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聖獣と自宅、異世界に着地  作者: 冬実 なぎさ
転移した先での出会い

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53話 プレゼント

 


 後日、私とモカは両陛下にあるお願いごとをした。本当にそれでいいのかと何度も確認されたけれど、その代わり必ず叶えてほしいとお願いすれば了承してくれた。


 王妃様は、肌荒れが翌日には良くなり、二日目はより綺麗になったらしく、いくらでも出すからハンドクリームと合わせて購入させて欲しいと懇願された。ハンドクリームは構わないけれど、美容液は薬用だから治ったならもう効果はないからこれ以上はダメだとモカから通達された。そのことに大いにショックを受けていたけれど、聖獣様には逆らえないのだ。


 庭のどなたかわからない製作者には忙しくしてごめんねと詫び、ハーブ入りクッキーを添えておいた。それがなくなっていたのにも驚いた。もうなんでもありの庭だから驚くだけ無駄だとモカから冷静に言われたわ。


 ベーベル商会に卸した物も即売り切れしてしまったらしく、こちらも増量して渡すことになった。これは私が作らないといけないし、ディルクも夜勤以外のときはこの部屋へ帰ってきてはいるが、お互い忙しくしていて、彼は私が寝てるときに帰ってきて目覚める前に出ていくすれ違い生活。だからゆっくり過ごすのは一週間ぶりだった。


 寝室のドアが閉まるか閉まらないかのうちに、いきなり貪るようなキスがされる。動揺しつつも受け入れていると、熱はさらに深くなっていく。立っているのもやっとになったころようやく離してくれたと思ったら、今度はコアラのように抱きかかえられて再開される。


 彼の衝動が収まるまでされるがままにしていようと思ったけれど……さすがに長すぎる。


「ん……っ」


 息継ぎの合間に、彼の唇を指でそっと押さえた。それさえも舐めとろうとするから、慌てて口を開く。


「……キスより、ぎゅってしてほしい……です」


 こんなこと今まで言ったこともない。恥ずかしさのあまり、最後は消え入りそうな声しか出せなかった。

 彼は小さく息を呑むと、私を床に降ろし今度は隙間もないほど強く抱きしめてきた。最初は愛おしむような優しさだったのが、だんだんと力が増していく。


 こんな調子で二人とも近い将来、離れることが決定しているのに大丈夫なのか心配にもなる。彼は私を抱きしめたまま息を吐く。


「……やっとゆっくりあなたと夜を過ごせる」

「それ決定しているの?」

「今日一番の大事な予定だ」

「もっとあると思うけど」

「何も思い当たらないな」

「あ、待って。聞きたっ……聞きたいことと、渡したいものが、あるのっ!」


 パジャマをまくり上げる手をとめようとするが、叶わず残念な年季の入ったナイトブラ姿にされてしまう。それを全く気にしない彼自身もいつの間にか上半身裸になっていた。見慣れることなく、毎回見惚れてしまうと本当に好きなんだなと笑われる。


「ここ最近のこと聞いてもいい? ロキ君たちから聞く限りかなり忙しいみたいだけれど」

「いまその話いる? 話さないとさせない? はぁ……まずはそうだな――」


 大きくため息をついてからベッドへ寝転んで、手短にここ最近の状況を教えてくれた。先日の鉛事件に加えて、もうすぐある一般公開の警備確認や、留学から戻ってこられる第二王子の出迎え準備、騎士団の再編成まで重なり、聞いているだけでブラックにも程がある忙しさだ。


「怒涛の1週間ね」

「殿下にこき使われているだけだ。第一の団長も珍しく疲れていたな、書類が多いから」

「ああ、確かに事務仕事苦手そう」


 想像して笑ってしまう。ベッド端に座っていた私の手を引き、そのまま私を抱き寄せた。少し考えるように黙ったあと、掛け布団を引き寄せてくれる。お互い露出が高いからだろう。それなら服を着させてほしいと言うがそれはダメらしい。 


