54話 討伐と一人
ここへ来て早いもので一か月以上が過ぎた。日本の二月は寒いけれど、ここはそうでもない。この国は雪も降らないんだとか。
「図書館?」
「そう。ここにはないの?」
今日は、ディルクとモカが以前話していた魔物討伐に行く日だ。わざわざ休みを合わせてクィンさんも一緒に行くらしい。そのため、私は自宅軟禁状態。
ロキ君とロク君は護衛担当と言われていたが、あまりにも行きたそうだったから私が軟禁されることで彼らは行けることになった。ものすごく感謝してくれたから、お土産を頼んでおいた。
「王都にもあるが、王城内にもある。なにか読みたいものがあるのか?」
「今後のためにいろいろ勉強しておこうかなって思っただけよ。この国からどうやって出るのかすら私は知らないんだもの」
「それは知らなくて構わない」
被せるスピードでディルクが返事するけど、なぜか誰も教えてくれないのよね。どこに王都から出る門があるのかすらも。過保護にもほどあると思う。
「今日はここから出られないでしょ? 何時に帰ってくるのかも分からないし。だから、アナになにか本を借りて来てもらおうかなと思ったんだけど」
「出入りすらできなくなっているんだよ、ママ」
「そうなの? それなら本当に久しぶりの一人なのね」
「……嬉しそうに見えるのは気のせいか?」
「気のせいよ、気のせい」
じーっと明らかに疑いの眼差しで見下ろしてくるが、私としてはなぜ今日もそんなにお美しいのか教えて欲しい。浮腫んでる日とかないのか、見たことないもんな。
「ママ、ちゃんと家にいてね? 庭はいいけど、例えアナでも殿下でも開けちゃダメだよ。今日はダメだと事前に言ってあるからね」
「トワ、絶対に家から出ないように。出たらトワだけじゃなくて、相手がどうなっても知らないからな?」
この過保護さに呆れたのはクィンさん。
「さすがにそれだけ言えば伝わってるって。ね、トワさん?」
「ハ、ハイ。もちろんデス」
少しぐらい一人を謳歌しても良いのではと思っていたことは内緒だ。クィンさんのダメ押しが一番恐ろしい。
「転移でぱっと行ってぱっと帰ってくるからね!」
「絶対に怪我しないでね! みんな気をつけてね」
みんなの「行ってきます」を聞いたあと、シュッと姿型が消えた。消えたあとは、先ほどまでの賑やかさが嘘のように音がしない。モカもいない一人っきりなんて、日本にいた頃から数えて二年近い気がする。
「1人ってこんなに静かだっけ……」
とりあえず、順番に掃除していこっかな。一階はお掃除ロボット君に任せて、二階へ上がろう。そのあとは、庭だ。最近もうなにがなんだかわからなさすぎる不思議庭。モカですらお手上げ状態。せめてなにがあるか写真撮って鑑定するなりなにかしたほうがいい気がするから、今日はそれで時間がつぶせそうだ。
◇◇◇◇
「お、終わらないっ!」
あれから何時間経った? もうすぐお昼ご飯の時間なはず。いつもならモカがご飯と叫んでくれるからわかりやすいけれど、今日はそれがないから集中していると時間がわからなくなってしまう。
「午前はあとひとつだけスマホ鑑定して終わろうかな。中腰が地味に効くわ」
自分がいまいる薬草エリアでどれか撮っていないものはないかぐるぐると周りながら確認していく。すると、ひとつだけ全く見たことのないものがあった。白く輝くそれは、茎部分だけが深紅色をしていて少し不気味でもある。
「なんだろう、これ。花かな?」
スマホを向けて撮影すると、いつもはもっと具体的に表示されるのに〈夢幻花〉としか表示されなかった。
「これはモカ案件ね。それにしても、夢幻花なんて綺麗な名前ね」
そっと花に触れた瞬間、私は意識を手放した。
◇◇◇◇
「クィン! そっちに行った!」
「了解!」
「ロク! 右だ!」
「団長! 左です!」
「ロキ! 後方!」
各自バラバラに動きながらも指示を出し合わせて動く連携技に周囲にいた冒険者たちが呆然とその様子を見ていた。格が違うとはこういうことだろうと。
ドサァッと取れた落星鳥四羽にクリーン魔法をかけてからマジックバッグに入れていく。
「なんでクリーン魔法?」
「そのまま出すとママが発狂するから。というかどこかでさばいてもらわないと絶叫になるかもしれない」
「トワさんってそういうの苦手なんですか?」
「でも肉料理出してくれますよね?」
「日本ではちゃんと捌いてパックにされたものが売られているんだよ。衛生環境にもうるさい国だからどこよりも丁寧な気がするけれど」
「そうなんですね。家も綺麗ですもんね」
