4話 出会い
庭先にある門を開けると、そこは全く知らない世界だった。周りをゆっくりと見回すと、白い宮殿、だろうか。海外のお城でよく見る回廊が見えた。
正面には、剣を携えた集団がずらりと並んでいる――囲まれてる。逃げられるようにと選んだ格好だったけれど、逃げ場なんてどこにもない。心臓が跳ねた。
『モカ、やっぱり声出ないかも』
驚きを表現しようと声を出そうとするが、喉の奥になにかが詰まったような感覚がある。異世界へ一歩踏み出しただけでこんな風になるなんて。抱っこしたモカに、教えてもらった念話で報告をする。
『それなら魔力をもらうことが最初だね。ボクが頑張るからね!』
気合いをいれるように頷くモカは、出た瞬間から白くなって驚きはしたけど、これはこれで可愛い。
呑気にそんなモカを見つめていると、前にいた美形集団がザッと勢いよく跪いた。
離れたところにいる制服の人たちもそれに倣って跪く。
「聖獣様、その主様。創造神ウィスティアード様よりご神託を賜り、お迎えにあがりました」
うわ、イケボ。声を出したのは濃い茶髪の男性。顔は見えないけれど、声の渋さ的に50代ぐらいだろうか。
私の腕から飛び降りたモカは、ポンッと音を立てるようにしてから着地すると、大きくなっていた。なんと、ポメラニアンが狼のような大きな白犬になったのだ!
『えっ、えっ、モカよね!?』
『そうだよ。もっと大きくもなれるよ』
私が戸惑っているのとは違い、モカは冷静そのものだった。
「創造神様はなんて?」
「聖獣であるあなた様とその主を害することなく縛ることなく自由に過ごさせよ、さもなくば天罰がくだると」
さっきまで聞いていたポメラニアンの時の声より少し低くなっているモカの問いに、跪いたままのイケボの人が答えた。
「うん。もしこの人を傷付けたらこんな国、一夜にして滅ぼすからね?」
ぎょっとしてモカを見るが、モカは正面を向いたままだ。それなのに、空気は揺れ、ビリビリと不穏な音がどこからか鳴り始めていた。
「っ! 私どもは、快適に過ごせるようお手伝いをさせていただければと思っております。そのため、いまの状況を整理するためにも移動してから改めて今後のことをご相談させていただきたいと考えております」
「うーん。それもいいんだけど、まずはママに誰か少しだけ魔力あげられないかな? あ、ママはこの人ね。あと、顔あげていいよ」
そう言われて跪いていた人たちが、小さくお礼を言ってから顔をあげた。
いや、乙女ゲームか! なんだその顔面!
先頭に立つのは、さっき話していたイケボの人だ。顔も物凄く整っていて、某イケオジ声優を思わせる雰囲気がある。他の人たちを見てみれば、眩しい。特に銀髪の人。黒地に銀色の刺繍がされているロングジャケットを羽織り、騎士っぽい制服を着ている。目がバチッと合ってしまい、慌てて逸らしてしまう。違う意味で見るに堪えない。
「魔力、ですか?」
イケオジの声に意識をそちらへ戻す。私のことなんだから、ちゃんと聞いておかないとモカにも怒られてしまう。
「ボクたちのいた世界には魔法がないんだ。だからいま、ママは一時的に声が出ないんだよ。魔力が新たに形成されて詰まっている状態だよ」
「それでしたら治癒師をお呼びしましょうか」
キラキラ輝くプラチナブロンドの人が初めて口を開いた。その人は、白を基調とした金色の刺繍が施されたきらびやかな衣装を着ており、The王子様って感じのものすごい美形だ。
「この中に相性の良い人がいなければお願いしようかな。とりあえず、1人ずつ挨拶ついでにママに魔力あげてみてくれる?」
「承知いたしました。では、まずは私の護衛から」
プラチナブロンドの人に呼ばれて私の前に来たのは、双子かな。そっくりの明るい赤髪の可愛い系イケメンだ。
「初めまして、聖獣様とその主様。私の名前はロクと申します」
「私は、ロキと申します。ロクとは双子で、私が弟です」
二人は人好きのする笑顔でにこやかに挨拶してくれる。私は二人に返事代わりに会釈をする。
まずは、ロク君から手を差し出されたのでそこに自分の右手を軽く乗せるが何もわからない。私が首を傾げると、交代でロキ君も同じ行動をしてくれるが、結果は同じだった。二人ともしょんぼりしてしまった。
その後、イケオジ専属護衛騎士で明るい茶髪の爽やかイケメンのクィンさんも同じことをしてくれるが反応がない。クィンさんと大神官長様は、魔力だけでなく、神聖力まで試してくれたが変化はなかった。項垂れる大神官長様を見て申し訳ない気持ちになるが、どうしようもない。
「私はこの国、バナード王国王太子のリオレスと申します。あなたと聖獣様のことは丁重におもてなしするとお約束いたしますゆえ、なんなりとお申し付けください」
The王子様の人は本当に王子様だった! 妹の朝陽華が好きそうだわ。
これまでと同じように手袋越しの手に自分の手を乗せると、少し変化があった。慌ててモカの方に向く。
『モカ、少し暖かいものが掌に感じるんだけど、これが魔力?』
『そうだよ! で、声は出る?』
あーと声を出そうとしても掠れて声にならなかった。
「少しは反応があったようですが、私ではダメなようですね。最後は彼になりますが、彼は我が国で一番の魔力持ちです。もし、彼がダメであれば国中からほかに魔力の多いものを集めさせますのでご安心ください」
チラリとその銀髪の人を見る。彼は、この魔力確認が始まるとき一番後ろに下がっていた。その行動がどういった理由からなのかわからないけど、もしかして嫌われているのだろうか。でも言葉すら交わしていないのに?
殿下に促されて渋々、彼が私の前に立った。
え、人間? 同じ人間でこんなに綺麗な人を見たことがない。瞳の色は宝石のタンザナイトを思わせる色だ。背もこの中では一番高い。そして、妙に色気のある人だ。大丈夫かな、この人。こんな色気で騎士が務まるんだろうか。
「……あの?」
ハッとする。そうだ、いまは集中だ。頭を下げて謝罪の意を伝えると、目の前に手が差し出された。顔を見上げると、彼はなぜか苦渋の表情を浮かべていた。
「……私は、リオレス殿下の護衛で第二騎士団団長を務めておりますディルクと申します。お手をお借りしても?」
コクッと頷いてからそっと手を乗せると、一気に暖かいものが流れ込んできた。
「わっ!」
びっくりして思わず仰け反りそうになると、その手を引かれるようにして支えられた。その視線を辿れば驚きに満ちた彼の顔と、同じように驚愕している他の人たちの顔が見えた。
え、なんでみんな驚いて固まっているの?
「ママ、今のは大丈夫な気がする。声は出る?」
「あっ、そうよね。確認しないと……って出てる……!」
驚いて喉を押さえるようにすると、モカも喜んでくれた。喉の詰まりもなくなっていた。
そのまま振り返り、お礼を伝える。
「あの。おかげさまで声が出せるようになりました。ありがとうございました。皆さんもご協力ありがとうございました!」
頭を下げながらお礼を伝えるが、みんな固まったように動かない。なんだ、時が止まったのか? 魔法か?
私が困惑していると、少し離れた場所から小さな声が聞こえた。
「……へぇ」
殿下が面白そうな目で私とディルク様を見ていたことには、この時の私は気がつかなかった。