「双子もだが、クィンが時々あなたたちの様子を教えてくれる」

「えっ、クィンさんまで? ロキ君とロク君とアナから報告はいってるかなとは思ってたけど」

「時々、神殿で勉強しているんだろう? その際にモカ様から訓練を受けることができるとクィンは喜んでいたよ」

「そうなの。散歩の時間に合わないときはなぜかクィンさんも別で訓練受けさせて欲しいって来るのよ」

「モカ様のおかげで実力がついたのは、双子が証明しているからな。クィンだけじゃなくて、うちの団員にも参加したがっている者もいるよ」

「モカには聞いたの?」

「ママの悪口を言わない人間ならいいって」

「ふふ、モカらしいわね」


 私のことを娼婦だとか言っていた人たちは、王宮騎士団からとても厳しいことで有名な辺境の地へと飛ばされたらしく、王宮への立ち入りも禁止されたんだって。言いたい人にはいわせておけばいいからそこまでする必要ないって言ったんだけれど、この件に関しては私の意見は一切採用されなかった。私以上に怒っている人がいるかららしい。誰かは想像つくけれど。


「話はもう終わり? そろそろ限界なんだが」

「まだ。一般公開には第二騎士団は参加しないって本当?」

「殿下の警護にはつくよ。今年は人手不足で、俺も殿下の警護係だ」

「え、そうなんだ。どちらにせよ私は見に行けないんだよね?」

「そうだな。大神官長様やクィンなら神殿に滞在はしているだろうが、なるべくなら外に出ては欲しくないな」

「そう。それならモカと家でゆっくり待っていようかな。夜には打ち上げパーティーがあるんだっけ」

「そのパーティーなんだが、あなたとモカ様にも出席して欲しいと言われている」

「ええっ、そんな王宮のものに行けないわよ。マナーもなにも知らないし」

「打ち上げだから簡単なものだよ。正装である必要もないし」

「……まさか、ダンスとかないわよね?」


 人生においてダンスなんて子どもの頃以来したことないし、この世界でのダンスは私のイメージだと綺麗なドレスを着てくるくる回るようなものだ。絶対無理。


「今回はないな。王族、一部の貴族と騎士団員の家族や関係者が集まり、王族からの挨拶があって、飲み食いするだけだよ」

「それだけのことになぜ私たちが呼ばれるのよ」

「顔見せの意味もあるのだろう。あなたは嫌がる可能性が高いとは言ったんだがな」


 そこで小さく溜息をついたことを思うと、聞き入れてもらえなかったんだなということがわかる。


「仕方ないわね。じゃあその日はパックしたりして、多少マシになるように頑張っておくわ」

「あなたはじゅうぶん綺麗だよ」

「そんなこと言うのはあなたとモカだけです」

「俺とモカ様以外が言ったとなると調査が必要になるからそれでいいんだよ。その日のエスコートは俺がするから」

「いいの? パーティーとか嫌いでしょ」

「一人で行かせるわけにいかない。ほかに聞きたいことは?」

「次は聞きたいことじゃなくて、渡したいものがあるの。だからちょっと離して」


 腰に回っている腕をなんとか剥がしてからもう一度パジャマを着て、部屋を一旦出る。モカはリビングで爆睡なのかと思ったらいなかった。いないときは創造神様のところって言ってたから今日はそちらへ行っているようだ。


「これ。いつもお世話になっているお礼と、ネックレスのお礼です」


 首につけたままのネックレスを見せてから、用意していたものを渡す。アナの商会を通じて手に入れたオニキスのような黒い魔石をあしらったネックレス。モカの指導のもと私が、魔力の暴走を起こさないよう抑制できるようにと付与を施した特製品だ。


 彼はそれを見つめたまま、じっと動かなくなった。


「えーと、ピアスは既にしてるからネックレスにしたんだけど、こっちのほうが討伐中は邪魔になったりするのかな」


 持ったままの手を引っ込めようとしたら、バッと止められた。


「……信じられないくらい、嬉しい」


 よかった、と返そうとした。けれど、彼の笑顔を見た瞬間に、言葉は形を失った。

 少しだけはにかんだように口角を上げ、彼は宝物でも見るかのように、それをただ静かに見つめていた。


 彼は手元のネックレスをそっと手に取り、首にかける。指先で髪を払い、位置を確かめるように何度か触れる。その仕草が妙に色気がありドギマギしてしまう。


「……どう?」


 首を少し傾けて見せてくる。

 自分があげたものが付いているその綺麗な横顔に思わず見惚れる。


「……すごく、似合ってる」


 ようやく絞り出した声は、少しだけ震えていた。


「一生外さない」


 静かに怖いことを言う彼に、独占欲が刺激されて自分から彼に唇を寄せた。

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