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聖獣と自宅、異世界に着地  作者: 冬実 なぎさ
転移した先での出会い

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40話 告白②

 


 完全に泣きやめたのは、それから十分近くは経っていたように思う。服も濡らしてしまった。


「お恥ずかしいところをお見せしました、ごめん。服もごめん」

「いや。ほら、これで元通りだ。それより、なにか飲む?」

「水分とるとまた出てきそうだからいまはやめとく」


 自分と私に詠唱するわけでもなく、ドライ魔法をさっとかける。魔法をいとも簡単にこの人は使う。


「もう心配事はない?」


 他のスキルのことは勝手に言うわけにもいかないから、とりあえず後回しでも問題ないだろう。一緒にいるいない関係なく、特に影響ないはず。名前はなんとなくだけど、まだ言わないほうがいいかもしれない。


「ああ、でも、隠しごとはあるか」


 私が返事を躊躇っているとそんな言葉が聞こえた。

 がばっと涙を拭いていたティッシュから顔をあげる。これではあると言っているようなものだけれど。


「この部屋は常に魔力が充満している。家や通販のことも関係しているだろうけど、今回のこととは関係ない?」

「たぶん」

「それなら、あなたが話したい時に話してくれればいいよ」

「怒らないのね」

「あなたが距離を取っていた理由に関係あるなら、なんとしてでも聞き出すけど、そうじゃないなら構わない。それに、魔力が関わっているならモカ様だって関わっているんだろ。モカ様が関わっているなら安全でもある」

