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聖獣と自宅、異世界に着地  作者: 冬実 なぎさ
転移した先での出会い

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57話 夢幻花②

 


「ディルク、入るよ」


 永遠の寝室から出てこないディルクに外から声をかけて中へと入る。トワから手を離し、ディルクがソファへと移動してきた。


「モカ様。お聞きしたいことがあります」


 そろそろ聞かれるだろうと覚悟のうえだ。モカはどうぞと先を促した。


「私の魔力についてです。なにか知っていることがあるなら教えていただけませんか」

「……仕方ないから教えるよ」


 モカはため息ひとつ吐いてから口を開いた。元は魔王の魂でその欠片の影響で膨大な魔力を持っていること、それが年々大きくなり暴走してしまえば魔王化すること。永遠はその魔力を抑えることができる運命の人だからこそ、永遠になにかあれば、魔力が大きく揺らいでしまい危ないこと。永遠がプレゼントしたネックレスは暴走を抑制する付与が施されていることなどディルクの魔力に関することだけをまとめて説明した。


「トワがここへ来たのは私のせいですか」

「それは違う。それはボクのせいだよ。それに運命の話は異世界だったら、の話だよ」

「つまり、元の世界では別の相手がいたと……」

「まぁ、そういうことだね」

「なるほど、それは許しがたい」


 自嘲するように笑うディルクの目は笑っていない。そんなこと絶対許さないと目がそう語っている。それを見てモカはどうしたものかと考える。これから先についての話はいまはまだ話せないからだ。


「言っとくけど、ママがそれを聞いたときにはもう君にグラグラきてたときだからね?」

「逃がすつもりは毛頭ありませんでしたが、彼女は魔王化……いえ、これは彼女に直接聞くことにします。彼女に出会っていなくても魔王化が進み、彼女になにかあっても魔王化が進む厄介な魔力ということはよくわかりました」

「ママがプレゼントしたネックレスは絶対に外さないようにね」

「外すことはないと断言できますが、この魔石が耐えられなくなることはないのでしょうか」


 シャツの上から永遠がくれたネックレスに手を置く。あの日から一度も外したことはない。


「それは大丈夫だよ。ママの付与は本人は気付いていないけれど、神様特性の一級品だから。それから、本当ならそんな状態の君をママから離してこの国に置いておくのは良くないことなんだろうけど、どうしても一緒には連れていけないんだ」

「彼女は私の元に帰ってくる約束をしてくれましたが、それも守れないのですか」

「それは大丈夫じゃないかな。しばらくはってことだからママが落ち着いたら君に連絡すると思うよ」

「そう、ですか。正直いまですら数日会えないだけで耐えられそうにないのに、それ以上となると自分でもどうなるかはわかりません。彼女がいなかった日々がいまではもう考えられないのです」


 両手を組みながら、ディルクはこれまでのことを思い出そうとしたが、思い浮かぶのは永遠が横で笑う姿ばかりだった。


「離れてる間はあまりママのことを考えないほうが健康的にも良いと思うよ。生涯会えないわけじゃないんだし、君は君にしかできないことをするべきだと思う」

「私にしかできないこと?」

「魔力のコントロールだよ。討伐なんかに関するコントロールに関しては文句のつけようがない。でも、ママに関することがあればすぐに揺らぎ、瞳も濁ってしまう。再会したあともそれがコントロールできれば、君が魔力にのまれてしまう可能性は少さくなるだろう」


 ディルクは考え込むように顔を下に向けてから、モカを見た。


「魔力に関してはわかりました。もうひとつ、お聞きしたいことがあります。精霊王が仰っていたことです」

「そうだよねぇ、気になるよねぇ」

「気にしないほうが良かった感じですね」


 ディルクは苦笑しながらも質問の撤回はしなかった。


「夢幻花というものが魔力の安定を齎し、今代では無理だというのはどういうことでしょうか」

「夢幻花のことは知っている? ボクもまさか庭にあるだなんて俄には信じられないものなんだけれど」

「いえ、花やそういったものには詳しくはありませんから」

「あれは学者ぐらいじゃないとわからないものだと思うよ。夢幻花は百年に一度咲くか咲かないかと言われている花で、不思議な幻象を起こすんだけど、その幻象が様々すぎてどれが本当かはわからない。でも、本当の効果は全く別のことなんだ」


