59話 女子会とドレス
翌朝、昨日の騒動を詫びながらロキ君に謝ると「落星鳥を調理してほしい」とリクエストされ、アナとロキ君と三人で朝から唐揚げを大量調理することになった。味見役はもちろんモカ。ディルクは朝から殿下と会議で不在だ。
ロク君とクィンさんの分も持っていこうという話になり、ロキ君がピアス越しに連絡すると、ロク君が神殿まで来てくれることに。ついでにアナとは、先日の女子会の件で話をつめた。招待した子たちは全員うちが「うっすら見える」らしく、明日の13時に応接室でお茶会をすることに決まった。
唐揚げとおにぎりを持って神殿に着くと、開口一番、大神官長様が興奮気味に飛んできた。曰く、精霊王が姿を見せた件がよほど衝撃的だったらしい。ちなみに精霊王はそのことで創造神様に怒られ、これからは自分から人間界に降りてくると宣言したのだとか。モカも私も止めたけど、精霊の気まぐれは誰にも止められない。
クィンさんからは「あなたになにかあればディルクが使い物にならなくなるから程々に」と釘を刺され、有無を言わせない声の圧に頷くしかなかった。やはり一番怒らせてはいけないのはクィンさんだと思う。
大神官長様の興奮が収まったときに、今朝二人で記入した婚姻承認書を大神官長様に預けた。正式な提出はまだなので、その日まで預かってほしいとお願いした。みんなも喜んでくれて、私も嬉しかった。
ロク君が仕事に戻らないといけないため早々に東屋で皆で唐揚げを食べ始めたら、あまりの美味しさにみんな無言でぱくぱく。そこでふと気づく。
「あ、ディルクのぶん残すの忘れてた」
その一言で、全員のお箸がぴたりと止まった。
その日は結局、私が慌てて「彼のぶんはまた来たときに作るから」と言うと、みんなの食事もすぐに再開した。次いつ来るのか聞き忘れたけれど、お肉はまだまだあるから問題ないだろう。魔物肉でもじゅうぶん美味しいものができてよかった。
午後はアナと一緒に庭仕事をしたあと、彼女はミシンを使って裁縫やハンドメイドに没頭していた。手が空いたロキ君とモカには中庭で訓練してもらおうとしたのだけれど、昨日みたいなことがあってはいけないからと頑なに離れようとしない。それなら、と袋詰めや内職を手伝ってもらうことにしたら、ロキ君は意外にも手先が器用なようで、アナと良いコンビネーションを発揮していた。ちなみにモカは爆睡していた。
◇◇◇◇
あれから数日、今日は念願の女子会。
張り切って三段パンケーキに生クリームとフルーツを添えて出したら、かなりウケた。こちらの世界の女性はよく食べる。私が少食だと言われる理由がよく分かったわ。
恋バナが多いのかと思いきや、聞かれたのは主に日本での仕事の話だった。差別はあるのか、女性は自立できているのか——至って真面目な質問ばかり。もっとバリバリ働きたいけれど、家族はやはり結婚させたがるからうまくいかないのだと彼女たちはこぼす。「結婚したいなら、別宮じゃなくて最初から出会いの多い王宮で働くわよ」と一人が言うと、みんな深く頷いていた。
別宮は特に女性が少ないうえ、着任しているのは殿下専属の第二騎士団のみ。しかも団長がディルクとあっては、近寄ることすらできないらしい。ロキ君とロク君は雰囲気も柔らかいし話しかけやすいと思うのだけれど、と言えば、当たり障りのない対応しかしてくれないのだとか。下手なことをすればディルクからクビにされかねない、という空気があるようだ。
そんな折、朝勤帰りのディルクが女子会へ私を迎えに来て、場は一気に騒然となった。来るなんて聞いていなかったから私も驚いたけれど「疲れが限界だから抱き締めて眠りたい」とこっそり耳打ちされた瞬間、顔が火を吹くように赤くなったのがバレて、みんなにニヤニヤされてしまった。恥ずかしかったけれど、ディルクを見て大騒ぎするような人たちじゃなくて良かった。
来たときがちょうどお開きのタイミングで、女子会メンバーとはまた今度と約束をし、この日は解散になった。女子会はやっぱり異世界でも楽しい。
そのまた数日後、いよいよ騎士団で一番の人気行事、一般公開デー。そして、それが終われば私は国を出ると宣言することにしている。
