42話 カツ=勝つ
「「いっただきまーす!」」
「いただきます」
元気よくそう言ったのはロキ君とロク君で、少し遅れてアナが続いた。いただきますの挨拶は、初めて一緒にご飯を食べた時に理由を教えたら、それ以来ずっと続けてくれているのだ。こういう気遣いは素直に嬉しい。
「うっま! さっくさくしてます!」
「肉柔らかっ!」
わかりやすく感想を言ってくれる二人とは違い、ゆっくり味わうのがアナ。ディルクとモカは目を見開いたあと黙々と食べるのが常だ。
「めちゃくちゃうまいんですけど、なんていう料理なんですか?」
「よくぞ聞いてくれました! これは、とんかつと言います!」
その質問を待ってたとばかりに私は張り切って答えた。明日からの無事と勝利を祈って、験担ぎなのだと。勝つ=カツという単純構造だけれど、美味しいし、食べ盛り男子にも問題ないだろう。とんかつ、ヒレかつをアナと一緒に作ったのだ。アナは料理には慣れていないみたいで、その様子が微笑ましかった。ちなみにその間、モカとディルクは孤児院へのセット作りしてくれていたよ。
「このとんかつにはほかの食べ方もあるから、いつか作るね」
「マジっすか! トワさんと結婚できる人が羨ましいです!」
「俺だな」
「そうだ、団長じゃん! てことは、団長の家に行けば食べられるな」
え、そこ決定済なの? なんにもそういう具体的なお話はまだだからね? 私の困惑をよそに話は進んでいく。
「来るな。自分で作れ」
「いやいや、自分で作ったら焦げたものしかできる自信がないので無理です」
「騎士団の人たちは普段は寄宿舎の食堂で食べるんでしょ? 遠征の食事ってどんなものなの?」
「干し肉やトワのと比べたら天と地の差がある堅いパン」
「味のしない葉入りのスープ」
「焼いただけの魔物肉」
「え、それ本気?」
「本気です。1か月とかになると帰ってくる頃には痩せているときのほうが多いです」
「筋肉も落ちるから戻すの大変なんですよー」
「えっ、それは」
ダメだと言いかけて、にやりとしているディルクと目が合う。筋肉好きがバレてしまっている以上、私の反応が面白いのかもしれない。
「筋肉にはっ、鶏肉! 卵! ブロッコリー!」
ロキ君とロク君は一見スリムだけれど、こないだ見えてしまったがかなり引き締まっていた。ディルクは着痩せするタイプだが、しっかりと盛り上がりのある筋肉だ。これら素晴らしい筋肉が減るなんて許せないわ。
「トワ様、ぶろっこりぃとはなんでしょうか」
「えっ、ないの? こう緑色の」
といって、リビングからメモとペンを取ってきて書いて見せる。特別下手とかではないはずなのに伝わらない。
「鶏肉と卵はさすがにあるわよね?」
「魔物だがな」
「えっ!」
「この世界の肉は、圧倒的に魔物が多いんですよ。なんなら野菜にも魔物いますからね」
「は!?」
「ママはそういったこと興味なくて勉強してなかったからね」
「それは私も失念しておりました。今度の授業ではお教えするようにしますね」
アナが申し訳なさそうに謝るが、それは日々の生活のことなのに聞いていなかった私が悪い。
「いや、でも団長が教えてあげていたらよかったんじゃないんですか?」
「知っていると思っていた」
「初耳ですが!? なに、野菜の魔物って!」
「野菜のそっくりさんって言うんですかね。野菜の振りして手を伸ばした瞬間やられますんで気をつけてくださいね。なんでもかんでも触ったらダメですからね?」
私は子どもか!
「彼女がそういった場所に行く際は必ずモカ様か俺が側にいる。危険な目に遭うことはないだろうが……そうだな、用心するに越したことはない」
「なにいまの間! なんで私こんなに信用ないの?」
「ママは、時々すごい抜けてるからねぇ」
「モカ様、それは……」
皆、うんうんと頷いているのはなぜだ。そんな姿をさらした記憶はないのに。記憶がないということはやらかしているのが普段通りともとれる、のか?