「モカへの信頼が凄い」

「聖獣だぞ? あなたには家族だったかも知れないが、我々からしたらそうではない」


 ペットと言わずに家族と言ってくれることが嬉しい。


「それなら、国を出ることも許してくれる?」

「じゃぁ、そのさん付けをいい加減やめてほしい」

「……ディルク?」


 痛々しいとは思ったが、少し上目遣いに挑戦してみた。彼は声にならない声を出したあと、溜息をつく。


「仕方がない。本当は行かせたくないが、モカ様に免じて許そう。その代わり、必ず俺の元へ戻ること」

「ハァ、困った人ね。まさか異世界にきてこんなことになるとは思ってもみなかったわ」

「俺もまさか片時も離れたくない女性と出会うなんて夢にも思わなかったな」

「そんなのは若いうちだけよ。年とっておばあちゃんになっても一緒にいてくれるの?」

「当たり前だろ。生涯、あなたと離れることはない。モカ様もだな」

「あなたは私がモカに甘いことを知ってうまくついてくるわよね」

「利用できるものはなんでも利用する主義なんだ。それで? 誓ってくれるのか」


 両手を私の頬に添えて、顔を少し上に向かせる。


「誓わないとどうにかなっちゃいそうだもの」

「そうだな。あなたがいないと俺の魔力が暴走して、この国を吹き飛ばしかねない」

「すごい脅し文句」

「さぁ、早く答えて」

「……例え離れたとしても、あなたに会いに戻ってきます」

「愛してる」

「私も」


 パァッ


 唇が重なった瞬間、ネックレスの石が突然光りだす。


「眩しっ。え、なに!?」

「これが反応したんだな」


 ニヤっとしてるのがわかる。


「ちょっと、なにか罠とかあったんでしょう!?」

「そんなもの用意するわけないだろ」

「今思えばこの石に対するモカの反応はドン引きだったのよ! 魔除けって言ってたけど、いまのですべてが疑わしいわ」

「モカ様だってもらっておけって言ってただろ。いまのだって俺たちを祝福してくれただけだよ」

「祝福? 呪いとかじゃないでしょうね?」

「あなたとなら呪いでも構わないけど」

「いいわけないでしょっ!」


 彼は笑いながら私を抱きしめる。ようやく安心してくれたのか、あの瞳も元の綺麗な色に戻っている。


「やっと戻った」

「ん?」

「あなたの瞳の色よ。綺麗な青紫だったのに、さっきまで澱んでいたのよ」

「自分ではわからないな」

「だから相当怒ってるんだなと思ったの。せっかくの綺麗な瞳なんだからもうやめてよね」

「それならあなたは俺を怒らせないようにしないとな?」

「私たちはお互い短気なようだからそれは無理ね」

「喧嘩はしたくないな」

「それならあなたも私を怒らせないでね?」


 ソファから降りた彼は、その足の間に私をひょいとずらして座らせる。以前、気に入ったと言っていた体勢だ。いつも軽く持ち上げられるけど、その筋力はどうなっているんだ。


「これからはなんでも話してほしい」

「討伐だけでなく、忙しくなるんでしょ」

「たしかにゆっくりした時間は限られるな。自由時間は少なくなるからできる限りここに来たい」

「私が一緒だとぐっすり眠れないでしょ」

「それは、どっちの意味で?」


 また唇が深く塞がれる。この人、キス好きなのかな。隙あらばしてくるもんな。


「……考え事とはずいぶん余裕だな?」

「……っ……ぅん……!」


 ようやく離されて大きく息をつく。本人は平気そうなのが腹立つ。


「これ以上するとさすがに理性が持ちそうにないな……」

「ねぇ、その、こっちの女性はすごくスタイルいいでしょ? 私は正直凹凸ないし、あなたを満足させられるかどうか……」

「他人はどうでもいいし、あなたがあなたであれば俺はいいんだ。俺が心配なのは体のほうだよ。その」


 彼は言いにくそうに淀んだけれど、聞きたいことはわかる。そういうことして問題ないのかどうかだろう。


「もう半年経ってるから大丈夫だったはず。久しぶりだし、少し怖いけれど」

「そういう大事なことは先に言ってくれ。あなたの体に無理があることは絶対にしたくないから今日はしない」

「強引なんだか優しいんだかわからなくなるわ」

「両方ともあなただけにだな」

「……私の家族が見たら驚くわね」

「なにを?」

「モカも言ってた、ママがディルクを連れてきたら騙されてるんじゃないかって言うと思うって」

「そんなにも好みと違うのか」


 わかりやすくむすっとした声がする。


「こんなに綺麗な人を連れて来たらみんな疑うものじゃないかな」

「好みではないのに綺麗だとは思うんだな」

「好みとかそんなの凌駕してる美しさでしょ! 私が何回心の中で死にかけたか!」

「それは顔を逸らしたり、隠したりしていたときのこと?」

「そうよ! お姫様抱っこなんて恥ずかし死するかと思ったわ!」

「俺は全部可愛いと思っていたけどな」

「そういうところだからね? 私、あなたが女性嫌いって聞くまでずっと手慣れてる思ってたからね?」

「は?」

「そりゃ初日からあんな感じで来られたらそう思うわよ。聞かなければ今でも思ってたと思う」

「ちなみに、誰から聞いたんだ?」

「団長さん。街に行くなら騒ぎになるかもしれないから気をつけろって」

「なるほどな」

「殿下にも王都なのに知らないだろって言われてたから、自分が住んでるのになんで知らないんだって思ってたけど、そういうことかってやっと納得できたの」

「明日の王都は、俺にもわかるところだから問題ない」

「明日は阿鼻叫喚の中を歩くことになるのか」

「守るよ」

「あなたが原因ですけどね?」

「あなたの隣は俺しかいないからそれは諦めてもらうしかないな」

「ハァ……ふぁあ。泣いたせいかすっごく眠くなってきた」


 背後にある彼の胸板にもたれながらあくびをすると、首元に彼の顔が乗せられた。


「このまま一緒に寝よう」

「絶対別の方がいいと思うけど。蹴ったり殴ったりしてたでしょ? モカにはよく絞めすぎって言われるし」

「騎士なんだからそれぐらい慣れてる」

「ということは、やっぱりしてたのね」

「絞めすぎなほど強く抱きしめられるのなら大歓迎だ」

「ほわほわなモカだから抱きしめて眠るの」

「筋肉が好きなんだろ?」

「うぐっ」

「良かったな。これからは好きなだけ触り放題だ」


 コンコンコンッ


 ドアではなく、私たちの周りから突然音が鳴る。


「ママー、もう帰っていい!?」


 姿は見えないけど、モカだ。


「いいよー!」


 モカにこの体勢を見られるのは恥ずかしいからと離すよう頼んだけれど、拘束は強くなるだけだった。なんとかはがそうとしている間に、モカが消えた時と同じように尻尾をファサッとさせてソファ前に降り立った。


「ママ! ごめんね!」

「先に言われたら怒れないんだけど?」

「だってあのままじゃママは言わない選択してたでしょ」

「そうだけど」

「モカ様、ご心配おかけしました」

「本当だよ! あんな瞳見たら危ないだけだからね!?」

「自分ではよくわかっていないのですが、気をつけます」

「君が怒るとしたらママのことだろうけど、何かあっても自分ひとりで解決しようとしないこと、ボクに必ず言うこと。これが守れないなら会わせないよ」

「わかりました。お約束します」


 モカが一番大人な気がする。


「ママも、女の子はちょっとは素直にならないとダメなんだよってキリ姉が観てたアニメで言ってたよ!」


 綺羅花、あんたはなんてものをモカに観せてたの。


「それは一理ありますね」

「はい、以後気をつけます」


 それからもモカのお説教タイムはしばらく続いた。

 何この共闘。私が怒るはずだったのに、なぜこうなった?

 でも――隣でモカと一緒にいるディルクを見て、少しだけ、この先も大丈夫かもしれないと思えた。


 お母さん。私、甘えられる大事な人、できたよ。

 

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