「最近は人の出入りが多いから特に気を付けていると言っていたな。特に殿下が来るのに散らかしたままではさすがに不敬すぎるとか言っていたが」
「え、でも殿下はオレらと動くこと多いから結構大雑把というか気にされませんよね」
「それを言ったら、次は大神官長様とクィンが原因でもあった」
「僕?」
「良家のご子息に来てもらうからにはだとさ」
「良家とか久しぶりに言われたな。騎士団に関わっているとそんなこと忘れるよね」
冒険者たちは徐々にその集団に近づいていくが、煌びやかすぎて話しかけられずにいた。その様子に全員気付いてはいるものの、あえてこちらから声をかけるようなことはしなかった。
「さて、1人1羽のノルマは達成なわけだけど、どうする? まだ帰るには早いなら違うものを狙ってもいいと思うけれど」
「ハイ! オレ、まだ足りません!」
「トワさんのとんかつだっけ? 僕、食べたことないんだよなぁ」
「ああ、あれめっちゃうまかった! あれのおかげであの遠征は楽勝だった気すらする!」
「あのあとあれはかつ丼にしてアナと食べたんだよ」
「「「「かつ丼?」」」」
「ご飯のうえに卵でとじたとんかつを乗せるんだよ。すごく美味しい!」
「よし、豚肉とかいう肉と似たやつを探しましょう」
「トワ自身は赤身のほうが好きって言っていたな」
「なるほど、種類があるんですね。とんかつのあの肉感ならたぶん暴走豚が近いような気がする」
「あぁ、あの機嫌が悪いとぶつかってくるとかいうやつか。僕は出会ったことないな」
「あ、あの!」
さっきから近くにいた冒険者メンバーのうちの一人がディルクたちに果敢にも声をかけた。一斉に振り向かれて、少し怖気づいてしまうが、勇気を出して青年は声を話を続けた。
「暴走豚ならどこにいるか知っています!」
そう言った彼らから一旦背を向け、五人で相談を始める。
「……本当なのか? 僕は冒険者との付き合いがないから全くわからないんだけど」
「俺もない」
「え、団長、たまに討伐に1人で行ったりしてるじゃないですか」
「そりゃこの外見の団長に声かける奴なんてなかなかいないでしょ。声かけるなってオーラ出てるもん」
「うーん、違ったらそこにいるものを倒すか、この人たちに自分でなんとかしてもらったらいいんじゃない?」
モカのその判断に、ロクが冒険者メンバーに再度確認する。
「というわけだけど、責任もてる?」
「え、あ、は、はい! 俺たち、まだ駆け出しで勢いに任せて入ってしまって慌てて逃げてきたんです」
「もしかして、ダンジョン?」
「そうです。フィールド型ダンジョンです」
「確認するからちょっと待ってて」
ディルクたちにロクがダンジョンであることを報告する。ダンジョンとなると所要時間が変わってしまう。
「どれくらい時間がかかるかだな」
「その暴走豚だけ探して倒せたら帰ればいいのでは?」
「でもママをゆっくりさせてあげたいんだよね。ママは1人の時間が必要な人だから」
そうモカが言うと自然と視線はディルクに集まった。
「俺だって毎日行っているわけではないからな?」
「まぁ、ディルクのことは置いておいて。ダンジョンで暴走豚を倒したあとに冒険者ギルドに捌いてもらいにいこうよ。それを待ってる間に街でトワさんにお土産を買うってどう? ロキもロクも買わないといけないだろ」
「そうです、忘れてた!」
「忘れるなよ、俺は覚えてたぞ」
「じゃ、そうしよう。問題は彼らだな」
期待するような目でずっと待っている彼らをチラ見する。
「ギルドが出す地図を借りておけばよかったかな」
「ボクがわかるよ、だから彼らはここに置いておこう」
「モカ様?」
「ダンジョンなら足手まといになる可能性があるからね。それなら最初から置いていったほうが良い。たぶん彼らの狙いはおこぼれだろうから」
「なるほど、ではここで落星鳥の前に狩った蛇でもやっておきますか。多少の小遣いぐらいにはなるでしょう」
「本当はそんなことしなくていいんだろうけど、あとが面倒そうだからそうしましょうか」
彼らにその話をするとあっさりと承諾した。やはり、おこぼれが狙いだったのだろう。いつまで経っても彼らはきっと芽が出ない駆け出し冒険者のままで終わるというのが全員一致の意見だった。
「じゃ、とんかつのために頑張るぞ!」
モカは内心、お肉買えるけどねと思ったがあえて言わずにいた。魔物肉というのをトワにも味わってほしかったからだ。魔物肉はそこからしか取れない栄養分もある。
永遠が今頃どうなっているかも知らない五人は意気揚々と駆け出していった。