「トワ様はそういったところがお可愛らしいと思いますので、私としてはそのままでいてくださったほうが嬉しいです」
ありがとう、アナ。フォローになっているのかはよく分からないけれど、気持ちはいただいたわ。
「それにしても、めっちゃ食った!」
「トワさん、俺らが食器洗ったり片付けするんでゆっくりしててくださいね」
「え、でも」
「使い方はもう覚えましたから大丈夫ですよ!」
「任せておいたらいい。なにか彼らに渡すものがあったんだろう? それを持ってきたらどうだ?」
「そうだね。ありがとう。ちょっと待っててね」
◇◇◇◇
「団長、トワさんのこと落としたんですね」
「オレ、その顔使って初日には落とせるんじゃないのかと思ってました」
「目を合わせようとしないから多少強引にいった」
「強引な自覚はあったんですね」
「強引ではあるが、卑怯な手は使ってはいないぞ。モカ様がいらっしゃる手前、下手なことはできない」
「どちらかというとボクはディルクを助けたほうだけどね」
「モカ様は賛成なんですね」
「そうだよ。ママは今までの彼氏とは長く続いたことがないんだって。だから今回は長くなるといいなと思ってる」
「モカ様、今回は、ではなく、俺で最後です」
「すぐに結婚するんですか? 団長の結婚なんて国中大騒ぎになってしまいますよ」
「俺はいつでも構わないが、彼女の気持ちが大事だからな。彼女の世界で一番多いのは、告白して数か月から数年の恋人期間を経てから求婚、婚約して結婚らしい」
「へぇー、貴族だと先に婚約ですからずいぶんと違いますね。平民でも最近はすぐ結婚するって聞きますし」
「いまはまだ俺が貴族だから彼女が狙われる可能性がある。悪いが、俺がいないときは彼女の周りには目を配っていてほしい」
「もちろんです!」
「オレらはトワさんのこと姐さんのように思ってますからね。守りますよ」
「ああ、頼んだ」
「「頼まれました!!」」
◇◇◇◇
「お待たせ! はい、これ」
作業部屋から戻り、テーブルの上に渡したいものを置く。
「これは?」
遠征に行くと聞いてから、タブレットにあるかなと思ったらあった御守り袋。中には何も入っていないそれに、防御と結界の加護を私とモカで付与した鉱石を入れたものを三つ用意した。
「私たちがいた国では、神殿ではなく神社仏閣っていうのがあってね。そこにある人の願いを象った御守りっていうものなの。例えば、事故に遭いませんようにとか良縁に恵まれますようにとかね。それの私とモカ版」
ロク君が開けようとしたのを慌てて制する。
「中を開けるのは良くないの。もしバラバラになったとか破れたとかになれば持って来て欲しい」
「ボクとママの加護だから、この3つのお守りは国中のどんなものよりも強固だよ!」
「そんな良いものいただいていいんですか」
「当たり前じゃない。ロキ君とロク君にも怪我ひとつなく無事に帰ってきて欲しいと思ってるよ」
「ありがとうございます! 大事にします!」
「邪魔にならなければポケットに入れるとかしてくれてるほうが加護が出やすいかもしれない」
「そうなんですね、分かりました。紐付けて首から下げようかな」
「あ、それなら革紐あるよ。チェーンだとおかしいだろうからこれなんかどうだろ」
こんなこともあろうかと数本準備しておいて良かった。革紐を渡すと早速三人がそれぞれ長さを調整しながら通していく。その間にアナにもお守りを渡す。
「私にもあるのですか?」
「もちろん。アナはめちゃくちゃ可愛いから変な男性に付きまとわれないように願ってあるからね」
「いえ、そんなことは……」
「ある! だからこれもポケットとかバッグとかに付けてくれてると嬉しいな」
「はい、ありがとうございます。大事にします」
ぎゅっと握り締めて嬉しそうに微笑むアナは今日も可愛い。なぜだ、なぜこんなに可愛いのに恋人がいないんだ。これが高嶺の花というやつなのか。
「あ、そうだ。これも3人に」
危ない危ない、忘れるところだったわ。三本の瓶を入れた小さな段ボールをそれぞれ渡す。
「これは?」
「私からのお裾分けのポーション。殿下に許可取ってないから秘密だよ。ラベルに下級・中級・上級って書いてあるからこれもお守りの一種としてマジックバッグに入れておいてくれると嬉しいな」
これはうちの庭特製品だから、鑑定結果はそれぞれ本来より一段階上でどれも最高品質となっている。あえてそれは言わないけれど、ディルクならわかっているだろう。
「あ、あとディルクはちょっと残って」
彼は怪訝そうにしながらもわかったと言って、皆を送り出した。ロキ君とロク君がちゃんとアナを送り届けてくれるつもりのようだから安心だ。




