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聖獣と自宅、異世界に着地  作者: 冬実 なぎさ
転移した先での出会い

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47話 王と王妃②

 


 中へ入ると出迎えてくれたのが殿下と宰相様だった。宰相様はなんとあのミリア様のお父様らしい。ほぼ家に帰ることのない宰相様は娘がそんなことをしていることは全く知らず、大変申し訳ないと謝罪された。


 この件と先日の件は殿下が引き続き調査中らしく、その後に処分が下されるらしい。宰相自身は人の良さそうな感じだし、いなくなれば仕事が回らなくなるだろうからどんな処分になるかは殿下次第って感じかな。


 案内されたここは王様と王妃様の寝室。王様と王妃様は病に臥せっているらしく、治療のために分けたというベッドがふたつ並んでいた。

 部屋を分けなかったのは、せめて最後は一緒にとのことらしいが、そんなにも深刻なのだろうか。


 部屋に入ると、あまり嗅いだことのない匂いがしていた。薬品かなにかだろうか。中には、王宮の専門医だという医者と若い女性がいた。年齢は、この世界はわかりにくすぎるけど、男性のほうは六十代ぐらいだろうか。


 ベッド間際まで来たけど、そこへ来るまでその若い女性にものすごく見られていた。殿下はその視線を感じ取り、二人に一旦外へ出るよう告げる。二人は渋々と出ていく。


 モカはその間もひと言も話さずにずっとクンクンと匂いを確認している。


「父上、母上。来ていただきましたよ。異世界から召喚されたトワ嬢と聖獣モカ様です」


 ゆっくりと目を開いた王と王妃は、調子が良いと聞いていたのに、実際は思ったより重かった。小さく力ない言葉だったが「申し訳なかった」とこれまでのことを謝罪された。


 殿下の話では、数年前から常にイライラしていることが増え、呂律が回らなくなったり、徐々に弱っていき、今こうして寝たきりなんだとか。


 先程の医者だけでなく、様々な療法を試してみたがどれも効果はなく、お手上げ状態。

 殿下は二人同時だからなにか共通点があるのではと考えられたそうだが、そこまで両親の事も知らないし、医者から共通点がないと言われれば信じるしかなかったと。


『でも、やっぱりおかしいよね?』


 私はこっそりモカに念話を送る。


『うん。ゲイルとクィンに表の二人は捕縛してもらう準備をしておいてもらったほうが良いと思う』


 私は、少し離れますと殿下に伝えてからそのことを団長さんに伝える。表には近衛団の人もいるから、逃げ道さえ防げればなんとかなるだろう。


「間違いないのか?」

「モカも怪しんでるし、ほぼ黒だと思います。これから確認をしていくので逃げられないようにだけ注意しておいてほしいです」

「トワ嬢とモカ様を信じる。外に出ているから、黒なら扉を1回ノックしてくれ」

「わかりました。お願いします」


 モカと頷き合ってから殿下へと問いかけた。だいたいの目星は付いている。


「殿下、お二人は同時期に症状が出始めたのですよね?」

「ああ。確か原因がわからず、徐々に倦怠感が強くなり、しびれ、食欲不振などの症状が増えていったと聞いている。そこから良くなることはなかった」

「お二人は、毎日一緒に食事を取られ、同じものを食べられていましたか?」

「公務で離れているとき以外はそうだ。仲は良いからな。ただこの2、3年は、公務にも出られていない」

「そうですか……」

「なんだ? なにかあるのか? 気になることがあるならなんでも聞いてくれ!」


 いつも冷静でどこか浮世離れしたような殿下が、私の肩を揺らす。顔を顰めると、すまないといって離してくれたが、近くにあったソファに座り込まれた。


「……私と両親とは、世間の親子関係とは違う。王と王妃とその長男、第一王子で王太子という関係性のほうが深く長い。皆は私を完璧な王子だと言うが、私は望んでそうなったわけではない。何度もただの親子であったら、ただの家族であったなら、と考えた。熱を出せば両親が見舞いに来てくれるだろうか、私が見舞いに行けば喜んでくれるだろうかと思ったが、ここではそんな思いは無駄としか思われない」