 モカは一度言葉を切った。言っていいか迷いがあるからだ。きっとディルクなら飲むことを選ぶ。だが先ほど精霊王が言っただろう、永遠は拒否したと。それがディルクを傷つけ、魔力をいま以上に不安定にさせないかがわからない。自分がいるから暴走は止められる、でもそれが自分のせいだと永遠には思ってほしくはない。


「モカ様、私は何を聞いても平気です。魔王だなんて話を聞かされればこの際、なんでも来いですよ」


 ディルクはモカのそんな心配に気付いてか笑いながら言う。永遠がディルクは細やかな気遣いのできる優しい人だと言っていたことがよくわかった気がする。


「ディルクはママとずっと一緒にいたい?」

「もちろん」

「来世も?」

「そうですね、来世だけでなく彼女が彼女である限りは私が相手じゃないと許せそうにありませんね」


 永遠が愛され過ぎていることにモカは少し引いたが、ためらいもなくそう言うディルクだからこそ名前の通り、永遠を永遠に大事にしてくれる人なんだと少し嬉しくもあった。


「……夢幻花はね、あれを煎じて2人で交互に飲めば来世でも結ばれるというのが真実なんだ」

「それで今代だけでは無理だと仰ったのですね」

「君の中にいる魔王は愛を渇望していたからね」


 ディルクは、自分の胸に手を置き、鼓動を確認するが何も変わらない。わかるのは、来世を永遠が拒んだということ。


「それを、トワは嫌がったと?」

「まぁ、そうだね。でもママが嫌がった理由はひとつだけだと思うよ」

「私のことがそこまで好きではないのでは?」

「それ本気で言ってる?」

「好かれているのはわかりますが、私が彼女を愛するほどではないでしょう。この差はきっとずっと埋まらないと思ってもいます」

「ボクが言うのもおかしいけれど、君は十分ママに好かれているよ。もっと自信を持ったほうがいい。ママの国はあまり愛情表現が得意な国民性ではないんだよ。それに、ママが飲むのを嫌がった理由は別だよ」

「なにも思い浮かびませんが」


 ディルクは、永遠が来世も一緒に過ごすのは嫌がっていると本気で思っているからこそ何も思い浮かばない。それにモカは少し呆れを見せた。


「君もママと一緒で時々すごく鈍いのかもしれないねぇ。あのね、ママは君に子どもを持たせてあげられないことをずっと気にしていたのは知っているでしょ。来世がそうとは限らないけれど、その可能性が少しでもあるのが嫌なんだよ。自分のことより、君には君の血を受け継ぐ我が子を持って幸せな家庭というものを持ってほしいと思っているんだよ」

「……思ってた以上に私にとってはくだらないことでしたね」

「君ならそう言うかと思っていたけど、ママは真剣なんだからそれ言わないでね」

「言いませんよ。彼女自身が一番子どもを持つことを諦めきれていなかった部分があるからそういった発想になるんだと思うんですが……私自身は本当に欲しいと思ったことはありませんし、その幸せな家庭というものはトワがいればそれだけで十分なのに」


 永遠も子どもを特別欲しいと思ったことはないと話しているのを聞いたことがあった。でも、モカは永遠が手術をすると決めた日、ひとりこっそり泣いていたのを知っている。モカは話もできなくてただ側にいることしかできなかったけれど、子どもを得られない代わりにママをとびきり大事にしてくれる人と幸せになりますようにと願うことしかできなかった。


 その相手がディルクで良かったのかはわからないけれど、一番永遠を大事にして愛してくれているのは間違いないし、パパにするならこの人間以外いないだろうと思っているのも事実。だけど、なぜかこの二人はうまくかみ合わないところがある。


 永遠はディルクの幸せを願うが、ディルクは永遠と一緒じゃないと幸せにはなれないとお互いが絶妙にズレているのだ。


「そこはママと話し合ってほしいけれど、君は飲みたいの?」

「飲まないという選択肢は初めからありませんね」

「めちゃくちゃ苦いらしいよ」

「嗅覚遮断しましょう。トワにもかけます」

「効果あるかはわからないけれど……」


 モカが話を続けようとしたとき、永遠にかけている布団が少し動いた気配があった。二人は慌ててベッドの両サイドから永遠をのぞき込む。


 お願いだから早く目を覚まして。そう願いながら。


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