SS 覚悟 ーディルク視点ー
なぜあのとき、肩から手を離したのか。あのまま抱きかかえていれば、手が届いていたはずだった。
伸ばした手が空を切る。
何度もそのシーンを夢にみて飛び起きる。
あれから何日が経った?
いまが何時なのかもわからない。食事をとる気にもならず、なにもする気が起こらない。
暗い部屋のなか、ぼうっと寝転んでいると急に細かい粒子が光りだした。魔力の揺らぎだ。
騎士団で身についた癖だろう、咄嗟に飛び起きると目の前にいたのはモカ様だった。
「モカ様!?」
「うん」
「トワっ……トワはっ!?」
モカ様に懇願するように、彼女はいないのか確認する。
「ママは連れてきていないんだ、ごめんね」
「……っ。一緒には、いるのですか」
「うん、追いつけたからね。だからママは無事だよ」
ほっと息をつく。あれから深く息を吸ったのは初めてかもしれない。頭がクリアになっていくのを感じる。
「本当はボクも来る気なかったんだけど、君の魔力のことがあるからせめてママの無事だけでも知らせに来たんだ」
「彼女は……」
どうして、俺の前から消えたのか。
モカ様は、トワの心が疲弊していたこと、あの夜の出来事が彼女の過去の出来事を思い出させたこと、誓晶石を使って精霊王が転移を発動させたと教えてくれた。やはり、あの女どもも過去の男も消し去っておけばよかった。
それに、なにより許せないのは自分自身だ。トワと一緒に過ごせることが嬉しくて、幸せで、自分のことばかりで、彼女のことを本当は何も気にかけていなかったせいだ。俺が彼女をちゃんと見て支えていれば、もっと周りに目を向けていればこんなことは起こっていないかもしれない。
俺の他人への興味のなさがすべてだ。トワの転移を引き起こした一番の原因は、俺だ。
「ママはこれからまた一から頑張る。だから君も、ママとまた会いたいなら魔力面もだけど、いろいろやることあるでしょ」
「……」
「君の、いや、君たちの願いは叶えられるよ」
「え?」
「叶えなかったら国を潰しにこないといけなくなっちゃうからね」
「……モカ様?」
「会いたいんでしょ?」
「もちろんです。今すぐ会って抱きしめたい」
「うん。ママもさ、君とずっと一緒にいるために頑張るんだ。だから君も頑張って」
「どこにいるかは教えてくれないのですね」
「それもそのうちわかると思うよ」
くすりと笑ったあと、モカ様の魔力が揺らぎだした。
「じゃあね。ママと一緒に待ってるよ。あ、そうだ。ちゃんと寝て食べるようにね。筋力が減ってるとママがショック受けるよ」
「……それは困りますね」
そう薄く笑えた自分に驚く。同時にモカ様の姿が霧散した。
「ふぅ……」
ソファに倒れこみ、腕を天に伸ばした。
ここで寝ている場合じゃない。
もう一度、彼女をこの腕に抱くために。
もう二度と離さないために。
覚悟を、決めた。
今回はSSのため、もう一話更新しています!




