44話 孤児院
第二騎士団が旅立って早三日。
「トワ様、孤児院に到着しましたよ」
アナの呼びかけに外の景色を見た。今日は、食料を届けに孤児院を回っている最中で二件目のここが最後。一日で回れるということで朝から出かけていたのだ。私とモカとアナとゲイル団長さんとで馬車一台、大神官長様とクィンさんで馬車一台、荷馬車一台の組み合わせだ。
荷馬車が一台で済んだのは、私がコンテナのひとつをアイテムボックス化したことが原因なのだけれど、それを殿下から買い取らせて欲しいと懇願された。もう私とモカに関しては何でもありという考えになっているらしい。確かにそれも間違いではない気もする。
「わざわざお越しくださいましてありがとうございます」
孤児院前に子どもたちと一緒に一列に並んだシスターが、こちらへと案内してくれる。子どもたちが興味津々なのはモカに対してだ。そんな子どもたちの相手をしてあげたいモカをアナが見てくれることになり、私たちは一通り挨拶を済ませた。ゲイル団長がせっせと荷解きをしてくれるから助かる。
「まぁまぁまぁ!」
「こんなにたくさん!」
「真新しいお洋服まで!」
「おもちゃやぬいぐるみまで!」
食料だけでなく、ルームフレグランスやサシェ、傷薬。それに、殿下は鑑定ができるから下級でないことは分かっているはずだけれど、特別許可をくれた下級ポーション。
子どもたちの年齢も聞いて、お手頃価格で有名な某子ども服のようなお店が通販にあることがわかり、いろいろ大量買いしたものを用意した。シスターには、エプロンやハンドクリームをプレゼントしたら、ものすごく喜ばれた。ストック分も用意しておいてよかった。
王都近郊の孤児院は二件とも、殿下がテコ入れしただけあって思っていたよりも清潔に保たれていた。シスターも感じのよい人が多く、子どもたちは時々照れ屋さんな子やツンケンした子もいたが、問題は起こらず、無事にやり遂げることができた。
◇◇◇◇
「自己満足かもしれないけど、やってよかったです!」
「なにをおっしゃいますか。とても喜ばれていましたよ。これだけ気を遣っていただいたのは初めてだと」
「護衛である僕にまでなぜかお礼言われましたからね」
「私も荷解きしかしていないのに言われましたね」
「それほどか。感謝する」
王宮に戻った後、まずは殿下へのご報告となった。
「モカ様と別れる際に泣いている子もいましたからね」
「みんな、いい子たちだったよ!」
「聖獣様であるのに、このようなことにもお付き合いいただき感謝いたします」
「どういたしまして!」
「フフ、今日のモカはご機嫌だね」
「トワ嬢もありがとう。明日もまた忙しいのだから早く休むといい」
「はい、ありがとうございます。お先に失礼します」
「またね!」
◇◇◇◇
永遠たちが部屋を辞した後、リオレスが呆れたように息を吐いた。
「さて、ディルクからものすごいクレームが届いているが?」
「僕もディルクから聞きましたが、あの娘たちは勘違いも甚だしい。それ以外にも女性騎士や貴族令嬢、侍女なんかがトワさんとモカ様のあることないこと噂していますね。特にトワさんに関するものはひどいものでした」
「宰相殿はそのことはご存知なのですか?」
「ああ。ディルクは全くその娘を覚えていなかったのだが、娘自身から話を聞いた宰相が私のもとに血相を変えてきたよ。あの人はいまだ会えていないからな」
「それも神の思し召しでしょう。ディルク団長はトワ様とのことを隠そうともされませんから、今後も続くかも知れませんね」
「さっさと結婚すればと言ったのですが、彼女の国のペースに合わせるのだと聞いています。それまでどれだけの人間が彼女たちに絡むのか想像もつきません」
「本人は護衛を嫌がるし、難しいところだ」
「でも実際は多くの護衛が付いているのでしょう?」
マルセウスに尋ねられたリオレスは苦笑いを浮かべながら肩をすくめた。
「それは、王家として当然のことだ。モカ様は気付いていらっしゃるだろうが、トワ嬢には話していないみたいだ。だが、物理的なことは防げる可能性が高いが、精神的なこととなるとさらに難しい」
「こんなつまらないことで失うわけにはいかない方々ですから、神殿としても注視しておきましょう」
「ああ、頼んだ。明日はベーベル商会が来ると聞いている。その後はうちの両親にも会ってもらう予定だ」
「陛下はお会いできる状態なのですか?」
「昨日今日と調子が良いらしくてな、ぜひ会いたいんだと」
「それは、お2人も知っておられるのですか?」
「いや、言っていない。商会との打ち合わせはこの近くの部屋だし、ゲイル団長に迎えに行かせてそのまま連れて行く」
「それなら、我々も同行させてください」
「大神官長が?」
「トワ様は創造神様と聖獣の加護の持ち主。もしかしたら両陛下の不調の原因を突き止められるかもしれません。その際の証人は多いほうがよろしいでしょう」
「なるほどな。宰相も連れていこう」
「殿下、面白がっているとディルクに怒られますよ……」
そう言って溜息をつくクィンをよそに、リオレスは楽しそうに首をすくめた。
こうして男たちの密談は終わりを迎えたが、その後、彼らの想像を遥かに超える出来事が待ち受けているのだった。




