングが好きな近所のおばさまからいただいたものばかりだ。
「でも植物は、時期があるでしょ?」
「ううん、聖水撒けばなにもしなくてもなんでもすぐ育つよ。だからこの庭だけじゃ狭くなるかもしれないね」
「聖水すごいな」
「うん。それから、ほかのスキルは追々説明するとして、一番使うのが現代通販だと思う」
「そう、気になっていたのはそれよ!」
名称だけを捉えればそのまま通販ができるということなんだろうけど、お金とかどうすればいいんだろ。
「これは神様が言っていた通り、地球にいたものがここでも買えるんだよ。ママ、スマホかタブレット出して」
そういえば、スマホどこだっけ。タブレットは作業部屋にあるから持ってこよう。
「あ、スマホもあった。そういえばスマホって使えるの?」
「スマホとタブレットは通販機能と、時計とアラーム、電卓、カメラが使えるよ。カメラがあればママも鑑定ができるし、常に持っていてね」
「了解です。鑑定ってよく異世界もので見るものね」
「かなり便利だよ。殿下はスキルで持っているみたいだよ、しかもかなり高レベル」
「へぇ〜見た目や地位だけじゃなくそんなとこまでハイスペックなんだな」
あのキラキラした王子様を思い出す。どこか腹黒そうな王子様だったな。笑顔が綺麗すぎて逆に怖い。立場的にそうなるのかもしれないけれど。
スマホもタブレットもロック画面は赤ちゃんモカだ。それを解除すると、今までいろいろあったアプリは消えていて、モカの言っていた通りのものと写真フォルダ、その横に現代通販というアイコンがあった。それをタップすると、最初に顔認証システムが立ち上がったあと、残高表示がされた。しかし、その残高がおかしい。
「……ねぇ、モカ。こ、この金額、なに?」
思わずスマホとタブレットをテーブルに置いて、指差す。見たこともないゼロの数だ。日本円ならだけど。
「日本円だよ。スマホはママが日本で持っていたお金とママの年齢に合わせている。タブレットは、瘴気の土地の開発に使って欲しいからいくらでも使えるようにしたって説明されたよ?」
「28は合ってる、合ってるけど! その桁よ、億じゃん! ジャンボ宝くじ複数当選してるじゃないの! タブレットに至っては無限マークなんだけど!」
神様の金銭感覚はおかしいのか?
こんな見たこともない金額をどうしろと? それともここはものすごく物価高なんだろうか。
「魔導具は高いって聞いたけど、ママはこの家があればいらないし……。貰えるものは貰っておこうよ、ね?」
モカが私を言いくるめようと頭をぐりぐり当ててくる。可愛い、可愛いけれども!
「ほら、とにかく操作を覚えようよ。まずは、カテゴリを確認してね」
モカはスマホをパシパシと小さなお手々で叩きながら、早く早くと促してくる。
一度大きく深呼吸をしてからもう一度、スマホとタブレットを確認する。残高は見ないことにする。
少し使った程度ではなくならないし、これから仕事だってするんだから増えもするだろう。だからたまに見る程度にしよう。でないと、心臓に悪い。
カテゴリを確認すると、スマホとタブレットでは大きな違いがあった。スマホは食料品に衣料品、ドラッグストアと生活に必要なものが揃っている。へぇ、と思いながらタブレットを開くと、こちらはさらに工事資材や建造物まで含まれていた。思わず二度見した。
「これ、アパートやホテルも建てられるの……?」
「そうみたいだよ。瘴気の土地の開発用のものがあるって説明されたよ」
「全然想像がつかないし、土地なんだからどこかが権利持ってる可能性もあるけど、とにかくそこをなんとかして欲しいという強い思いは伝わってくるわ」
土地開発かぁ。ただの元事務員からすれば荷が重すぎるけど、やるしかないってことなんだろうなぁ。
「腹を括らないとねぇ……。でも、なにかを考える前にまずは腹ごしらえよね。お弁当とかあるのかな」
転移に時間がかかっていたのだろうか、日本ではまだ昼過ぎだったはず。それがいまやすっかり夜になっていた。
「晩御飯食べて、お風呂入ってさっさと寝ちゃおう」
「ボク、唐揚げ食べたい!」
「そんなの食べて大丈夫なの?」
「もう犬じゃないから大丈夫!」
「うーん、それなら買ってみるけど、何かおかしいなと思ったら必ず言ってね?」
「うん!」
もしかして、モカが言葉を話せるようになったことで一番良いのは、体調管理がしやすくなったことかもしれない。これまで病気とかしたことのない健康優良児ではあったけれど、今後もないとは限らないからね。
お金の支払い方法は、残高引落だった。足りない場合は、各国のお金を画面に置くことで入金もできるのだとか。足りないなんてことになる可能性は万にひとつもなさそうだわ。
注文したものがテーブルの上に箱でぽんと現れた。荷物は基本的には注文した目の前に届くけど、場所を指定すればそこに送ることも可能らしい。
本当に日本の通販と同じだ。届いたお弁当は温かくなっていて、おしぼりとカトラリーも付いていて驚いた。
味もちゃんと美味しかった。温かいものを食べると、なぜかほっとする。
こうして、バタバタした異世界初日はなんとか終わったのである。




