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聖獣と自宅、異世界に着地  作者: 冬実 なぎさ
転移した先での出会い

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51話 目覚め、そして。

 


 しばらくすると、ディルクが戻ってきた。ベッドから降りてたら何か言われるかもと思って大人しく待っていて正解だったかも。ベッドにいるのを見て微かに頷いていたし。


「明日の昼頃に殿下たちがここへ来られるそうだ」

「私が行かなくていいの?」

「念のため明日一日もゆっくりするようにとのことだ。明後日には両陛下の呼び出しがある可能性がある」

「えっ、いいのに」

「そういうわけにもいかないだろう。俺がそばにいるよ」

「分かった、ありがとう」


 面倒だけれど、この国トップに関わってしまったのだから諦めて受け入れるしかないだろう。お世話になっている殿下のためでもある、この国にいる間は仕方ない。



 ◇◇◇◇



「一緒に眠る? 別のベッド用意するとかでなく?」


 その日の深夜遅く。もう私も目覚めたんだし、モカがいるから良いだろうと思っていたらまさかのあと数日は連泊する宣言だった。それに対して、目覚めた私はかなり困っている。


「あなたがいるのになぜそんな必要が?」

「私がいるから必要があるんだと思うんだけど」

「まだ完全に回復したわけじゃない。なにかあればすぐにでも譲渡できる」

「でもあなた、自分の家に全然帰れていないんじゃないの?」

「帰りたいほどの部屋でもない。こちらのほうがずっと良い。それに、あなたがモカ様がいないと眠れないように、俺もあなたがいないともう眠れそうにない」


 ボンッと顔が赤くなった気がする。顔を両手で覆い隠して下を向けば頭を撫でてくる。

 チラっと指の隙間から見上げれば蕩けそうな顔でこちらを見ていたからまた慌てて指を閉じる。


 甘い、甘すぎる!


「決まりだな」


 本人は、ニコニコと嬉しそうにしているからこれ以上なにも言えなくなり、モカの体に顔を埋めた。


 モカはもう眠いようでお気に入りベッドのあるリビングへ行くと出て行ってしまった。モカも寝不足なのだろう、申し訳ないことをした。

 結局、私はまだベッドから降りられていない。夕食時に降りようとしたら、五日も寝ていた反動なのかふらついてしまったのだ。そのせいで過保護なモカとさらにその上をいく過保護さをみせるディルクから動くことを禁止されてしまったのだ。でもそのあとに聖水飲んだからもう全然動けるんだけどな。


「トワ。これから先、誰になにを言われても絶対に信じないで欲しい」


 ヘッドボードに同じように並びながら、神妙な面持ちで話しだした。


「こないだみたいなこと?」

「ああ。きっとあなたはそういう人間からしたら邪魔だろうからあることないこと言ってくる可能性が今後もある」

「それなら、誰かさんが離してくれればいいのでは?」

「それだけは絶対にない。俺は、なにを手放してもあなただけは絶対に離さないと決めているから諦めてくれ」

「……本当に不思議なんだけど」

「なにが?」

「あなたになぜそんなに想ってもらえるのか謎でしかないわ」

「前にも言ったろ、ずっと伝えるから一緒にいればそのうち理解できるんじゃないか」


 彼は私の答えは求めずに私の肩口に頭を擦り付ける。


「ふふ、モカみたいね」


 彼の頭を撫でていると、モカに負けず劣らずの甘えたな大型犬のようだ。近づいてくる顔にそっと瞳を閉じると唇が重なる。離れていくのがさみしくてそれを追いかけるようにすれば、彼の躊躇いがなくなった。


「……どうする?」

「え?」


 耳元をくすぐるようにつぶやく彼に、すでに蕩けかけていた私の反応は鈍い。


「このまますれば魔力は全回復する」


 ……なるほど。それが一番早いのかと納得できるが、そんな理由でしたくはない。でもそろそろお互いが我慢できなくなってきているのも事実。だってこの人のこういうときの色気がものすごいんだもの!