「夜のパーティーには出ないの?」
「そちらは、別宮の侍女は休みでも良いと言われております」
「そうなんだ、出たいなら出ようよ」
「いえ、全く」
「えぇ……」
はっきり言い切るアナに理由を聞くと、最近レース使いの小物や刺繍にハマっているのだという。きっかけは、まさかの私の下着だった。
こちらの世界の下着といえば下は無地のコットンのドロワーズ、上はシュミーズ。たまたま洗濯物を畳んでいたときに私のものを見つけたアナが、ものすごい勢いで食いついてきたのだ。さすがに私のは恥ずかしいからと急遽通販で取り寄せ、丸ごとプレゼントしておいた。これはまだ内緒にしてもらっている。これだけ反応がいいなら、自分で作れば仕事になるかもしれない。瘴気の土地の将来のために、この案はひとまず手元に置いておこうと思う。
「ボクもまた蝶ネクタイつけるんだよ!」
「モカ様ならよくお似合いでしょうね。支度はお手伝いいたしますから、楽しみにしていますね」
「うんっ。ママはドレス用意したの?」
「いやー、それが——」
朝起きたら、ベッド横のサイドテーブルに置かれていたのだ。箱入りのAラインドレスと、大粒のタンザナイトがいくつも付いたジュエリー三点セットが。
ドレスは濃い紫色で、スカートの裾にシルバーの花柄の繊細な刺繍。パフスリーブの先は細かい網目のレースで腕全体を覆い、首元から胸元にかけても同じレースで囲われていて肌の露出はかなり少ない。値段は考えたくもない。
「うわぁ……すごい独占欲カラーだねぇ」
モカが誓晶石を見たときと同じ、あのドン引き反応をする。
「こちら、団長が自ら指定されたのですよ」
「アナ?」
「実はこれを依頼されたのは、うちの商会なんです」
「え!」
「トワ様はトワ様で、魔石をご注文されたでしょう? 仲の良いお2人だと父も兄も感心しておりましたよ」
「うーわ。なんかすごく恥ずかしいんだけど」
「絶対にお似合いですよ。騎士団の方は準正装ですから、いつもの制服より華やかになりますよ」
「正装じゃないって聞いていたんだけど?」
「準正装ですと制服にマントが付きます。正装となるとそこに勲章も付きますし、ひと際華やかになります」
「……モカ、こっそり写真撮れないかな?」
「大勢の前でスマホ出すわけにはいかないから、別室待機の時とかならいけるかも?」
「よし、そのタイミングを狙いましょう。絶対撮っておかないとキリカとアサカに何を言われるか分からないわ」
「騎士団のご家族も来られますから、ロキ様やロク様のご家族もお見えになるかと思いますよ。毎年来られていますから」
「そうなんだ! それはできればご挨拶したいわね。……聞いていいのか分からなくて聞かなかったんだけど、ディルクの家族も来たりする?」
彼は家族のことを滅多に話さない。聞けば答えるとは言われているけれど、自分からは話さないということは、あまり触れてほしくないことなんだろうと思うと、なかなか聞きづらかった。
「昨年はお兄様ご夫婦が来られていましたね」
「へぇ。似てるの?」
「いえ、顔は整っておられますが、団長より優し気と言いますか、雰囲気も全然違いますね。文官によくいる方たちだと思っていただければ。ただ、問題なのは奥様のほうです」
「似てないんだね。奥様って義理のお姉さんってことよね?」
「はい。同じ伯爵家の方なのですが、奥様も元々は団長狙いだった方として知られていて、あまり評判は良くありません。ですから、くれぐれもトワ様もお気をつけくださいね」
アナが神妙な面持ちでトワを見ながら言うと、モカもそれに同意する。
「そうだね。ママはどこかのんびりしているし、面倒だと思うとどうでもよくなる癖があるからね」
「いや、さすがにそうはならないと思う」
「大勢が集まるから、誰かが何か仕掛けてくるかもしれないんだから。ディルクから前にもらったネックレスもしたままにしておいたほうがいいよ」
「ジュエリーもあるのに? てかやっぱりなにか力のある石なんじゃない」
「ママを守る最善のものだよ。だから必ずしておくこと!」
「はーい、わかりました」
まあ、まさかこんな会話がフラグになるなんて、思いもしなかったよね。