 ぐっと両手を強く額に当てながら話す殿下は、今までの殿下よりずっと人間味があった。モカも心配になったのか、殿下の隣に座り込む。殿下の気持ちは私にも少しわかる。私は長女で、両親は公平に扱おうとしてくれていたけど、やはり弟妹が熱を出せばそちらが優先されてきた。でも弟妹が嫌いとかは絶対ないし、仲も良い。でも、両親からの愛情というものはまた別物だと思う。


「だけど、一応は私の両親だ。助けられるなら当然助けたいと思っている。もし、なにか思い当たることがあるなら教えて欲しい。頼む」


 殿下は、下を向いたまま懇願するように両手を握り締める。私はその両手に自分の両手を重ね、殿下の目線に合うように座り込んだ。


「もしかしたら、大きな事件になるかもしれません。今まで以上に、超激務になるかもしれません。寝る暇なんてなくなるかもしれません。それでも、今、知りたいですか?」


 今、を強調して問う。


「王と王妃の政務をこなしながら王子の実務をしているのはどこの誰だと?」


 ぎゅっと握り返された手に顔をあげれば、いつもの殿下の顔だった。


「わかりました。では、申し上げます——

 お2人は、俗に言う鉛中毒です。ワインと古い金属の杯で、有害成分が溶けている可能性があります」


 そう断言した。


「鉛中毒……?」


 殿下ですら知らないのだからこの世界ではまだ鉛中毒のことが知られていないのだろう。私の拙い説明で申し訳ないが、質問したりされたりしながらなんとか理解してもらえるよう説明出来ることは全てする。


 ベッド近くのサイドテーブルには、ほのかに甘ったるい匂いのするワインが置かれていた。注がれている杯は銀に似た色をしているのに、少し曇っていて光を弾かない。それがまず気になった。手に取ると、見た目以上に重く、縁には小さな歪みが残っている。

 甘いものが好きな王様と王妃様は、そのワインを毎日飲んでおり、寝たきりになってからも薬として飲んでいた。


 そのうえで、モカに鑑定をお願いしたのだ。


『二人とも〈鉛中毒:重症〉だね。原因はそのワインと銀杯だ。きっと王弟の仕業だね』


 モカはそこまで見抜いていた。本当はもっと詳しく言えるらしいけど、そこは神様譲りの気紛れなのか、自分の仕事ではないからとあえて説明する気はないようだ。


「で、では、2人は治るのか……?」

「すぐにこのワインの流通をとめ、お2人にこの杯を使うのもやめてもらってください。特別な物だろうとそんなものより、体のほうが大事です。甘味の代わりの鉛もすべて停止してください」

「わかった。宰相、頼んでもいいか」

「もちろんです。御前失礼します」


 宰相様はそれだけ言ってサッと部屋から出ていく。家族はダメだけれど、殿下がこれだけ頼りすぐに動けるんだからすごい方なんだなと思う。


「私は他には何をすればいい?」

「まず、殿下が治療できる魔術師を連れてくるか、モカにお願いするかで変わりますが、モカであればきっと翌日には動けますよ」

「本当に……?」

「君がどうしたいかだよ。でも君にはお世話になっているから治療してあげてもいいよ」

「モカ様にお願いしても?」

「わかった。特別手当待ってるね」


 モカがそう返事すると、殿下は安堵したような笑みを浮かべ頷いた。


 私はもう一度、殿下の前に座り込んでから、少し躊躇いながらも殿下の頭を抱えそっと撫でる。一瞬ビクッとなった殿下だったが、強いぐらいの力で抱きしめ返された。


「ありがとう」


 小さく震える声。

 でも確実にその声は私とモカに伝わった。

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