46話 王と王妃①
昨日のことがあったからか、殿下から別宮の応接室を使うようにと朝から通達があった。ベーベル商会との打ち合わせ後は別件があるからゲイル団長が迎えに来るまで待つようにとも。なんだろ、別件って。
ベーベル商会から来られたのは、ちょうど王都へ来られていた商会長でもあるアナのお父様と、王都の支店長であるお兄様だった。お兄様とアナはよく似ていて、物腰の柔らかそうな美青年だった。お父様は穏やかで優しそうな人だけれど、殿下の別宮に案内されたことでお二人ともかなり緊張されていた。それから驚くことにこのお二人は中庭の私たちの家が見えていた。私とモカはそれを素直に喜びそう伝えると、恐縮してしまった。
商品は、孤児院に贈ったものとほぼ同じラインナップをお見せした。なぜ同じものしか渡さないのかって?
全部、瘴気の土地の発展のため。私自身の引き出しがそんなに多くはないからね、出し惜しみぐらいがちょうど良いの。
どれも気に入ってくれたけれど、いまの在庫の状況のこともあるし、とりあえずお試し三十個からスタートすることにした。お二人は最初からどかっとまとめ買いしたかったみたいなんだけれど、売れるかどうかわからないから負の財産を持たないためと納得してもらった。
貰いすぎだと言ったのだけれど、私には三割が振り込まれることになった。そのかわりベーベル商会には優先権を与えることで契約終了!
で、またこいつよ、白に金のこの身分証明カード! これを見せたらお二人が固まった。今後のことを思ってこっちのカードにしたんだけれど、この反応、つい先日も記憶にある——
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「トワ、屋台でなくてどこか店で買い物の練習をしてみたらどうだ?」
王都へ出かけた際、事前に買い物を自分でしたいと言っていたのにすべての支払いを済ませてしまう男が目の前にいるせいで私のせっかくもらった賠償金入りカードの出番が一度もなかった。そこで、私がこのカードで屋台の謎の水色の飲み物を買うと言いだしたら彼が必死にとめ出した。
「いますぐ手を離してくれないと二度と繋がない」
そう言うとやっと手を離してくれた。が、後ろにはモカと並んでピタリとくっついている。屋台のおじさんがかなり緊張してしまった。なんとか商品の注文をできたところで白地に金色のカードを出した瞬間、そのおじさんだけでなく心配で様子を見ていた隣の屋台のおじさんおばさんまでビシっと固まってしまった。
「え、もしかして、これ、使えない……?」
その時、ハァと溜息が背後から聞こえた。
「店主、ここに代金置いておくからな。トワ、行くぞ」
お店の人たち同様、まだ理解不能な私を近くにあったベンチに座らせ、ドリンクを持たせてくれる。
「このカードは持っている人間が限られているものだ。世間では見ることはほぼないだろう」
「で、でもこれにお金が入ってるって殿下が」
「それは間違いないんだが……この白地に金色の模様でなにか思い出すものはないか?」
ディルクなりに私がこれ以上傷つかないように自分で答えを出すように導いてくれているんだろう。モカは気づいているのか、謎ドリンクに顔を突っ込んでいる。
「白地に金色……白、金…………リオレス殿下の服!」
そうだ、あの人はデザインは違えどいつも真っ白なジャケットに金色の蔦のような模様が入った衣装を着用している。顔が良すぎて衣装まで目がいってなかったのが悪い。カードを貰った段階で気づかない私も問題なのは問題だ。
「そうだ。これは王族だけが持つ身分証明だ。屋台で出すような代物ではない」
「……あっんの腹黒殿下っ! 帰ったら抗議してやるっ」
実際に戻ってから抗議しにいったら、もの凄く笑われた。高級品店でなにか買うだろうと思っていたらしい。まさか屋台で出すとはと爆笑だった、失礼すぎる。猛抗議の結果、このカードは持っているに越したことはないらしくそのまま持つことになったけれど、平民が持てる若草色のカードに半分ぐらいお金を移したものがもらえた。そんなものがあるなら最初から出してくれていればよかったのに!
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普段の買い物だけでなく、契約のときなんかはこちらを出すようにと殿下から言われたから出したのに、あの反応。もうこれからはこのカードは、私のバッグの奥底で眠ってもらおう。
ベーベル商会のお二人が帰られたあと、入れ違うようにゲイル団長がやってきた。今日もかっこいいと思ったのがバレたのか、アナからこそっとニヤけてますよと言われてしまった。ディルクがいなくて良かった。
そのディルクのことでゲイル団長からお礼を言われてしまった。なんのことだろうと思ったのだが、ディルクは元々不眠症気味だが最近眠れるようになり魔力循環もうまくいっていることや雰囲気が明るくなり楽しそうなこと、なによりディルクが大切にできる人になってくれてありがとうと言われ、少し涙ぐみかけた。
よくディルクのことを分かっているんだなと思ったら、騎士科の時から面倒を見ていたらしい。騎士になってから三年はゲイル団長が直接、面倒見られていたんだって。言わばお師匠様だ。近々、部隊編成があるからディルクも移動になるかもしれないからそうなればとても忙しくなるからいまのうちにディルクを癒してやってほしいとも頼まれた。こちらからいつでも来ていいなんて言うと自分の家に帰りそうにないんだよな、あの人。
どうしようかなと考えていると今日これからの予定を言われて仰天した。いま私たちが向かっているのはなんと王様と王妃様のところだった。聞いていないと抗議したが殿下からの命令でもあるが、元は王様と王妃様からの呼び出しだから断われないんだって。
王様と王妃様なんて日本にいて会うことなんてまずないし、どうすれば!?
「おや、トワ様にモカ様」
白亜の王宮の回廊をずんずんと奥へ進んでいくとゲイル団長が一際大きな扉の前で立ち止まる。
「大神官長様とクィンさん!」
「中には宰相殿もいるはずですよ」
「えっ、そんなお偉い方と国のトップの方に会うのに、私はいつも通りの格好だし、礼儀とか何もわからないんですけど!?」
「殿下からは公式の場ではないから楽で良いと伝言を預かっておりますのでそう緊張なさらずとも問題ありませんよ」
ゲイル団長様は励ますように明るく簡単に言ってくれるが、一般庶民にそれは無理というものでは?
『ママ』
『モカ?』
『この中、事件のにおいがする』
『どこかで聞いたことのあるセリフ!』
重厚な扉がそっと音も立てずに開かれた。