「あなたの体が心配なのも本当だし、こういうことで抱きたくないのは俺も同じだが、俺はあなたが生きているということを感じたい」

「いまこうして一緒にいるのに?」

「足りない」

「……防音魔法かけてくれる? モカには気付かれるだろうけれど、たぶん許してくれるわ」

「少しでも辛かったら必ず言ってほしい」


 そう言って私に覆い被さってきた彼の首に腕を回す。

 私の体を気遣いながらもゆっくり魔力がゆき渡るように私の緊張を解きほぐしていく。


 何度も愛してると言ってくれて、これが愛されてるってことなんだって心から思えた夜だった。


 

 ◇◇◇◇


 

 ベッドが沈む感触と、頭を撫でられてる感触に目を軽く開ける。


「すまない、起こしたか」

「……もう、あさ……」


 起き上がろうにも起き上がれずうっすら目を開けるのが限界だった。


「まだ早朝だからこのまま寝ていていい。モカ様も一緒に部屋を出るから結界を張っていく」

「……ん……」


 撫でられているのが気持ち良くて、頬を寄せる。


「トワ、行きたくなくなるからいまそれはマズイ」

「おみ……おくり…………」

「ハァ……寝ぼけているとこんなに可愛いのか……」

「……モカ……は……」

「待ちくたびれているよ。朝食は一緒に食べよう。それまでは、このまま寝ていて」

「ん、……いってらっしゃ……い」

「ああ、いってくる」


 額に唇が落とされたが、起き上がれない。昨日のせいなのか、魔力のせいなのかはわからないけれど、ダメだ、もう少し寝よう……


 その二時間後、モカに叩き起こされた。モカは昨日のことは、良かったねとしか言わなかった。バレてることに恥ずかしさはあるけれど、バレないはずもないのでありがとうとだけ言っておいた。


 魔力がすっかり戻ったうえに聖水をがぶ飲みし、モカ特製めちゃくちゃまずいポーションを飲んだおかげで体調もすっかり良くなり、ベッドから降りることができた。それに対してなぜか残念そうなディルクだったけれど、モカからしばらく泊まると良いと言われ上機嫌になっていた。モカが言うには、一緒に生活することは私より、ディルクにとってのメリットが多いのだとか。つまりは魔王化防止対策の一環だということだ。そう言われれば私にも断ることはできない。二階の一部屋を早く彼用にしないとだ。


 部屋のことを彼に話すと、思った以上に喜んでくれた。私に何度もキスを繰り返すぐらいには。私の前以外だと普段の彼は表情がほぼ動かず冷たい雰囲気だけれど、実際はかなり表情豊かでわかりやすい。逆によくこれが隠れているなと思うほどだ。


「なに?」


 嬉々として二階の部屋の模様替えをする彼をじっと見ていると、その視線に気付いた彼が首を傾げる。その姿は横にいるモカとよく似ていた。


「ううん。2人がよく似ているなと思って」

「えー、ボクはこんな目つき悪くないよ。可愛いもん」

「ふふ、それ言っちゃダメなやつよ」

「それは俺の目つきが悪いと認めているようなものだが?」

「悪いというより、鋭い?」

「あまり変わらないだろう」


 くすくす笑いながら作業を続けていると、インターホンが鳴り響く。きっと殿下だろう。私とモカはリビングにいるよう言われ、ディルクが中へと連れてきてくれた。


「トワ嬢! もう起きていて大丈夫なのか?」


 殿下が大股で近づいてくる。殿下の顔はどう見ても疲れているから殿下こそ聖水がぶ飲みが必要そうだ。


「はい。皆さんにはご心配おかけしました」


 頭を下げると、むしろこちらが頭を下げるほうだと言われ、頭下げ合戦になる前に両成敗ということにした。


 あれから、王弟のせいでとばされていた王宮医師が復帰し、両陛下を診てくれているらしい。


「もう安心しても良さそうで良かったよ。王宮医師の彼もあなたには大いに感謝していたから、また色々届くかもしれない」


 私が眠っている間に大きく事は進み、王弟の企みはすべて公開され、関わっていた者も順に処分される。鉛は市場にも出回りだしていたためこちらは宰相さんと各騎士団が協力して回収をし、ストップさせていた。ちなみにディルクはその間もこの家から指示を出していたらしく、他の騎士団から苦情が出るようなことにはなっていなかったことに安心した。


 私とモカが、原因を突き止め解決したことも両陛下から発表されたのだとか。おかげで私とモカは王都でもヒーロー扱いで、特に以前モカが気に入って購入した燻製肉屋さんはボロ儲け状態なのだとか。


「君たちのおかげで様々なことが解決していく。本当にありがとう。両陛下からは特別褒賞がある。なにが良いか決めておくように」

「えっ、そんなこと言われましても……」

「私からもありますよ!」

「大神官長様からも?」

「はい。これは、ディルク団長への贈り物にもなりますがね。クィンとも相談してこれにしました」


 ディルクと並んで受け取ったそれはレザーに包まれたもので、広げてみると——


「婚姻承認書……?」


 は!? ディルクと目を見合わせてから大神官長様とクィンさんの二人を見た。その漏らした声に殿下たちも反応して二人を見ている。


「この世界では、結婚には神官の承認印が必ず必要になりますが、大神官長である私の承認印があるのはいまのところ両陛下とこれだけです」

「ええっ、そんなすごいものいただけませんよ!」


 くるくると回して戻そうとするとその手がパシッと押さえられる。もちろんディルクだ。それを満足そうに見た大神官長様が続ける。


「承認の保証欄のひとつは、侯爵家嫡男であるクィンが既に記入済です。もうひとつは殿下、お願いできませんか」


 殿下は自分が言われると思っていなかったのか、少し意外そうにしている。


「殿下はトワ様の後見人ですし、ディルク団長の上司です。これ以上の人選はないと思いますが?」


 ディルクは、無言でそのレザー用紙を殿下に渡すが、私は再度待ったをかける。


「あのっ、お気持ちは大変嬉しく思います。ですが、まだその結婚と言われるとこう色々追いついていなくてですね。結婚するなら彼だけど、今じゃないというか」


 おろおろとするが、伝わっているだろうか。嫌では決してないんだということが!


「トワ、これは俺たちの気持ち次第で出せる状態にあるだけでなにも今すぐ出せと言われているわけではない」

「……そうなの?」

「そうだ。だが、大神官長様の承認がある以上、この結婚が認められないということは絶対にない」

「そうですよ。それにこれは特別製なんです。お二人の関係にはモカ様が必須でしょう? ですから、この用紙全面にモカ様の魔力印手形を押すことでさらにお二人の結婚は強固なものとなります」

「押す!」


 待ってと言おうとしたのに、殿下はサインし終えてるし、モカは用紙にぺたっと肉球を押し付けてしまっていた。よく見ると、用紙一面に透明の肉球スタンプが見えた。可愛い。ってそうじゃないのよ!


「俺たちは確かに具体的に結婚の話をしたことはない。それは俺の問題が解決して、トワの気持ちが追い付いてからでいいと思ってるからだ。だが、あなたは今後、この国だけじゃない人間からも狙われる可能性がある。これはそれを防げる効果もあるんだ。だから、これはこのまま受け取りたい。ダメか?」


 そんな風に言われたらダメとは言いにくい。いつになるかはわからないけれど、結婚するなら絶対この人だし、この人だから一緒にいたい。


「……わかりました。大神官長様のお気持ち、有り難く頂戴します。ありがとうございます」


 わっとロキ君とロク君を筆頭にアナも拍手して喜んでくれているが、私たち本人の記入はまだ先だからね? 気が早い。


「このままトワ様が受け取らないって言ったらどうしようかと思いました」


 と大神官長様が悪戯っぽく笑うと「そうなれば受け取ると言うまでわからせるだけですけどね」とディルクが静かに返した。


 怪しく光るディルクの目に、受け取る選択してよかったと心底思った。

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